帰田賦 現代語訳
都住まいも久しくなるが、世をよくする功績なく、網も持たず、川岸で魚を得たいと望むばかり。黄河の澄むよい時世を待つも、何時のことか 計られぬ。その昔、思いあぐねた蔡沢は、唐挙の占いに賭けて、迷いの霧をはらしたが、まこと人の運命は見通し難く 漁父をさがし求めて楽しみをともに分ちたいものだ。いざ、この世の塵芥から抜け出て遥かな彼方に去り、生臭い俗事との縁を永遠に絶とう。睢鳩は羽ばたき、倉庚は悲しげに鳴き、頸すりよせて、上に下にと飛びかけり、仲睦まじく伴を求めて呼び交わす。いざやこの地に遊び歩き、しばらく情を楽しませよう。そうして私は、大きな沢で龍の如く吟じ 山や丘で虎のように嘯き、仰いで細い繳を放ち、俯し見ては長い流れに釣り糸を垂らすのだ。鳥は矢にあたって斃れ、魚は餌を貪って鉤を呑む。かくて雲間を飛ぶがんも射落され、深い淵にひそむ魦鰡も釣りあげられる。いつしかに 日は西に傾き、月さし昇る。心ゆくまで遊び楽しみ、暮れがたになるも疲れを覚えぬ。しかし、狩を戒めた老子の遺訓に気づき、車駕を草蘆に帰すことにする。すぐれた五絃の調べを奏で、周公・孔子の書を口吟み、筆走らせては詩文を綴り、時には三皇の功業を書きしるす。