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一つの恋の⋯⋯胡乱

 その日アリーシャは王太子妃教育初日が終わるとある場所に馬車で向かっていた。


 従者に用意させた豪華な花束を持って。


 婚約者が昨日訪れたモンタギュー侯爵家にお見舞いという名の偵察(ていさつ)である。


 エドモンドは話し合って解決したと言っていたが念には念を入れてである。


 リリアナ本人が意識不明なら良いし、今後の回復具合も探りを入れたかった。


 侯爵夫妻が隠しても側仕(そばづか)えのメイドでも買収すればペラペラと喋ってくれるだろう。


 懸念事項(けねんじこう)は早々に潰しておく、自分の前に障害物があるのは我慢が出来なかった。



 侯爵家には先触(さきぶ)れは出さず直接訪問した。


 貴族としてはマナー違反だろうが断られることを考えて強行した。


 いくら侯爵家と言えど未来の王妃を無下(むげ)には出来まいとほくそ笑んだ。


 そして何とか応接室まで通されたが運悪く侯爵夫妻は留守だった。


 どうしたものか、と考えているとメイドがお茶を運んできた。


 早速(さっそく)金貨を数枚チラつかせてリリアナの病状を聞き出した。


「お医者様のお話では、一生あのままで目覚める事は無いだろうと仰っていました」


「それは確かなの?」


「はい、頭部損傷という事です」


 笑いを(こら)えながらアリーシャは得意の同情の表情を貼り付け


「お気の毒に、回復の何か助けになればと思いましたが本当に残念です」


 ではこちらに用は無いと腰を上げた時、勢いよくドアが開かれ若い男性と必死になって止める執事が入って来た。


「妹から婚約者を奪ったばかりで無く、笑いに来たのか!」


「サイモン様、お止めください。お見舞いにわざわざお越し頂いたのです」


「離せ、妹が不憫すぎる!」


「宜しいのよ、心配で突然お邪魔した私が悪いのですから」


 サイモンと呼ばれたリリアナの兄は数人の使用人に連れ出され部屋は静寂が戻った。


「申し訳御座いません。普段は温厚な方なのですがお嬢様の件で参っておいでです」


「無理も無いでしょう、私のことは気にせずにと申し上げておいてね」


「何てお優しい」


「ではお暇しますけど、アナタ名前は?」


「アンと申します」


「また何か病状が変化したら⋯⋯知らせて頂けるかしら?お礼は十分にしますからね」


「はい、宜しいのですか?先程も沢山頂きましたのに」


「殿下に関わることは把握(はあく)しておかねばならないの、王太子妃の務めよ」


 そう言って上機嫌で帰って行った、アンの暗い目にも気付かず。

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