§2 ドラゴン先生編その一 『獣人』
眩しさに目を開くと空が青い。
雲が見える。
右手を目に翳そうとしたら何かに手首がひっかかる。
その何かから抜こうとしてゆっくり首を右に軽く捻ると、目を閉じて大きなため息をついた。
もう一度目を開ける。
「ここ……海の上?」
右腕は何か海藻みたいのがくっついているだけだ、ひとまず置いておこう。視線の先には水平線がゆぅらゆぅらしている。
首を左に捻ると、同じく水平線がゆぅらゆぅら……どうやら海に浮かぶ1畳くらいの板切れの上で仰向けで寝ているようだ。上体を起こすとひっくり返るかもしれない。
「やけど……」
左腕は草色の半そでの先が水膨れだらけだ……それからこれは何だろう?焦げ付いたフサフサしたものが肘から手首にかけて貼りついている。右腕と同じ海藻が焦げたのか?水膨れだらけの指先にも黒く拉げたなにかがくっついている。
左を向いたまま右腕のひっかかりをごそごそやるとあっさり抜けた。取っ手のようなものに拳が引っ掛かっていただけなのでグーをパーにしただけだ。右腕を見ると
「なにこれ?海藻じゃなくて毛?」
肘から手首にかけて黒地に白い縞模様の毛が生えている、そして5本の指先にはそれぞれカギ爪が生えている…そのまま右手でおそるおそる自分の顔を撫でてみる、なんということだ!ワシの顔中が毛むくじゃらだ!無精ひげとかそういうレベルではない。毛皮で覆われている。
「耳!これ、えっ?」
耳の位置がおかしい。指先を目元から横に這わせていけば耳にたどり着くはずなのにそこになく、目の端から縦に指先を這わせた先に耳がある。耳もフサフサだ!しかも動かせる。毛は顔全体、後頭部から肩あたりも、背中はどこまで生えているのかわからない、前も頬、顎から喉ぼとけくらいまでフッサフサだ。こりゃ大変だ。
あちこち体を弄った結果、膝下から踝までも毛で、足指の先もカギ爪だった。それよりもなによりも尾骶骨あたりから長く伸びるフサフサの縞柄のこれはっ!
「しっぽ!」
板切れをぴしゃぴしゃ2、3回叩き両膝の間あたりからおったててみた。左右に振り振り……ちゃんと動くし、仰向けに寝ても気にはならない。
なんだかいろおかしくなっている。
頭の中を整理しよう。ワシの一番最後の記憶はトラックに撥ねられて長いこと吹っ飛んで背中からどこかに落っこちたというものだった。ということは橋の欄干飛び越えて川に転落して……しかし欄干から落ちても海にはつかないし、獣人にもならない。
「っつーか、トラックに撥ねられた時点で死ぬよな。普通」
ワシが死ぬまでは間違っていないと思う。おかしいのは死んだ後だ。死後なんらかの力が発生して獣人として転生してしまったのであろう。しかもこの体は子供だ。さっきいろいろ弄っていたときに気が付いた。男であることとその周辺の状況から子供で間違いないだろうということに。
「ワシ、獣人の子供に転生した。それは追々なんとかするとして……」
現状をどうしようか。
ゆぅらゆぅら……