表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/133

5.分からないのに

「……駄目だ、分からねぇ。」


 宿題を先に済ませ、ノートパソコンの暗証番号の捜索に移るが全く手掛かりがない。

 ……そういや、自室……まだ見てねぇな。

 寮に来てから見たのは何度も謝り、俺の記憶がない事を伝えると泣き崩れてしまった寮長。長くて、でも月明かりのよく入りそうな廊下。俺と蓮燔の名前が刻まれたネームプレートのぶら下げられた扉。そして今居るリビング。

 自室にも、シャワールームにも、キッチンにも行ってない。こう考えるとまだまだ俺の記憶を取り戻す為の手掛かりはわんさかある。

 ……あ。


「携帯の中身、まだ見てない。」


 ロックを解除し、中身を見てみるがゲームアプリの類は全くなく、SNSとよく分からないアプリ、辞書、写真、カメラ、マップくらいしかない。

 まさか、俺の部屋もこんなに殺風景じゃないだろうな。

 とりあえずよく分からないアプリが気になって開いて見てみるとどうやらメモ帳だったらしい。自分の字が嫌いなのか、鞄に入ってたメモ帳よりも沢山ページがある。

 誰が蓮燔を虐めたのか、次の授業の予想、月の傾き方、そして……一際気になった「忘れてはならない」とタイトルされたページが。

 忘れてはならない……?

 開くと真っ暗に塗り潰されていて、動画の再生マークが付いている。何となく音を出したらいけない気がして鞄の中を漁ってるとイヤホンが出てきて動画を再生する。

 ……何だ、これは。

 何処かであった残虐の記録。女も、子供も、男も、全く関係ない。

 沢山人が死んでいく。でも何故か既視感があって、目を離せない。

 そして誰かの顔がはっきりと動画に映る。男。よく分からない男。


『奏、お前は何でこんな事をしたんだ!!お前の所為で、お前の所為で……!!』


 男はどうやら俺を殴っているらしい。どうして、憶えていないのにこんなに怒りが込み上げてくるのか分からない。でも、俺を殴っているこの男を呪い殺したい、嬲り殺したいと言う気持ちが俺の中で渦巻いて仕方ない。でも、その気持ちは一瞬で消え失せる。

 男が死んだ。お腹の辺りを鋭い黒い何かが貫いて。

 その何かは棘だらけで、血を吐きながら喚く男を引き摺り、奥の壁に叩き付けて何度も何度も刺している。男を刺す何かの数は増えていき、男は原型すらない。

 ……もしかして。

 これが1226だろうか。

 これを見てもああ、良かったと言う感情しか目覚めない。

 俺は、人を殺したのか?でも、男を刺し殺したこの何かを俺は持っていない。

 そして、蓮燔も持っていない。この何かは明らかに植物だ。それこそ、薔薇のような。でも、周囲に薔薇は何処にもないし、こんなに太くない。

 ……一体何なんだろうか。


『嗚呼……、もう……悔いはない。』


 そう呟いたのを最後に動画が止まった。

 ……でも、おかしい。それならどうやってこの動画を撮ったんだ?


「……。」

「奏?」

「ん、ああ。何だ?」

「……何で、泣いてるんだ?」


 携帯を置き、イヤホンを外して目の辺りに触れようとしたがその前にポトリと涙が落ちてくる。

 何で……何で、俺は泣いてるんだ?あの男を殺して、嬉しかったんじゃないのか?何が怖い?何が辛い?何が悲しい?


「か、奏。」

「……分からない。でも……何か、何か……涙が、止まらない。なん、何で……。」


 蓮燔がタオルを持ってきて、それに顔を埋めながら蓮燔の腕の中でただただ疑問が回る。

 ……何が苦しいんだ。何も……苦しくない、はずなのに。

 俺の感情なのか、失う前の俺の感情なのか。全く分からない変な気持ちに胸が引き千切られそうだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ