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血染めの刀は殺意と踊る  作者: ダメな人
月落とし篇
8/21

それぞれの決意

「いや〜、一時はどうなるかとヒヤヒヤしたぜ」

「そ·····それはこっちのセリフです!源之助さんってば、急に飛び出しちゃうんですから·····!」

 それから、二人はブラックインパルスの事務所へと戻ってきた。

 扉を開けると備え付けのパソコンに向かう無一と、一足早く帰還していたルクーシュ、玄がソファに座っている。そしてそのルクーシュの顔には翳りが見え、泣き腫らした様に目は真っ赤に充血していた。

「よぉ、今帰ったぜ·····何かあったのか?」

「ああ、源之助か·····おかえり。そっちも無事だったみたいだな」

「何とかな。イヴィルヴィとジョゼの二人の襲撃に遭ったが、ナコルのおかげで助かった」

「やはりそちらもか」

「やはり?ってことは·····」

「そうだ、私と玄も襲撃されたよ。シエテ(7)のセイビア・アンソンに」

「そうなのか·····撃退したのか?」

「·····セイビアは殺したよ」

 その言葉に、ナコルは息を飲み源之助は複雑な表情を浮かべる。

 殺した。確かに彼女はそう言った。だが、今までの言動を鑑みるととても彼女が手に掛けたとは思えない。

「玄か」

「·····ああ、だが彼を責めるつもりは無い。誰かの犠牲の上に成り立つ平和を認めるわけではないが、彼がやらなければどの道私たちも生きては帰って来れなかっただろう」

 向こうも向こうで相当な死闘を繰り広げたのだろう。その声色から読み取れる。

「だが、得る物もあった」

 乾いた音を立て、テーブルに縦長の杯が置かれた。

 賞などでその栄光を讃える時に渡される様な、そんなイメージを連想させる杯。人の拳より少し大きいくらいだろうか。源之助の視線は自然と惹かれる。

「何だこりゃ。カップか?」

「これはセイビアが所持していた聖遺物·····聖杯(マキシマムゼロ)だ」

聖杯(マキシマムゼロ)――かの有名な最後の晩餐で使われたと言われる伝説の杯です·····術者の血で満たせば魔力を大幅に増幅させられるとか」

 ナコルが補足説明を挟む。

 所謂魔力のブースターの様な物か。得心がいった様に、源之助はそれを見下ろした。

「そう言えば、こっちも収穫があったぜ」

 源之助は、白くて大きな物を放り投げる。

 鈍い音を立てて床に転がったのは、ジョゼ・トロアンその人だった。

「ジョゼ!?何故ここに!?」

「イヴィルヴィの野郎は惜しくも逃がしちまったけどな、コイツは深手を負わせることができたんで捕虜として連れて来た」 

 ナコルの回復魔法で出血は抑えられているが、その傷は決して浅くはない。苦悶の表情を滲ませている。

「さぁ、捕虜のお前はさぞ有益な情報を持ってんだろうよ。吐いて貰うぜ、まずは他の聖遺物についてだ。どんな能力がある?」

「フッ·····そんなことをこの私がおいそれと喋ると思って――」

 間髪を容れずに傷口を踏み付ける。

 絶叫。目を剥き、苦しみに悶えるジョゼは息を荒くする。

「おいおい·····困るぜ。この状況をまだ理解できてねえってのか?」

「世界を救うヒーローがこんな下衆なやり方で――」

 反論するや否や踏み付ける。再び絶叫が児玉する。

「何か勘違いしてやしねえか?腐っても俺たちゃ殺し屋だぜ?未だ殺されてねえことに感謝して、ここは口を割っておくのが得策じゃねえか?その方が痛い思いもしなくて済むぜ」

「おい源之助!何もそこまでしなくても·····」

「おいおいルクーシュ、お前の覚悟はそんな物だったのか?いつ落ちてくるかも知れねえ月が、もうそこまで迫ってるんだぜ?ここでやることやっとかねえと、後で取り返しなんて付きゃしねえんだよ」

 あまりの気迫にたじろぐルクーシュ。

 源之助はジョゼに向き直り、尚も質問を続ける。

「さぁ、話す気になったかい?」

「ウグッ·····イヴィルヴィに持って行かせた聖骸布(ハイド・アンド・シーク)は、被せた物の姿や魔力反応、気配と言った物を遮断する隠密の聖遺物·····。ルナ・フォールにおいては術式を構成する足場、祭壇となる物です·····そしてルナ・フォールに欠かせない最も重要な聖遺物、それがルクーシュの持つ聖十字架(グランドクロス)。その中にはとてつもなく膨大な魔力が秘められています。言わば術式の動力源·····」

「なるほど、だから魔力を流しても起動しなかったわけか。電池は電池単体では何も起きない。何かを起動させる動力源でしかなく、それがルナ・フォールと言うこと」

「なるほどな、まぁそれは良い。残るは一つだな。聖釘(アポカリプスの剣)·····とか言ったっけ?あれはどう言う聖遺物なんだ?」

「·····それは言えない」

 三度目のストンピングはより一層強烈な物だった。しかし、ジョゼは口を割らない。

 四度、五度、六度·····もう何度踏み付けたか記憶が曖昧だが、何故か一向にそれが語られることはなかった。

 余程知られたくない理由があるのか、対策されたくない能力なのか、情報が得られない以上全ては想像の域を出ることはない。

「その辺にしておいてやってくれ、頼む」

 祈るようなルクーシュの言葉に免じて、踏み付けていた力を弱める。

「貴方はいつも何かの為に戦う素晴らしい女性ですね、ルクーシュ」

 ジョゼが言う。

「その戦う理由が今、キミたちを倒す為と言うのは少々皮肉が効きすぎているけどな」

「世界を良くしようとナンバーズを結成し、私を迎え入れてくださったこと、感謝しています。貴方は聡明な人だ。だがそれ故に、誰よりもウルスァスを理解しているはずの貴方がこうして敵に回ってしまったことが残念でなりません」

「それはこちらの台詞だ。何故世界をリセットしようなんて考えるんだ。それがどれだけ多くの犠牲を払うか、分からないわけではあるまい」

「確かにルクーシュ、貴方は素晴らしい。だが、人々は救いを求めているのです。今の世の中には無駄が多すぎる。となれば、一度必要の無い物を根こそぎ消し去ってしまうのも人類の――いえ、世界にとっての救済であるのです。それを理解し、実行せんとするのがウルファス・ヴァーミンガム。世界には今、彼と言う新世界の神が必要なのです」

「新世界?神?ふざけるな!奴がやろうとしていることは独裁だ!どれだけ詭弁を振るおうが、そんな物は救済とは言わない!」

 ルクーシュが机を叩く。その拳にはやり場の無い感情が込められている様だ。

「私は絶対に阻止してみせるぞ!月は落とさせない!ウルファスの創る新世界など、この私が全力で否定してやる!」

 人類を淘汰して創られる新世界と、ルクーシュが導き目指す理想郷。どちらが正しいかなど、人それぞれに価値観や正義がある以上どうやっても答えなど出ない。

 だが、源之助の心は決まっていた。

 幼い頃より内に秘めていた、抑えられない程の殺人衝動。それに任せて、ただ依頼の為だけに振るってきた刀。それを今、初めて誰かの為に振るいたいと思った。

 ただドス黒い感情に飲まれるだけでなく、誰かを救う為に刀を取れば、それが自ずと自分と言う存在の証明になる様な気がした。

「私は·····自分の大切な人がこれ以上悲しむ姿は見たくない·····だから、ルクーシュに協力します!」

 ナコルも声を上げる。

「俺も、月を落とさせる気なんてさらさらありゃしねえ。ぶった斬ってでも止めさせて貰うぜ」

「あたしも、白沢堂のデンジャラス餡蜜が食べられなくなるのは嫌だからね〜」

 それぞれが決意を口にしていく。誰もが目指すべき明日に向かって進んでいく。それを捻じ曲げる権利など、誰も持ってはいないのだ。

 こうしてまた一つの夜が更けてゆく。

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