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番外編アリーシャ兄のその後

ある方からアリーシャ兄のリクエストを頂きました。

最初から最後まで可哀想なこの男性、さて幸せになれたのでしょうか?

 私はとうとう一人になった。

 小高い丘の上、石を乗せただけの墓標。

 棺も無く母の好きだった薔薇の花一輪さえも手に入らない。

 誰一人両親の死を悲しんでくれる者も無く見送る者は私一人。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 大問題を犯した妹の為に貴族という身分も、両親も失った。

 国を追われるように後にして数年今はこの身一つ、生きていくのに疲れた自分がいる。

 両親はこの国に流れ着いてからこの通り相次いで亡くなった。

 温室暮らしの二人には過酷すぎて受け入れられなかった。

 流浪の民に身を落とし持ち出せた財産も騙されたり、脅し取られたりして直ぐに底を尽きた。

 他国に居る遠い親戚や知人を頼ろうとした父と母はことごとく拒否され疲弊(ひへい)した。

 私にも友人を頼れないか話し合いを重ねたが他国にそれほど親しくしていた者がいる筈もなく一家はたちまち孤立した。

 母はこの現状を受け入れられずここの所寝込むことが増えていて父と私は日々食べる金を稼ぐことしか頭になかった。


 人は生活水準を落とすことが最も堪える、前の生活とのギャップがあればある程。

 プライドの高い父はせっかくもらった小さな商店の経理の仕事を喧嘩になって辞めたりしてお決まりのように安酒におぼれる様になりアルコール中毒となった。

 酔うと決まって娘アリーシャへの恨み言になり、母が悪いと(ののし)った。

 母は泣き(わめ)き壁の薄い間借りの身、家主家族から迷惑だから出て行ってくれと再三言われる始末。

 私は売れるものは売り尽くし一家の生活を支える為沢山の仕事を掛け持ちし体を壊した。

 食べる事がままならず酒に溺れた父が亡くなると気力の尽きた母も後を追うように亡くなった。

 墓も用意してやれず粗末なシーツに包んで父が眠る森の小高い丘に今日母も並べて埋葬した。

 やせ衰えた体には流石に堪えた。

 でも手押し車を好意で貸してくれたジョゼフさんに返しに行かなくてはならない。

 疲れてフラフラしながら元来た道を戻って行った。


 今日も両親の眠る丘に来た。

 売れ残りの花を安く譲って貰ったので母に供える為に。

 丘に並ぶ墓標の石、震える手で色の悪い花で御免と言いながら二人に供える。

 そしてしばらくぼんやりしてまた来るねと約束して帰りを急いだ。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 薄暗い森を急ぎ足で進んでいると急に雨が降り出した。

 雨宿りできる所を探して道を()れたら迷ってしまった。

 困って進んでいると家が見えた。


 道を教えて貰おうと家を目指して進むと庭らしきところに女性がいる。

「あの、突然すみません。道に迷ってしまって」

 振りむいた女性を見て驚いた、年上だろうかそれでもとても美しい女性だ。

「あぁ、この雨で?」

 声も穏やかで聞き心地のいいものだった。

「そうなんです。雨宿りできる所を探していたらここに辿り着いてしまって」

 そこまで言った時家の扉が開き男の子が出てきた。

「ママ、誰かお客さん?」

「マイク、ウチに入って居なさい。風邪気味でしょう」

 庭で育てた薬草を摘んでいたらしい。

「もしかして、僕のパパ?」子供の声が弾む。

「違うわよ、道に迷ったのですって。町までですよね、そこの道を……」

「いやパパだ、僕に似てるし髪の色も目の色も同じだもん」

「パパは亡くなってお星さまになったって言ったでしょう。済みません家の子が」

「いいえ、そんなに似てるのかい?」

「うんそっくりだよ」

「済みません、冗談です。この子父親の顔を知らないのに」

「パパ入って、パパの絵沢山描いたんだ」

「マイク、ご迷惑でしょう。町でしたらそこの道をまっすぐ道なりに進めば着きますよ」

「嫌だ。パパと遊びたい」

「ではこれで。ありがとうございました」

 そう言って私は足早にその場を去った。そこに残る事は却って残酷なのではないかと思ったのだ。

 後ろからその子の泣き叫ぶ声が聞こえた。

「パパァー」

 本当に後ろ髪引かれる思いで町を目指した。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 其れから(しばら)くはそのこと自体をすっかり忘れ仕事に没頭する日々を送った。

 そして先日仕事先から見込まれて正式採用となる。

「良かったな、お前は読み書き計算ができるから。これで掛け持ちする必要も無くなっただろう」

「お陰様で、体が随分楽になりました」

「一時は親父さんお袋さん抱えて大変だったもんなぁ」

「あの頃に比べるとですね、今は自分一人なんで」

「寂しいこと言うなよ、そのうち嫁さんでも貰って子供五人ぐらい産んでもらえ」

「そうですね、縁があれば」

 家族か⋯⋯もう縁がないかも知れない、適齢期もとうに過ぎた。

 一人にも最近ようやく慣れたところだ。

 このまま寂しく歳を重ねていくのだと思う。

 伯爵家令息と言う立場にあった自分が平民としてこの生活に馴染んできた。

 順応性があったのか、もしくはあれが夢だったのかもしれない。


 その時店から声が掛かる。

「おーい、誰か両替頼む」

「ハイただ今」

 そう言って小銭を持って店に顔を出した。

「パパ?」

 あの時の子が母親と一緒に手を繋いで買い物中だった。

「パパだ、僕のパパ」

 そう言って体温の高い体が飛び込んでくる、思わず抱きしめると甘いクッキーの香りがした。

 そこに追い求めていたものが見つかった気がした。


敢えて名前を出さず結末をぼかしてみました。

でもきっと人間的に出来たこのお兄ちゃんは幸せを掴むのだと思います。

平凡だからこその幸せ、きっと小さな事にも感謝していくのだと思います。

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