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07. 難しい



「すまない。教えてもらえるだろうか」

「どうしてもですか?」

「教えてもらわなければ、あの者たちの手足はどうすれば良いのだ」


あっそうか。知らないのであれば治せるのは私だけってことになるのか?

でも、お医者さんとかは居ないのかな?居たら分かるんじゃないかな……あぁでもこの世界の医学が日本と一緒ではないよな、きっと。


「それもそうですね。えっと、関節というのは、骨と骨のつなぎ目の部分を言います。簡単に言えば曲がるとこですね」

「それは分かる」


肘や、指、膝を曲げながら簡単に、関節の仕組みと外すと言う事の説明をした。


「結構危険なので、普段はほとんどしないのですが、今回は剣を抜かれてたので、自分の安全優先で行使しました」

「……危険なのだな」

「はい。とても危険なので、教えませんよ」


なんか、教えて欲しそうな眼をしてるので、先にけん制しておく。


「そうか、残念だな。では、意識を奪うと言うのは?」

「意識を奪うと言うのは、言い換えると失神させたんです。今回私が失神させたのは、首にある血管を絞める事で、頭への血流を止め意識を奪ったんです。これはしばらくすれば目が覚めるので大丈夫なんですが、間違えて気道も一緒に絞めてしまうと殺してしまう危険な事なので教えませんよ」

「危険なのだな……」

「まぁ、今回は彼女を助けて逃げるのが大前提だったので、私の安全を重視して犯人たちの動きを封じるため行使しました」

「良く分かった。ありがとう」

「いえ」


これで話は終わりだろうか?終わったら私はどこに行けばいいんだろう。ホテルとかあるんだろうけど、日本のお金やカードは使えないだろうから意味ないだろうし、これからどうしようか。


何もないまま異世界へ来ると、何気ない日常が一変してしまうんだな。冷静になるとさっきまでワクワクしてた魔法やチートな言語能力なんかどうでもよくて、帰る家があって、普通に眠れて、お腹を満たせて、普通に生活出来ることの幸せがよくわかる。


なんか、自然災害で全てのライフラインが機能せず、避難生活を送らなければならない時も被災者たちはこんな感じなのかもしれない。もし日本に帰れないのであれば、今までのように生活出来ないのは確かで、その現実はこれから日を追うごとに思い知らされるんだろうと思うだけで不安は募る一方だ。


「それで、ルミエールを襲った男は分かるか?」

「二階のベッドのある部屋の中で寝転がってる男です」

「その部屋の中は誰も居なかったと報告を受けているが」

「は?いや、確実に失神させたし、なんなら使い物にならなければいいと思って、そいつの股間を思いっきり蹴り上げたので動けるはずがないです」

「……そ、そうなのか」


なんか、みんな痛そうな顔をしてるけど、いや、だって強姦しようとするヤツのなんかどうでもよくない?寧ろ使い物にならない方が世の為だ。でも、あの状況で逃げたと言うことなの?どうやって?


「転移されたかもしれんな」

「おそらくそれで間違いないでしょう。痕跡を調べて分かればいいのですが」


お?眼鏡が初めて言葉を発した。なかなかいい声の持ち主のようだ。


いや、それより転移って何?それはまさかまさかの魔法だろうか?ラノベでよく見る転移魔法、あればめちゃくちゃ便利だろうな。異世界ファンタジーやばくない?


「その男の特徴を覚えているか?」

「覚えるまでも、写真がありますよ」

「……しゃ?なんだ?」

「しゃしん、説明するより見てもらった方が早いですね」


斜め掛けの鞄から、スマホを取り出し撮った写真を見せた。


「これはなんだ」

「これは、私の世界のモノで、映像を切り取って保存する道具とも言いましょうか……」

「切り取るとは?」


スマホを説明する事なんて考えたこともないから伝え方すらも分からない。なんて言えばいいの?


「あっ見せた方が分かりやすいですね」


王子たちに背中を向け、画面に彼らを映し見せながら、ポチっとサイドボタンを押した画像を彼らに見せた。


「要するに、この機会に映ったモノを映像と言って、その映像の一瞬を切り取ったモノを写真と言うんです」

「ほう。君の国の魔法は発達しているのだな」


写真やスマホの製造者じゃないから正しい説明が出来ないのがもどかしいし、仕組みや理論を知らない上で分かりやすく説明することなどほぼほぼ不可能だと思い知った。

日本ではこんなの説明するまでもないし、写真の仕組みが気になったこともないから大人たちに聞いた事もない。


「魔法じゃないですよ?私のいた世界では魔法と言うものは存在しない代わりに、化学と技術の発展が凄いんです」

「これが魔法ではないのか?」

「はい。私たちの世界の研究者や開発者や技術者が何度も何度も失敗し、製造し、競争し、それらを繰り返し、時代と共に変化させ発展させてるのです」

「素晴らしい人材がいるのだな」

「ほんと、凄い人たちのおかげで、便利で不自由なく生きてこられました」


異世界に来て改めて感じる、発明者、技術者、研究者の凄さ。日本に居る時は、なんにも考えずに使ってた。この世界で生きてくのなら、日本の普通が特別になるんだろう。


でも魔法と言うものが存在するのなら、それこそがチートそのものだ。魔法の理論や魔法式とか、何がどうなのか全く分からないし、理解できるなんて微塵も思わないけど、創造魔法とかあればイメージでどんどん作れたりしちゃったらそれこそ凄い事だ。


「話を元に戻しますね。それで……えっと、彼女を襲ってたのはこの男で、えっとなんて言ってたかな」


画面を彼らに見せながら、スキニーのポケットのボイスレコーダーを握り締めた。


「……これは」

「……知ってる人ですか?」

「教皇の息子ですね」

「そうだな」


殿下と眼鏡がのぞき込んで、目を細めた眼鏡はまるでゴミを見るかの如く冷えた視線で画面をみていた。


……氷だ、この人から発せられる何かが酷く冷たく恐ろしい。


「……教皇……何教ですか?」

「ベルム教だ。我が国の国教だ」

「もしかして、ベルム教の教会では孤児院を運営してたりします?」

「あぁ、孤児院は教会管轄だな」

「なるほど」


あの男たちの言ってたことはそう言うことだったのか。




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