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風香  作者: sella
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颯声

彼は彼女と出会いました。

理不尽な現実と理不尽過ぎる存在を抱え、二人は生きていかなければいけません。それが一方的な関係であっても、どんな立場に置かれようとも。


あの夢の中で精一杯に生きようとした風香に、この文章を捧げる。


 七月三十日 芳野無花果


 今日から日記をつけることにする。といってもこの日記はおよそ不定期で、必要事項が発生しない限り、書き綴ることはない。それは全て風香の成長記録でもあり、俺の今後の予定にもかかわってくる重要なことを書き留めることになる。彼女に足りないもの、必要なものをここに書いておくことで、後に教えることに必須となる教材等を買うためとなるはずだ。

 まず今日わかったことを書き記す。

 健康状態は最悪。口内は炎症が広がり、左の膝関節に触れてみると僅かに顔を顰めていた。最低限の手当てはしているものの、病院などの適切な処置は行っていない。これは風香という女が既にいないことを前提として話が進んでいるため、保険証、住民票、その他最低限の衣類以外は、何も所持していないことから、国の手当てを受けることができないためだ。しかし逆に考えれば、彼女の存在が認められていないということで、何らかのアドバンテージが得られることがあるかもしれない。それが今まさに風香と同棲をしている最たる理由だということを、改めてここに記しておこう。

 状況もあまり芳しくない。風香がどれほどの教育を受けているかはわからないが、言語をほとんど理解できないほどの知識しか持っていない以上、今後の過程で言葉を覚えさせなければならないだろう。単純に、言語を習得しているいないによって、顧客に対する対応が変わってくる。最低限でも二カ月以内に終わらせる必要がある。

 さらに風香は女だ。男であれば勝手がわかるが、女となると生理といったものが定期的にあるため、そのあたりについても俺個人として知る必要がある。これについては近日中にでも調べ上げる予定だ。顔には大した傷は見当たらないが、身体には青あざも見受けられる。化粧用品とて買いつけなければなるまい。

 最も彼女が知り得ていることは性の知識に関してだ。自慰行為に及んでいるのは健康の証拠だからと考えるべきかは判断しかねるが、まずいと思った時には止めさせるべきだろう。外見から想像するに、まだ彼女は二十歳前半だ、慣れさせ過ぎれば毒にもなる。無論、彼女の我慢にもよるが。

 衣類については特に問題はない。インターネットで購入することもできる時世、どこぞの喫茶店を利用すれば住所を入力するだけで注文品が届くのだから、そこまで注意を払う必要はないだろう。

 食事に関してはヨーグルトを与えることにした。前述したように口内炎のため、まともな食事をするのには暫くかかる。そのため冷えた米と野菜、ヨーグルトで栄養源を補給することにする。しばらくして炎症が治まれば、適時に食事を変えていけばいい。

とにかく今一番に問題なのは、言語の習得。人形として扱うのであれば言語など必要ないが、あればあったにこしたことではない。商品として出すのは二カ月以上先、程度にもよるが、半年は覚悟しなければいけないだろう。幸いにも蓄えはまだある。教材を買い、読み書きができるようになれば商品として普通となるはずだ。

 さて、初日の日記にしてはすさまじく業務日記ではあるが、それも仕方がないだろう。自慢じゃないが日記を書くなんて小学校の夏休み以来のことだ。特に書くことなんて、今日の天気が良かったなどのつまらないことしかない。まるで成長しているのか分からない植物の観察を日記にしたところで、一体どう書けばいいのか、謎だ。

 だが今回は植物の観察ではない。女の売りを観察する日記だ。人がこれからどういった成長をして、新しい感情の瞬間を目撃したとあれば、それを日記に書いていく。時間で考えれば長いだろうが、書くのが不定期であればそれも短い。今後も彼女がどういった様子で成長していくか。未来の俺は初めの日記を見て何を考えるのか。少し楽しみだ。


   三.


 時期も八月後半に入ってきたころ。

 暑さも大分弱まり、セミの鳴き声が遠のいて間もなく、今度は鈴虫たちが合唱の準備を始めている。雨が降り終えた日の夜、ひやりとする静かな野原の中に、カエルやコオロギ、クツワムシもいるだろうか。とにかく夜を散歩する時は、嫌というほどそこら中から鳴き声が聞こえてきた。

 電気代の掛かるエアコンも最近では鳴くことを止め、雨の降らないむしむしとした夜ならば、今度は扇風機が代わりに鳴く。虫たちが風情たっぷりに過ごしているというのに、近代の日用品で鳴き声を楽しむとあれば、よほどの変わり者と言えるだろう。

 最上川にかかる橋を越え、生活用品店で新たな日用品を買い終えて帰る頃には、そんな風情豊かな虫たちが人々を出迎える。煩わしいとさえ思えるこの合唱も、地元の人間からすれば日常的なことだ。

 家に帰れば、テーブルの上でせっせと真面目に文字の書きとりをしている風香がいた。

 ただいまという言葉も言わず玄関を跨ぐと、それからすぐに俺がいることに気づいて、一言鳴いた。

「おか、えり」

 俺からすれば、虫の鳴き声や扇風機の声よりも風情のある声だった。

 風香を拾ってから一ヶ月。風香もある程度の言葉を覚え、ようやくひらがなを書ける程度には知識を快復してきていた。

 といってもまだ「おかえり」と「おはよう」などの日常的な言葉を、疑問交じりに言えるくらいでしかない。読み書きを重点的に教えていても、まだそれが正しいのか自分でも判断できていないのがわかる。

「ただいま」

 そう答えると、今の言葉で正しかったんだと安心するようだ。再び書き取りに戻る横顔は、作業を言いつけられた社会人にも見える。

 風香、と俺が呼ぶと、すぐに書き取りを止めてこちらを振り向いた。

「口を開けろ」

 小さく開けた口に指を入れ、内部を窺う。口内炎も大分収まり、白かった舌も赤みを帯びてきていた。これなら食事を取っても大丈夫だろう。

 今までゼリーなどの飲み込みやすい食べ物を、今度は噛む必要のある固形物にするのは少し勇気がいる。自分の身体ではないのはもちろんのこと、いきなり与えて異常をきたさないか。それだけが少し心配だ。

 風香の身体を顧みれば、血色も良くなってきているほうだと思う。ばさばさだった髪も整ってきたし、やつれた表情にも幾分、温かみが帯びたといっていい。懸念することとすれば、ほとんどが俺の手によって与えられてきたということだが。

 冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、風香の手にスプーンを握らせる。

「風香、食べてみろ」

「……ん」

「スプーンを使って食べるんだ。わかるか?」

 ぎこちない手つきでスプーンをヨーグルトに刺し、引き抜く。

 ヨーグルトの固形は、スプーンの上を滑り、風香の口にたどり着く前に落ちてしまう。あらかじめ用意していたタオルで口元を拭いてやり、もう一度と食事を促す。

 しかしまた膝の上へ落としてしまう。

 一ヶ月という時間で彼女に教えてきたことは、果たして遅いんだろうか。この一ヶ月間、とにかく話せるようになる程度にはと思ってきたが、こうもだらしなくされると、どうにも結果が伴ってきていない気がしてしまう。風香に悪気はないんだろうが、もう少し工夫した方法があったのではないかと、疑念に捕らわれる。とはいえ、先輩の家ではどういった生活を送っていたかなど解る筈もなく、俺は俺なりに風香を育てるしか、方法などない。

「スプーンを縦にするから落とすんだ。ほら、こうやって――」

 まるで上手くいかない風香の手を握りながら、持ち方を指南する。初めはこうすることで継続的な成長を見せていたが、一週間ほどするとすぐに忘れてしまうようで、食事を零すようになってしまった。無理もない。睡眠以外の時間はこうしてほかの勉強をしているんだ。会話といった習慣はついてきたとしても、物を持つ、食べると連動させる行為は、まだ慣れないんだろう。

 俺が家に居ない場合、彼女の健康を気遣う人間がいなくなることに一抹の不安がある。それを解消するための行為でもあるんだが。

 ただもう一つ懸念がある。

「風香、弄るのは止めろ」

「……ん」

「食事中に触るな。我慢しろ」

 食事をしていた手がスプーンを離れたと同時に、自然な動きのままで手を伸ばしてくる。それが叶わないと解れば、自分のものを触ろうとする。一ヶ月経ってもまだ、彼女の日常だったものがこうして残滓として現れる。

 性的欲求が高すぎるのは都合がいいものの、癖になってしまえばそれはただの奴隷だ。自我の持たない欲求の奴隷なんてものは、そこら辺にうろついている盛りのついた犬と大差ない。目的を持っている、総じて賢い奴らは、「自分が女であること」を最大限に利用し、相手から高く金を巻き上げることのできる力を有効に使うことができる。

 俺にとってまず大切なのは、風香が人間であること、そして女であることを自覚させることにある。別段自慰行為に関して善悪をつける気はないが、この数日間ばかり盛りがつきすぎている気がある。何度か夜寝ているときに求められることがあったが、手錠をつけるまでは至らないものの、あまり状態が安定しているとは思えない。

 何より最近呻くことが多くなった。彼女の夢の中に何が出てきているのか想像もできないが、濡れタオルを額に当ててやると目を開けて、うっすらと笑うようになった。これもどういった意味の笑いなのか、判断に困るところだが。

「ほら、もう一度やってみろ。スプーンをもって――」

 自由になっていた右手でスプーンを握らせると、今度こそヨーグルトは自由落下せず、そのまま滑らかに風香の口へと収まっていった。よくやったと頭を撫でてやると、撫でる手をじっと見つめ、それからまた同じようにヨーグルトを口へ運ぶ。また撫でてやると、今度は気づいたように目を細めた。どうすればいいか理解したんだろう。

 食事を終えて電気を消すと、蛍光灯の揺れる紐に反応してか風香の身体も揺れ出した。気持はわからなくもないが、体調が良くないのを鑑みて窘めておく。ぱったりと毛布の中にくるまったかと思えば、呼吸が聞こえてこないのが不安になるくらい、動かなくなった。

 そろそろ一か月近く風香と一緒に生活しているが、どうにも彼女の行動には一貫した理念がないらしい。こちらから命令しない限り動かないこともあれば、自分から突然水を飲みはじめたりする。それもコップに注がず、流れ出る水に舌をつけるようにしてだ。

 他にも食事をする際手を使わない、トイレに行く時は必ず俺の許可をねだってから行く。自主的な行動は、生きるということ以外まるで回無だった。

 教育者が多岐に渡れば、その育成方法は千差万別だ。どれも基本的な位置づけは変わらないが、共通して独りよがりのことばかり教えたがる。自分こそが正しい、自分のやっていることに、間違いはそうないだろうと自分勝手を押し付けたために、風香のような奴隷ができてしまったのだ。もともとキレイな顔立ちでもあるし、スタイルも悪くない。そんな女が自分の好きなように扱えるのであれば、馬鹿なことをしでかす輩もいただろう。

 寝返りを打つついでに風香を見ると、目が合ってしまう。はだけそうな寝間着に吸い込まれそうな群青色の目、微笑む表情を作られては、妙な心を持たない方がどうかしているだろう。窓から差し込む月明かりが、風香の美しさをこれでもかというほど魅力的に引き立てていた。

 それでいて女の方から迫ってくるとあれば、何を断る必要があるだろうか。

「寝ろ。明日も朝から勉強だぞ」

 勉強という言葉はまだ分からないだろうが、寝ろという言葉に明らかな落胆を覚えたのは成長の証だ。そっけない態度をとって目を閉じると、身じろぎをする音をたてた後、静かになった。

 数十分して身体を起こし、風香が起きないことを確認すると、冷蔵庫から買っておいたビールを取り出した。窓越しに映る月夜と虫たちの声は、肴にするのに十分な味だった。

 壁に背を預け、明日何をするかと考える。やるべきことはたくさんあるが、手が回っていないというのが現状。いや、その考え方は逃げだ。単に仕事のない楽な生活が、心にあった隙間を埋めようとしている。日々怠惰になっていく自分を正当化しようとしているだけの、愚かな考え。

 誰かを餌にして自分が楽をしようとするのは、人として当たり前の行動と思ってきた。利用する、利用されるといった個人能力の差は絶対に存在する。会社でも、会社が築いてきた小さな作業を、さも自分たちが全て開発したといわんばかりに宣伝する社会。結果ばかりを追い求めて成功する奴の陰に、汚れ仕事を必死にやっては表舞台にも立てない立役者たち。

自分のように片腕を失っては、会社の面目を保つために切る上司。これは能力関係なく社会の仕組みとして割り切れるが、それでも金で解決を図った会社に良い思いはしない。

 上の立場から下の立場へ。奈落に落とされた気分は、酒に酔って払拭できるほど、容易いものじゃなかった。自分から動こうとしても、何かが自分の足に絡みつき、重みを増していく。動かなくてもまだ大丈夫という漫然とした気持ちが、望んでもいないのに背中に張り付いている。そういった焦燥感にも似た感覚は、病院にいたころから既にあったのかもしれない。

 あの日、先輩の言葉を聞いてすぐに飛びついてしまった俺はひどく単純に見えただろう。表の職業が表面を取り繕い、流したくもない汗を作るものだとしたら、裏の職業は頭が資本だ。賢く人を騙す。ずる賢さを持ち合わせなければ、単なる自殺志願者と変わりはないのだ。

 そう考えれば、風香だって決して安全な道具ということはない。素性も知れない女、加えて裏社会に属していたとすれば、どんな繋がりがあるものか。簡単に想像しては、それ以上だろうと、常に最悪を想定した行動を取らざるを得ない。

 そう。この米沢で、彼女を知っている人間が少なからずいるかもしれないのだ。先輩がどういった方法で風香を売りに出したのかは明言していないが、先輩は俺と同じようにパソコンを使う柄でもないし、かといってチラシを撒くといったことはしていない風だった。

 口コミという線は薄いだろう。風香の風貌からして、安く見られる女ではない。マニアにしか受けなくなるという言葉を使っていたことを考えれば、あまり褒められた稼業に就いている奴らには知れ渡っているのかもしれない。であれば、彼は彼の独自によるルートがあったと考えるべきか。

 確かに一般に出ている女というのは、少なからずバックアップが潜んでいる。一種の保険のようなものでもあり、商品を傷ものにされたときの処理係として、普段表に見えてこないだけだ。

 その点、風香の身体は痣だらけだった。一日二日で作られるようなものじゃない、もうずっと前から出来ているようなものもあれば、治りの遅いものも確認できた。

 ようやく彼女の一辺が見えてくる。風香の生まれについてはわからないが、先輩氏は何らかの経緯で彼女を手に入れ、同じ経路を使っては彼女を使って金を儲けていた。それもかなり荒く、壊れる寸前まで使い込んでから捨てたと考えるのが妥当か。

 小さくため息をつき缶に口をつけたところで、飲み干していたことに気がつく。それほど飲んでいた覚えはないんだが、意外と進んでしまったらしい。今日はもう一本空けようかと立ち上がる時に、ふと風香の顔が目に入った。

 うなされている?

 首を振りながら喘ぎ、胸を苦しそうに抑えていた。どうしたのかと肩を掴み起こしにかかると、憑かれたように目を見開き、

「ああぁあぁぁあぁっっ!」

 狂った声を上げて、あとずさった。


「まあ聞いた限りだと、統合失調症じゃないかなあ」

 南米沢駅から徒歩数分と歩き、小さな診療所が点在する。大きな病院は駅から離れたところにあるため、そこまで行くことのできない人たちが立ち寄る場所として、簡単な治療を施してくれる。

 あくる日、失った腕の治療をしてもらいに訪れた診療所で、ついこの間起こった彼女の顛末を聞いてもらった。あの時、風香は最初こそ酷く怯えたように膝を抱え、部屋の隅で何かを怖がるように震えていたが、しばらくすると何事もなかったとばかりに俺を見つめては、また布団に入り、眠りについた。

「僕は精神科医じゃないからそういった話をされても困るんだけど、最近になって表れてきたなら大体がストレスが原因じゃない? 急激な環境の変化なんかにも対応しきれなかったりするとよくあるみたいだけどね」

 声を遮るように、雨が窓をたたいた。

「具体的にどうしてやればいいんですか」

「一概に答えられるわけがないだろう。どの程度キているのかはわからないが、軽度であれば精神安定剤を服用して抑制することができるし、重度ならば入院しなければいけない。外傷だって、軽度であれば治っても重度だと治らないさ」

 君のように、と寒河江先生が付け足した。

「微妙に例えが間違ってません? 精神に肉は付いていないですし、元に戻ることだって可能ですよね」

「そうとも限らない。僕みたいな医者がこんな話をするのも変だけど、治るのと治すのは全然違うんだよ」

「……はっ?」

「言いかたを変えようか。精神を安定させて自ら治癒を導くやりかたと、強引に精神を高揚させて、状態を保つやりかたは、まるで違うってことさ」

 おもむろに立ち上がり、戸棚の中にしまってあるものを持ってくる。見れば木でできた球体が二つ。一つはところどころに小さな傷が目立ち、もう一つは大きな傷があるだけで、細かい荒はない。

「医者とはなんだと思う?」

「医者とは、……何でも治す人ですか?」

「そう。傷をついた人を治すのが職業だ。どんな傷であれ、医者は治せて当然。失敗はあれど、必ず元に戻せると、みんな思っている」

 まあ、そりゃそうだ。医者は人を治すためにいるわけだから、その医者が治せないと謳っていては、誰も彼を医者と呼ばないだろう。

「目の前に二人の患者がいたとしよう。一人は多くの外傷を浅く受けたもの、もう一人は一つだけの外傷を深く受けたものだ。君は医者で、この二人を治さなければいけないとしたら、どうやって治そうと考える?」

「どう、と言われても」

「一般的な治療方法とすれば、小さな傷、転んでできたようなものは、消毒でもして絆創膏張っておけば治るさ。自己の治癒で治せるものであるならば、治した方がいい。だけど一方の深い傷を負った人は、自己治癒するにしても深すぎるわけだ。そういった場合に限り、我々のような医者が必要になる。この深い彫りが入った球体を人と仮定した場合、我々はペイントを施すんだ。つまり、堀を埋めてあげるってこと。ここまではいい?」

 しっかりと吟味してから俺は頷いた。

「球体が転がるのを時間の経過と考えるなら、球にできた傷は床との摩擦によって削られていく。大きな傷は色を塗っているから、治っているようにも見える。けれどそれは治っているように見えるだけであって、実際には外傷が残っているだろ? 球は人生が終わるまで転がり続け、いつかは彫りが消えたように勘違いする。その時が本当の意味で治った。ほら、この時点で腕は元に戻っていないけど、その人が生きる分には不自由ない程度に治ったよ」

 なるほどなあと、なぞ解きを丁寧に解説する先生に感心してしまう。

 事実の上で治るという言葉を使えば、生活において不自由のない程度に快復を果たすことを完治と呼ぶに相応しい。仮に義手や義足を取り付けている人たちを快復したかどうかと判断するならば、答えはイエスだろう。腕足の変わりに取り付けた機具は、確かに治すための役割を果たしているからだ。

 しかし腕の治療が終わったからと言って、トカゲのように腕がまた生えてくるかといえばそうじゃない。失ったものは生えて来ないし、それ以上の治癒も見込めない。厳密に言えば、治療の限界がそこにある。

「言葉を巧みに使えば、治せない病気なんてない。そいつはつまり、死すら容認してしまうことでもあるんだからね」

「先生の言っていることはわかりました。ですがそれとさっきの話とどんな関係があるんですか?」

「うん。今僕が言った話は外傷を得た場合についてだけど、今度はこいつを精神の病気に置き換えるんだ」

 球を転がしながら、寒河江先生の眼はカルテを見ていた。

「精神の病はいわば癌だ。放っておけばそいつの人生を蝕みかねない、かなり悪性を秘めた毒でね。初めは小さな傷だったのに、気が付いてみれば大きな溝を生み出している。そんなことが精神の世界ではざらなんだよ」

「毒、ですか」

「ふふっ、医者がこんな言葉を使うのは相応しくないかな? だが毒を以て毒を制すという言葉もある。その毒に値するのが、医学が誇る薬たちだ」

 木の球を先生は前に突き出し、手を放した。落ちていく球はやがて地面と衝突し、傷の具合から右へ左へと蛇行しながら、あらぬ方向へと進んでいった。

 つまりこういうことだと先生は言う。

「精神の病を治すには、時間との戦いでもある。長い年月をかけて治すものもあれば、別の何かに集中させて、考えさせないといった方法。もっとも、時間をかけている最中は患者が過敏になっているわけだからね。慎重な判断が求められる。だがこれを薬という毒が患者の内部に侵入したとすれば? 薬は患者の精神を蝕み、元ある状態へと戻そうと強引に働きかける。患者は戻ったと勘違いし、昔と同様精力的な行動を取るようになる。まあ、これは精神論でもあるんだ」

「でも、そういった精神論は昔から伝えられていますよね」

「今ではれっきとした病気とされているけど、昔は精神科医というものをあまり重要視されていなかったからね。ともかく、浅い傷というのは得てしてそう治すものなんだ。腕の方はもう痛くなくなったかい?」

 突然自分のことに話を振られ、戸惑ってしまう。

「大丈夫、ですけど」

「ならいい。化膿したら大変だからね。それじゃあ今日はここまでにしようか。また一ヶ月くらいしたら来なよ。痛くなったらでも同様だ」

「先生、深い精神病を患った例えをしないんですか?」どうにも腑に落ち切れない言葉をした先生に問いかける。「もう少し聞いてみたいです」

「話していたいところだけど、次の患者が待ってるからね」

根を下ろしていた腰と椅子がゆっくりと離れた。

「じゃあこれだけ答えてください。精神病患者に対して、有効な治療方法は?」

「簡単なことだよ。精神が病んでいるんだから、精神に効く方法を取ればいい。もちろん痛みを理解してやれる人がそばにいることが、何よりの治療になる」

 最後に先生はそういい、俺は病院を後にした。

 冷房の効いていた室内から出れば、たちの悪いサウナに放り投げられたように熱気に包まれる。暑さから逃げるように小走りで日陰に逃れ、来月の生活費を下ろしに銀行へと向かった。

 寒暖を繰り返した頭をくらくら揺らしながら進む。一時間以上来ない電車が珍しくタイミングよく来るようで、通路を封鎖する踏切が甲高い音を鳴らす。肌色の電車が、成島駅のほうからゆっくりと通り過ぎる。そういえば去年行ったダリア園は成島の先だったっけ。

 手ぶらのまま帰るのも何なので、近くのスーパーで酒を買う。途中ジュースと総菜のパックを乱暴に籠に放り投げ、普段傾いている身体をさらに傾けて、大通りを進んだ。

 ようやく家に帰り一息つくと、風香がまたいつもと同じようにこちらを見て一言、

「おか、えり」

「ただいま」

 言ってからバカらしいと考え直す。余計な感情移入は無駄なことだというのに、何をしているのかと、自分の心に叱咤した。

 しかしこいつが自分のいいなりになるためには、物の善悪を区別させることが一番良い。そのためにはまず、小さなことを教えていくことが大切だ。

「風香」と、呼ぼうとした。医者から聞いてきたことを実践させるには、俺だけが勝手に連れまわすのではなく、風香の気を引くのが重要だと思ったから。

 だが普段なら座って座学をしている彼女が、今日は珍しく俺の前にやってきて、その両手に分厚い紙の束を差し出してきていた。

 なんだと手を伸ばしてみれば、それは俺が与えた教科書をすべてやり終えた、書き取りの証拠だった。

「全部、書いたのか」

「うん」

「書き忘れはないだろうな?」

「かき、わすれ?」

「書いていない字だ」

「うぅー……」

 風香は俺の言葉がわからないのか、首をかしげて困った顔をした。多分自分が書いたものに、忘れているものがあるか確かめていないんだろう。小さな書き忘れがあったところで、本人が気づいていなければそれは忘れていると大差ない。

 とはいえ、俺はこんなにも早く終わらせる彼女に驚いていた。もっと時間がかかるだろうと括っていたし、知識がまるでなかった彼女がここまで順応できるとは予想していなかった。

 紙を数枚めくってみる。キレイな字で、ひらがなとカタカナ、簡単な漢字を綴っていた。

 振り返れば、風香はどうだろうと採点を求める子供のように見上げていた。

「よく頑張ったな」

 頭をくしゃくしゃと撫でてやると、風香がいやいやをするように頭を振る。思わず放してしまうと、今度は少し悲しそうに目を見開いて、俺を見上げた。もっと激しいくらいにしてほしいということだろうか。

 しかし激しくしようと優しくしようと、風香はただいやいやと頭を振り、こちらの手を払ってしまう。悩む俺を覗き込むようにしている身体が、気づけばもう触れるか触れないかのところまで来ていた。もしかしなくても、きっと風香はそのもしかしてを望んでいるんだろう。

「キスは駄目だ」

「きす?」

「唇を合わせることだ。こことここ」人差指でした唇を抑えると、ことさら残念そうに風香はへこたれる。そんなにしたいのだろうか。

「自分が売り物だっていう自覚を持て。何かを強請る男は俺じゃないんだぞ」

「うぅー……」

「また新しい教科書を買ってきてやる。今度は少し難しいやつだ」

「きょーかしょ、むづかしい?」

「これよりもっと考えるものだ。それより」ようやく本題に入る。「少し出歩くぞ」

「ん?」

「外に出るんだ。自分で服を着替えられるな、さっさと着替えるんだ」

 冷蔵庫に買ってきたものを詰め込んでいる間、風香を部屋の中に閉じ込める。服はあらかじめタンスの中にしまってあるので、自分で出せばすぐに着替えることはできるだろう。冷蔵庫にすべてしまい、玄関の入り口でなんともなしにボーっとしては待ち続け、たっぷり十分程度待った頃になって、まだなのかと再び部屋の戸を開くと、そこには上着だけを着てズボンを履いていない風香が座り込んでいた。

「何をしている」努めて冷静に言葉を紡いだ。「着替えろと言ったはずだが」

「ん?」

「ズボンはどうした」

「あーう」難しい言葉を初めて使うように、表情がコロコロと変わった。「きれない」

「ズボンが履けないのか?」

「うん」

 そういえば彼女は膝を痛めていたか。とはいえ痛くない膝の方を曲げれば履けそうなものだが。

「わからない」

「あー、ズボンを履くのは初めてか」

「うん」

 普段着として風香に着せているのは、寝間着やワンピースなどの軽装ばかりだ。その服も今日に限って洗濯物に出しているし、起きてからずっと寝間着姿だった彼女にジーンズを履かせるのは、これが初めての経験かもしれない。

 だが以前にも外出する際にはズボンなどといったものを履いているはずだろう。もし彼女が普通の思考を持ち合わせているのであれば十分嘘だと思慮することもできるが、嘘をつけるような自我を持っているかは非常に怪しい。ともかく、これ以上待つのはごめんだった。

「ボタンのある方から足を入れるんだ。痛い足から入れるんだぞ」

「うー」

「違う腕じゃない、それは上着じゃないんだ。まずは裾を持ってから足を……って、おい、これ見よがしにパンツをこっちに向けるな」

「うん」

「さっさと履くんだ。……だからなぜパンツを脱ごうとする? パンツを履いたままでズボンを履け」

「ぱんつ?」

「お前が今脱ごうとしているもんだよ。まずはズボンを履け、出るのはそれからだ」

 どこまで本気でやっているのかわからなくなりそうだ。今の行動だって悪意などないのだろうが、彼女が俺を『客』としてまだ考えている、もしくは『主人』として接してきているとしても、必要以上の接触を図ろうとしているのがありありとわかった。

風香の精神面を想うのであれば、近いうちに何らかの対処法を考えるべきかもしれない。精神が壊れてしまっては、いくら肉体があったところで人としての悦びが無くなってしまう。つまり、犬と呼ばれたあの風香にまた戻ることを意味しているのだから。

「着替えたか」今度はズボンを履いたことを確認して、手を引く。「さっさと行くぞ、時間が惜しい」

 目深の帽子を風香に被せ、駅へと向かう。足の悪い風香が俺の右腕にひっつき、必然とゆっくり歩くことになるが、不思議と嫌な感じはない。電車の時間もまだあるだろうと予測をつけ、川沿いで遊ぶ子供たちを横に、気まぐれに話しかけた。

「風香」

「ん」

「自分の名前を言ってみろ」

「いぬ、ふうか」

「犬じゃないだろ、お前は芳野風香だ」

「よしの、ふうか」

「そうだ。勉強は楽しいか?」

 たのしい? と首を傾げてから、風香は俺を見た。

「べんきょう、たのしい」

「たくさん考えるか?」

「かんがえる、べんきょう、たのしい」

「もっと勉強したいか?」

 橋を渡り終えて、病院を横切る。

「もっと? もっと、わ、たくさん?」

 初めて風香が聞き返してきた。

「ああ、もっとはたくさんということだ」

「たくさん、もっとべんきょう」風香は自分が言った言葉を吟味するように、何度も繰り返した。あれでもない、これでもないと自分で考えながら、正しい言葉を探しているんだろう。

「もっと、たくさん、べんきょう。……うん、べんきょう、もっと、べんきょうしたい」

 意気込んだ声で答える風香が、俺の腕を少し強く握り込んだ。 駅につき、二人分の切符を手に米沢線へと乗る。電車は田んぼと山を越え、山形駅で降りては奥羽本線へと乗り換えて、目的地である天童駅へと到着した。二十も後半になれば、ベタベタとくっつく姿が珍しいのだろうか。周囲の視線がやけに集まっては、係わりあいたくないと思ったのか、ホームの奥へと埋もれていった。

 降りてはタクシーで向かうこと十分程度で下車し、俺と風香は一つの建物に入った。物々しい外観の下で風香に「ここに入ったら絶対に俺以外のものに触るな」と注意を促し、指紋の見当たらない自動ドアをくぐると、隣で風香が感嘆の声を漏らした。

 玄関を潜れば、そこは六畳一間のような狭い空間などではなく、巨大なホールだ。

 白い天井は高く、そこかしこに清潔感の漂う木製の機器と音色が響いている。丁寧な受付でチケットを購入して歩けば、静けさの中に響くスローテンポのメロディが、館内にいる客、全てを魅了していた。

 声を大きくして騒ぐかもしれないと懸念していたが、どうやら杞憂だったようだ。窓ガラスの向こうに飾られているオルゴール群を眺めている風香は、しっかりと俺の腕を取っているものの、とりたて喚くことはない。今のところは。

 小声で説明文を読んでやりながら、少ない人の波に乗りながら歩く。そのほとんどを風香は理解していないだろうが、これはいわばリラクゼーションを促すための行為だ。壊れている彼女の心に癒しを与えるという、必要なこと。つまり、精神の治癒に繋がる。こういた目新しいことが風香の心をどのように動かすのかはわからないが、ずっと家に篭らせるのもまずいだろう。感受性を受ける幼年期ほどではないにしろ、実際に目で見たり聞いたりするものは教科書に載っていない。こうやって新しい何かを実感させるのは、とても大切なことだ。

「おー」

 しかしどうやら彼女なりに、興味を持ってくれたようだ。手前に掲示されている説明文を前に、唸るような声を出しながら一生懸命に読もうとしている。文章にはカタカナはもちろんまだ教えてもいない漢字が含まれている。これでは分かれという方が無理だろう。

「ストリートオルガンだ。簡単に言うと街中で気軽に聞ける大型の手動蓄音器だな」

「ん?」

「歩く機械だ」

「きかい? きかい、わ、なに?」

「人が作った道具のことを言う。不思議か?」

「どーぐ、ふしぎ。ふしぎ? ふしぎ、わ、よく、わからない?」

 指を絡めながら、風香が聞く。

「そうだな。不思議はそういう意味だ」

「ふしぎ。どーぐ、わ、きかい。……うん。きかい、わ、ふしぎ」

 ゆっくりと館内を歩き回り、少し休もうと休憩所へ向かいがてら、小さなオルゴール売り場に通りかかる。手軽に買えそうな小さなオルゴールや、冗談じゃない値段もするオルゴールがケースに詰められ、買い手を賑わせている。椅子に座りながら眺め見ることのできる場所であるため風香も口にはしないものの、運ばれてきたケーキには目もくれずオルゴールをチラチラと気にしている。

「我慢しろ」

「あーぅ……」

 主人に言われたとあれば我慢しないわけにはいかないだろう。オレンジジュースをゆっくりと飲みながら、バレバレの気のないふりを今はただ続けている。それもまた少しすれば我慢できないとばかりに気にし始め、また窘めることになるのだが。

「我慢しろといった」

「うー」

「言うことを聞け」

 すると、風香の雰囲気が変わった。感情の無い仮面を被りただ言われたことだけを黙々とこなす、小さな笑みを零すだけの……風香だけの特別な人形を演じ始めた。

「そうじゃない」間髪入れずに言う。「言うことを聞くのと、能面を被るのはまるで違うんだ。わからないか?」

「…………ぅ」

 手元に残っているコーヒーを風香の前に差し出す。風香はただそれを眺め、それからゆっくりとカップに口をつけた。

「おいしくないか?」

「……おいしい、じゃない」

「それじゃ、今度はそっちを飲め」

 今度は風香の分であるオレンジジュースを飲ませる。

「甘いか?」

「うん、あまい」

「さっきより?」

「さっき、より? あまい」

「コーヒーを飲んだからな」

「こーひー?」表情を和らげて、風香が聞いてきた。「こーひー、なに?」

「さっき風香が飲んだ飲み物だ」涼しげにカップを傾けながら言う。「苦いものを味わったあとの方が、おいしいだろ? 我慢はそういうことだ」

「がまん、わ、むづかしい」

「はじめから出来るとは思っていない。だが慣れるようにするんだ」

 面白そうな道具をお預けされているとあれば、飼い犬だって涎を垂らす。しかしそれはペットが行うことであり、風香はペットではない、人間だ。我慢を表情に出さず、気のないフリができて、人としての良識を持つことができる。

 いそいそとオレンジジュースを飲み干した風香が、こちらの一挙手一投足を凝視している。カップを傾け、まだ中身があるのを知ると落胆し、しかし次こそと羨望の目を向ける。

 たっぷり十分は経過したところで、ようやくコーヒーを飲み干すと、今度は控えめに目線を送り出す。ようやく人に対して効果的なねだり方を覚え始めたようだ。

「どうした、なにか物欲しそうな目をして」簡単には要求に応じない。「言いたいことがあるなら言ってみろ」

「うー」

「言葉が使えるようになったなら、今度はそれを有効活用しないといけないな」

「あぅ、ふうか、がまん、した」

 そうだな、我慢できたのは人として当然のことだ。褒美に撫でようとすると、そうではないとばかりに手を振り払う。

「みた、い」

「何を見たいんだ?」

「きかい、みた、い」

「機械っていうのは、なんだ?」

 言葉の意味を反芻し、自分が観てきたものを題材として、自分の意志をもってきちんと言葉に表す。

 こういった行為を俺たちは日常的に繰り返している。社会に出ようと、友人と話すにしても、恋人と語るにしても、人と会話するには言葉のキャッチボールが欠かせない。

 形で表現するのは難しい。表情でも動作でも、俺たちにとってそれは普段目にしないことで、意識的に行うものだ。風香は無意識的にすることを慣らしてしまったために、雰囲気を常に振りまいている。結果、言葉を必要としない。それでは意味がないことを、教える必要がある。

「きかい。きかいは、ふしぎ。ふうか、ふし、ぎ。みたい」

「風香、俺はさっき機械のことをなんて言った?」

「うん?」

「機械は不思議なものだ。でも、不思議なのは機械全部ではなくて、アレだから不思議なんだろう? じゃあ、アレはなんて名前の機械なんだ」

難しい言葉を長々しく言われて戸惑っていながらも、言葉の意味をどうにか時間をかけて理解したようだ。自分が言うべき言葉を紡ごうとして、しかし言葉として上手くまとまらず、母音を繰り返すことしか出来ていない。あえて助けるようなことはせず見守っていると、なぜか取り繕うように同じことをあれだこれだと繰り返した。

「きかい、ふしぎ。ふしぎ、わ、あれ。あれ、わ、あれ」指を向ける先には、確かにアレがある。「あれ、みたい」

「風香、あれはなんて言う名前だ?」

「うー……」

 まるで次に言えば怒られるとばかりに押し黙る。事実、俺がやっているのは思い出す訓練だから、わからないと答えられては困る。キチンと聞いたことを思い留めておけなければ、自分に有利に働くことも活用することはできない。

「お……」力強く目を閉じる風香が苦しそうに答える。「おる? おるおる! たぶん、なまえ、おるおる」

「おるおる、か。……風香、この文字を読んでみろ」

 そう言い、受付でもらったパンフレットを前に差し出すのと風香の顔が悲しく歪むのは同じタイミングだったろう。


『天童オルゴール博物館』

 

 いくらカタカナがまだ不自由でも、文字の羅列くらいはもう出来ている風香だ。自分が出した答えが間違っているのに気付いて落ち込んでいるのと、これから来るだろう俺のお叱りを甘んじて受けなくてはいけない未来を思い描いたのか、身体を萎縮したまま答えようとしなかった。

「立て」だがあえて叱らず、短く命令する。「もう十分休んだな。行くぞ」

「あ……」

 立ち上がるとすぐに俺の横に来て、身体を支えようとする。やはりまだ風香の意識には、自分の意志よりも主人の命令が絶対服従として固定しているようだ。

 ちりちりとした痛みが心臓を焦がす。気付かないように頭のスイッチを切り替え、再び歩き出した。

 土産物広場の前に。

 言葉を無くした贋人形も、これには小さな感動を覚えてくれたようだ。表情にこそ喜びを出さないが、少しずつ身体が前に傾いているのが伝わってくる。

「風香」小さな機器を指差し、「このオルゴールを持て」

「おるごーる」きっとその言葉は、二度と忘れないように繰り返したのだろう。自分の心に刻みつけるように小さく呟きながら、風香が目の前の青いオルゴールを手に取った。ねじを巻いてもらうと、音楽と一緒に雪の降る情景がドームの中に創り出されている。その様子を眺めている風香が、自分がもうこの世界にいないかのように儚げな目をドームに向け、音色に耳を傾けている。

「すいません」近くにいる店員を呼ぶ。「これをお願いします」

 オルゴールはやがて小さな紙袋に入れられて、俺たちは博物館を出た。大事そうに袋を抱える風香が俺の腕を取りながら何度も頭を下げる。こういったことはキチンと覚えているのだから鬱陶しいことこの上ない。

「あり、がと」たどたどしい言葉で礼を述べた。「おるおる、うれしい」

 口上では何とも言えるのにその本心は至って別だということを、今この場で教えるべきだろうか。

 風香、それは勘違いだ。今日はお前が夜になるとうなされるのに、精神的な回復を助けるための道具を買いにきただけで、お前を助けるようなものなんて医学的には一切ない。あるだけまだましだという道具と、気分の転換を図って外出しただけだ。情が移るような行為にも思えないし、単なるおもちゃを気まぐれに買ってやった。それくらいの見込みをお前から引き出せるからだ。

 目線を合わさずにただ雲の流れる空を眺めていく。小さな雲が大きな積雷雲を追い、白い背景に重なっていく。

風香、忘れるな。お前は俺の道具でしかない。人として生活し、人と同じような暮らしをずっと与えることは出来ても、俺はお前を利用すると決めた。これは覆らない決定事項だ。お礼や感謝なんて言葉は必要ない。できることなら憎め、恨め、ありったけの罵詈雑言を俺に向かって吐き続けるといい。そして人間として生き続け、人として頭を使いこなすんだ。

「帰るぞ。電車がもう来る」

 帰りの電車から、曇天とした空が俺たちを見下ろしていた。


 八月二十三日 芳野無花果


一週間前から今日までの日々を綴る。

 深夜に風香がうなされることがあった。残暑もあって寝苦しいのかと思ったが、どうやら過去の記憶からくるフラッシュバックが夢として現れているらしい。数日間様子を見ていたが状況は変わらず。左腕の定期健診の時に、彼女の状態をたとえ話として医師に聞いてみた。やはり精神的に参っているのは確定的な話のようだ。

 ここ一ヶ月近く家に居させて、外にも出さなかったのが裏目に出たのかもしれない。そもそも休みもせず常に本を読み続け、書き取りをこなしてきたのだ。普通の人間ならまだしも、彼女は全て捨てた上で、また拾おうとしている。この苦労を俺は知らない。もしかしたら、俺の知らない間に風香には相当なストレスが蓄積させてしまったのだろうか。このまま放っておき、風香の精神が崩壊でもしたら、これまでの苦労が水の泡となる可能性がある。気取られない程度に風香の状態を探り、外出に支障がなさそうであれば彼女を外に出そうと決意をした。

 しかしこの米沢には置いておけない。彼女を知る人間がどこまでいるか、そして彼女を知る人間にあったときに、どのような事態が起こるか予想がまるでつかないからだ。幸いにも診療所に置いてあったパンフレットで、オルゴール博物館が天童市にあると知った時は転機のようにも思えてならなかった。俺のことを主人と思っている彼女は、電車の中や博物館の中では静寂を保ったままであり、舌足らずな言葉ながらもオルゴールや言葉に対して興味を持ち始めてもいる。一ヶ月という短いスパンながら、十分な成長を見せていた。

 気まぐれに買ってやった小さなオルゴールを風香は大事そうに抱え、いつまでも抱え込んで放そうとはしなかった。寝る前に聴くだけだと言い聞かせるが、俺が出かけている時までは監視することはできない。多分聴くているだろう、子供とは大人がいない時に限って、規則を破るものだ。しかしその甲斐あってか、昨日はうなされるということはなかった。今後の変化を慎重に見極めていきたい。

 加えて懸念事項であった生理が二日後にきたようだ。どのようにして対処をすればいいかまるで下準備が出来ていなかったが、これもまた都合よく風香は一人で据え置いた生理用品を使っていた。どうやら女性に関する際どい部分は、先輩も同じ感想らしい。ここ数日間の高ぶりも、ひょっとしたらこれが原因かもしれない。確か一ヶ月程度の周期だというのを聞いたことがあるので、来月にもまた同じことが起こるだろう、対処をここに記しておく。

 もう一つ。これは自分に言い聞かせることでもあるが……、彼女を紹介するチラシがようやく完成してきたことを記しておく。これを後は適当な電柱や電話ボックスにでも貼り付け、携帯が鳴るのを待てばいい。そうすればあとは風香を適当な場所に置き、帰って来させれば、自動的に金が手に入る。彼女がどうされようと、そこには関与しない。必要以上に干渉すれば情が入るし、下手なことを打てば自分が捕まりかねない。すでに張り紙を使うという時点で違法だということを、俺は再び認識を深めなければいけないだろう。

 今一度自分に言うが、風香は道具であり、俺は使う側だ。その認識を間違えば、俺はもう生きてはいけまい。非情になり続けろ。そうでなければ、自分を維持することなんて無理なのだから。

 

   四.

 

 ――――、

 ――――、

 ――――夢。

 そう、夢を見ている。

 高速道路を走っている夢。両親が運転席と助手席で、俺が後部座席で二人に話しかけている。それは確か、上野の高速道路をしばらく進み、新宿方面へと向かう時だったと思う。

 窓の外の景色がビュンビュン過ぎ去っていくのを、鼻がつきそうなくらい窓にべたついて眺めている。赤いビルや、木々、東京タワーやレインボーブリッジを遠目に、あれはすごい、これはつまらないと、良くもわからない評価を適当に下していた。母親はそれを面白く噛み砕き、親父が楽しげに笑っている。すぐそこにいつもの場所があって、声をかければ普通に返ってくる人たちがいた。

 だけど、ふたを開ければなんてことはない。夢や現実なんてものは、気付けないだけでどこにでも転がっていた。

 スピードを出して突っ込んできた車が当たることも、ハンドルの操作が効かなくなった車がガードにぶつかることも。何十メートルも吹き飛ぶことだって、怪我をして動けなくなる自分だって、燃え続ける車の中に取り残された親たちだって、それを見ぬ振りして過ぎ去っていく車だって、夢のような現実の中に、ただ一人の子供の絶叫を聞き届けるヒーローはいなかった。

 気を失い、目を覚ました時にはすでに病院の個室。医者は俺に「気の毒だけど」と言葉を濁していたが、何を言うかはすぐにわかっていた。当然の話、俺は観客として映画を覗いていたに過ぎない。親が死んでいく様を、ただ遠くの方で泣きながら見ていたんだから。

 夢の町だと謳われている東京は、確かに夢を叶える希望があるだろう。だけどそれ以上に夢は時として、ハッピーエンドで幕を下ろさない。

 死を迎える幕は得てして死者の責任。病死にしても、事故にしても、何らかの過失が己にあることを、人は総じて自己責任と押し付ける。そして自分には関係がないと、面倒事を常に避けていく。

 きっと、彼らには自己犠牲という言葉をどこかに置き忘れたのかもしれない。時間に追われ続けることによって、自分が生きていくための仕事をこなすために、毎日すり減らしたタイヤで車を走らせる。イライラしながら渋滞を抜けてスムーズに進んでいたところで、また誰かが事故を起こして渋滞し、イライラを繰り返す。気持ちを落ち着かせるには、面倒事に巻き込まれずに時間を効率よく使うことこそが何よりの近道なのだからと、小さな子供が考えるには、十分絶望的な話だったんじゃないだろうか。

 俺にとっての神様やヒーローなんて非常識は、あの時で確かに終わった。代わりにわかったことといえば、生きる辛さと、現実の厳しさ。この二点だ。

 布団から身体を起こし俯いてみると、目尻が少し歪んでいる。それが涙によるものなのか、単なる欠伸なのかはわからない。

 じっとりとした汗を拭おうと手を動かすと、小さな指が絡まっていた。一瞬いなくなったものが甦ったかと思ったが、そうじゃない。一月前くらいにうなされていた奴が幸せそうに眠り、枕もとには青色のオルゴールが所在なげに置いてある。寒くなりつつあった秋も、二人で布団に入っていると寒さも和らぐ。

 カレンダーを見れば十月後半。彼女から漂っていたイライラする臭いも今では薄らぎ、石鹸の香りが髪から、身体からも十分に漂ってくる。ようやく人としての及第点だ。

 そいつが小さく体を震わし、閉じていた瞼をゆっくりと上げた。

「おはよう」

「まだ夜だ。寝ていろ」

 言葉尻もしっかりし始めてきている。仕事も、送り迎えも、ここ最近では十分な程度にできている。

 指を振りほどき冷蔵庫へ向かうと、一気に冷たさが身体を貫いた。いかんせん、今は深夜の三時だ。半袖で過ごしていては流石にきつい時期になってきたと言える。水を飲み再び布団に潜りこむと、風香がこちらに身体を寄せて抱きつき、首のあたりに顔を埋めた。

「どうした」緊張しながらも風香に聞く。「悪い夢でも見たのか?」

「……うーうー言ってた」

「誰が?」

「いーくんが」

 あだ名はつい最近つけられた。

「うーうーって。なんでなんでって」

「寝苦しいのはお前がいるからだ」

「ごめんなさい」

「まあ、いいさ」寒さに耐性が無いのを知った時は生憎の雨だったし、次の日に出かけてみれば布団屋が休みとあれば、これはもう天命と思うしかあるまい。

 深夜も周り、窓には降り続いている雨の音。二人で離れて寝るにはタオルケットは幾分寒く、我慢を効かせるには流石にきつい。俺が早めに布団を購入しておけば、こんなことにはならなかったのだから。

 風香の手がゆっくりと俺の手に絡まる。最近では自慰行為も大分我慢できるようになってはいるが、月経前ともあれば流石に疼くのだろう、苦しげに身体を折らせながらも、まだ欲望に勝つことが出来ない節がある。そういった場合はある程度落ち着くまで、部屋を抜けるようにしているのだが。

「手、つめたい」

「すぐに温まる」

「にぎってる?」

「必要ない」

「でも……」何度も繰り返す風香の頭へ、強引に顎を乗せた。

「いいんだ、寝ろ。明日も仕事があるだろう?」

 言い返そうとする風香の口が首元の窪みと顎に挟まれて動かせないようで、何度もふがふがともがいては顎をどかそうとしている。動かす気などさらさらない。

 やがてこのまま暴れても仕方ないのだろうとわかったのか、もがくのをやめて再び寝入り始めた。こうしている分には仲の良い兄妹か恋人かにも見えるのだろうか、そんな生易しい関係じゃないのを、俺もこいつもわかっている。彼女は道具であり、俺は扱う者。乱暴に振舞おうが勝手に抱こうが、俺の勝手なのだ。

 悟られない程度にため息をつく。

 この雨が止んだ頃に、布団を買いに行かないと……。


 上杉城史苑の駐車場を抜け、細道をたどっていくと学校が見えてくる。米沢東中学校の面々が、やっと終わったとばかりに学校を抜け出してきては、近くの店、はたまた自転車にまたがり蛇行をし、楽しげに散っていく。近くにあるパン屋はどうやら昔からのお得意らしく、よく生徒がパンを購入しては立ち歩きで食べていた。俺が学生の頃にパン屋があったら、きっと学校などに行かず、パン屋で一日を満喫していたに違いない。何が楽しくてあんなところに行かなければならないのか。

 隣に風香を立たせて歩いているだけで視線が集まるのは多分、足をおかしくした白髪の女と片腕を失った男がベタついて歩いているからだろう。俺だってそう思う。だが風香一人で歩かせるには足の状態は悪いし、杖を買ってやった時もあまり興味を持たず、何度言っても折角の杖を放り投げて俺の腕に絡んでくる。癖なんだろう、矯正の必要があるだろうとも考えてはみたが、結局その案は没になった。

 水溜りを避けながら歩いていくと、ようやく目的地へと着く。

 布団屋に入ると清潔感ある香りが鼻を撫でた。昨日まで降り続いた雨など微塵も感じさせない雰囲気に、風香も小さく声を上げて驚いている。

 店主と話をしている間、風香は店の中にある布団を触ったり、匂いを嗅いだりして退屈を紛らわせている。今まで退屈な時間はあまりなかったためか、無駄な時間を過ごすやり方をあまりよくわかっていないようだ。今度はラジオでも持たせてみよう。

 話をつけたところで風香の様子を見てみれば、両手を布団の間に忍ばせて、だらしなく頬を緩ませていた。

「子供かお前は」

「う?」

「行くぞ、時間はあるが、昼前には着いておきたい」

 名残惜しそうな風香を掴んで、外に出る。すると雨上がりだからだろう肌寒い風が、互いの首筋を撫でて去っていく。寒さから逃れるためか無駄にくっついて熱を取ろうと頬を、上着に擦りながら風香が引っ付き出す。そんなんで熱源が得られてたまるか。

「ほら、化粧が落ちるぞ」

「さむい」案の定こちらの手を握ろうとしてくる。右へ左へ動いては、ポニーテールにした白髪が連動する。「手、にぎる」

「なんで手を握りたいんだ」

「さむいから」

「じゃ、ダメ」

 なんでと問いかける言葉を無視して、待ち合わせである場所へと進んでいく。今日は林泉寺の入り口が目的地だ。キチンと帰り道を覚えてくれるといいんだが。

 曲がりくねった道を進むと小さな公園へとたどり着いた。日差しを遮った下にトンボが宙を舞うたびに、風香が楽しそうとばかりにトンボの後を追いかけた。転ぶなよと声をかけるが多分聞いていないだろう。楽しいってことは、ほかのことなんて何も頭に入ってこないんだから。だからまあ、仕事の前くらいは少し自由にさせるのもいい。

 湿っぽいベンチに腰を下ろし木漏れ日を仰げば、眠気が緩やかに襲ってきた。秋ということもあって随分と気候が肌に馴染み、不必要なまでに休息を与えようとするのだ。眠らないように風香を目線で追いながら、

「水溜りに突っ込むなよ」

 興味津々な後姿に警告を促した。

 驚いたように風香の肩が上がり、振り返る。なんでわかったのという顔をされても、そんな目前にある水溜りに足を突っ込もうとしていれば、誰だってわかる。

 また俺達の前を通りすがるトンボを、不自由な足を引き摺りながら風香が追いかけていく。トンボを捕まえたいのではなく、自由に飛んでいるトンボが彼女にとって珍しいのだ。

 車を使ったほうがよかったと思ったことはよくある。そっちのほうが楽だし、風香の姿を見られることもない。片腕だからといって運転が出来ないわけでもないし、あいつもうまく歩けない足を気にしてまで歩きたいわけでもないだろう。ようやく軌道に乗ってきた仕事だ、つまらないことで無くしたくはない。

 でも、それが出来なかったのは俺に甘さがあったからだ。

 風香がどんな風に生きてきたのか、風香が今まで見てきたものは。風香が知っていること、知らないことはなにがあるのか? 好きなこと、嫌いなこと。たくさんのことを教えられずに生き、育ち、軟禁ともいえる箱庭で生活したあいつは、もしかしたら何も知らないんじゃないか。こんなに外の世界はたくさんのことで溢れかえっているのに、こんなにも外の世界はキレイを装っているのに、今まで知らずにいられたのだから。

 考えてしまえばしまうほど甘くなってしまう。自分の愚かさが、今はただ空しく秋風に掬われていく。

 人を養うのは難しい、そんなこと誰だってわかっている。成人しているやつとなれば、それこそ日にかかる金は湯水のように流れ出してしまう。事実、まだ大丈夫と思っていた金が、底を見せ始めているのだ。この四ヶ月近くをあいつのために費やしてきた分、ここに来てそのツケが回ってきたのは、見ざるを得ない現実となりつつある。

 彼女を道具として働かせている。それだけで本当に大丈夫なんだろうか? もし風香が壊れたら、もし風香が逃げ出してしまったら、もし風香が……、わかりもしない「もし」という言葉に、心が蝋燭のように揺らめいてしまう。

「いーくん!」

 陽気な声が、逆に俺を苦しめた。こいつはあるべきところに返してやるべきだ。そんな良心じみた考えが、喉の奥まで言葉をのし上がらせる。

「……なんだ」どうにか喉を痛めながらも飲み込み、元の俺を取り戻す。

「みて、トンボ」

 手で捕まえたトンボを風香が自慢げに見せびらかし、俺の前まで持ってきた。

「羽を折るなよ。飛べなくなる」

「はね? はねってどれ?」

「握っている部分のことだ。簡単に折れ曲がるし、トンボが飛べなくなると誰かに踏まれるかもしれないからな」

「はねをおると、トンボはどうなるの?」

 どういうべきか悩むが、そのまま教えたほうが理解しやすいと判断する。

「飛べない虫になる」

「うー。とべないって、どういうこと?」

「自由になれないってことだよ」

 そう。羽を失ったトンボなんて、なんの価値もない。遠くへ旅立つための足を、強制的に排除されるようなものだ。トンボからしたら堪ったものじゃない。

 俺の腕だって風香の足だって、誰に奪われる権利なんてありはしないんだ。その大切さを知る局面に、風香は立っている。

「放してやれ。トンボだってまだ羽を失いたくないだろ」

「うん。トンボ、ばいばい」

 解き放たれたトンボが再び空を舞う。その様子を見て風香は微笑み、俺はくだらないと罵った。誰にでもない、俺自身に向かって。


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