表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おとぎの國~TERRA~

熊の心臓

作者: ヒカリ

見た夢を書き起こしました。

灰緑の細かく尖った葉が密に繁る

その樹皮は明るい赤茶色をしている。

樹皮を(えぐ)る爪跡に触れ、眼下の谷底を見る。

見えない谷底から吹き上げる風は冷たい。

大陸の北、暖かな国々からは最果てであろうこの地で、俺は熊を捕る。



熊は大きい。

何を当たり前の事をと思うかもしれないが、実際に奴の前に行けばわかるさ。

大きい。

奴は大きいのだよ。





今日も尾根沿いに歩き熊を追う。

罠は使わない。

俺は奴の命をもらう。

だから俺も命を天秤に乗せる。




家族がいるんだ。

家に帰れば暖炉が燃えて、数日前からかけてある鍋が煮えている。野菜と水と塩を足しておくと旨い汁が食える。

家内と息子が3人。

家内は、俺が帰ると芋を焼いたものや葱や果実を汁と共に出してくれる。

息子たちは昼間に草や木切れで(こしら)えたものを俺に見せ、

それでひとしきり遊んでやる。




大切な家族。

暖かい家。

清冽な空気と豊かな森の恵み。

暖かな国々からは最果てであろうこの地の、更に奥地の山の(ふもと)に、俺の全てが有る。



俺は毎日夕暮れに、酒を飲む。

強い酒だ。

一日の終わりに酒を飲むと、何かを忘れることができる。

もう、何を忘れたのかも忘れた。

忘れなければこの生活が壊れてしまうほどの、何かを。




俺はなぜ、熊を追うのだ。

父も、祖父も、熊を追った。

熊を撃ち、肉と毛皮を得た。

時々、心臓や胆嚢の買い手がいる。


俺は熊を捕る。

生きるためだ。




木の肌を撫でた。

爪跡は深い。

俺はこれから、こいつを捕りに行く。

3日後に、熊の心臓を求めて買い手が来る。



行くぞ。

尾根伝いに熊を追うのだ。


下草をゆっくり踏め。

足は()るな。

膝から歩け。


熊の心臓を取ったら、酒を飲もう。


俺の心など忘れてしまおう。




熊よ。

俺の全て。



俺に心臓をくれないか。



俺も心を差し出すから。















ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ