プロローグ② 選ばれた
「では今から皆様にご説明いたします。」
黒いローブの男が説明を始めた。
「まず貴方がたがここにいる理由。それは貴方がたが選ばれたからです!」
黒いローブの男はますます演技がかった口調で、両手を天井へと掲げた。
「こちらの本を、貴方がたは前の世界でご覧になっているはずです。」
そう言って取り出してきたのはあの本。
佳一がコンビニで買った格安の本だった。
黒いローブの男が本を見せてから、佳一も含めた転生者たちがざわつく。
「そして、中に書いてある『読めるはずもない文字』を読み、こちらの世界へ降臨なさったのです!」
降臨、という言葉を佳一は疑問に思う。
異世界転生という話が本当ならば、転生もしくは召喚と言った方がいいだろう。
何故降臨なのか、佳一が疑問を口に出そうとしたところで、黒いローブの男が口を開く。
「貴方がたは選ばれた……。それも難度の高い古代書の儀によって!!」
古代書の儀とやらが何なのかもわからない佳一だったが、ヒートアップしている黒いローブの男には話が通じなさそうだと思い、一旦黙って聞くことにした。
ブラック企業で経験したことを思い出した佳一は、ここでの話を聞き漏らせば生きていくことが出来ないと思ったからだ。
「……それでは皆様、まずはスキルの確認をさせていただくのでこちらにいらしてください。」
黒いローブの男は急に落ち着き、扉の外へと案内しようとする。
それに待ったをかけたのは、佳一に一番近い男。
「ちょっと待ってくれ!危険だからと言って縄で縛られたのもそうだが、あんたの話を聞いても俺たちは何も理解出来ていない!」
男の発言に周囲の転生者たちも同調する。
それを聞いた黒いローブの男は少し考えた後に、
「……あぁ、そうでした。確かに説明不足ですね。では貴方がたの質問にお答えいたしましょう。」
そういってこちらに向き直った。
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その後いくつもの質問が転生者によって投げられたが、
Q「この世界はどこなのか」
A「エースディアでございます」
Q「我々は元の世界に帰れるのか、また元の世界の我々はどうなっているのか」
A「現時点で元の世界に帰る手段はございません。元の世界の貴方がたは突然姿を消したことになっております。」
Q「何故我々は呼ばれたのか」
A「強力な戦力が必要だったためです。詳しくは後程王より。」
Q「古代書の儀とは何か?また『読めるはずのない文字』とは?」
A「秘儀の為お教えできません。」
Q「何故我々は縛られているのか」
A「貴方がたが降臨時に得たスキルの得体が知れず、危険だったためです。」
Q「スキルとは何か」
A「これからそれを確認いたします。」
詳しいところははぐらかされ、もう帰ることが出来ないということだけがよく分かった。
ちなみに王らしき人物たちは、質問が始まるころに何処かへと移動している。
「質問は以上でしょうか?ではこちらにいらしてください。」
そう言うと黒いローブの男は扉へと歩いて行った。
もう帰ることが出来ない。その事実が転生者たちの心を砕いた。
中でも佳一より年上そうな男は、「妻が……子供がいるのに……」と呟きながら泣いている。
佳一もまた、帰ることが出来ないという事実を聞かされ、こうなることが運命だったなら、せめて家族にお別れを言いたかったと考えていた。
同時にブラック企業から逃げられたことに、少しだけ安堵した。
「皆……いこう!」
一人の男が声を上げる。先ほど転生がどうと言っていた痩せぎすの男だ。
その言葉に皆は暗い顔をしたまま同意し、立ち上がる。
縄で縛られていたのは上半身のみの為歩くことに支障はないようだが、立ち上がるのに苦労していた。
佳一たちはそのまま黒いローブの男がいる扉へ向かい、外へ出た。
外へ出ると、眼前に長い石畳の廊下が見える。
黒いローブの男に導かれるまま佳一が歩いていると、隣を歩いていた男が声を掛けてくる。
先ほど泣いていた男だ。
「なぁ、アンタ名前は?」
「天崎佳一です。」
「佳一君か。歳は?どこに住んでた?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、佳一は苦言を呈する。
「その前に、あなたの名前はなんですか?一方的に質問に答えるのはあまり気分がよくありません。」
その言葉に男は少し驚いたような顔をしてから、申し訳なさそうに名乗る。
「……あぁ、悪かった。俺は高橋滉平だ。よろしく。」
その後高橋といくつかやり取りをしていると、前を歩いていた黒いローブの男が歩みを止めた。
「こちらで皆様のスキルの確認をさせていただきます。」
案内されたのは大きな扉。
この中で自分のスキルが確認できるのかと、佳一はこの世界でのこれからに少しだけ期待した。