好きだけどスキはない
洋子には、片想いの相手がいた。
その人とは、幼稚園の頃からの腐れ縁。
小学校では遊び友達、中学校で別のクラスになっても、昼休憩はお互いの教室を行ったり来たりして共に過ごした。
高校はさすがに別れるかと覚悟していたら、なんと同じところに受かった。
その人は、洋子よりも成績が上だったから、もっと上の学校も選べたはずなのに、一緒の高校になったのは、自分に合わせてくれたんじゃないか、と洋子は密かに思っている。
その人の名前は、あきら。
男女どちらでも付けられそうな名前だけど、れっきとした女子だ。
つまり洋子は……、それはまあ彼女の心の中でのひっそりとした想いだったから、誰にも気づかれてはいなかった。
もっかのところ、洋子はこの想いをあきらに告げるつもりはないし、女友達という立場以上の何かを望んでもいなかった。
だってあきらが、ノーマルだってことは、とうの昔に知らされていたから。
中学校であきらに、初めて彼氏ができたとき。
そのことを照れくさそうに洋子に伝えてきたあきらの笑顔が、あんまりにも嬉しそうで。
自分の中の絶望感を、ミジンコほども悟られてはいけない、と洋子は思った。
その日から、洋子はまるで、自分が女優になったかのような気がしている。
あきらの大の親友。彼氏との恋バナを、楽しく聞いてあげる気のいい幼なじみ。祝福。祝福。祝福……。
全部、嘘だ。
張りぼての笑顔。
あきらの楽しげな恋バナなんて、ほんとは一秒だって、聞いていたくない。
どうして、自分じゃだめなんだろう。
ずっと一緒にいたのに。
誰より、あきらを大事にするのに。
なんで、あきらと付き合えないんだろう。
自室で一人になった自分は、まるで死んだ顔をしている。
あきらのことを好きでいればいるほど、付き合えない現実に、耐えきれなくなる。
いっそ、距離をとればいいのかな、と思ったことは、何度もある。
近いから、つらい。
そこにいるから、欲しくなる。
成長と共に価値観が変わって、疎遠状態に。
そんなの、ありふれた人間関係だ。
でも、できない。
離れたくなかった。
手に入らなくても、離れるのはいやだった。
それならまだ、何も望まず、お友達。
ずっと一生、お友達。
薄いメイクを仕上げて、いざゆかん。
今日もカラオケで、歌もそこそこ彼氏の話が飛び出ることだろう。
まあいいけどさ、と洋子は空を見上げた。