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異世界根無し草  作者: 陸海月
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 §1 サカモトさん編その三  『審査』 

「ではこちらをお受け取りください」


 ことり。


 さきほど新聞を受け取ったポストに今度はなにか軽いものが届いたようだ。とりだすとビニール小袋には黄色い帯に黒い文字で「消毒済み」と印刷されている。袋を破って中を取り出すと体温計のように見える。指先にフィットするようにやさしい球面に凹んだ薄ピンク色のボタン部に「ON」と彫られている。その横に電卓の画面色をした液晶が沈黙しており丸い先端は水銀色だ。


 「スイッチを押して耳に当ててください」


 言われたとおりにやって待つことしばし、体温計の『ピピッ』という電子音が聞こえる。耳から離して液晶を見ると『Wi-Fi』の文字が点滅している。


 「そのままでお待ちください」


 データを転送していると思うが、さっきからやり方が回りくどい。


 ぴーっぴーっぴーっ


 大きな電子音が三回鳴って液晶はオフになった。


 「審査は終了しました」


 「そうですか」


 サカモトさんは左手で原稿を受け取った。それはいいのだが、やはり気になる。


 「今、画面の右端にスタッフさんと思しき人の手が見切れていましたが、そちらには他にも誰かいるですか?」


 「イメージ上の演出です。お気になさらず」


 サカモトさん一人なのかの明確な返事にはなっていないが、もうどうでもいいか。


 「片倉登さん」


 原稿を見終えると、サカモトさんはこちらを見据えた。が、何故かメガネのレンズが白光りして彼の眼球が見えない。気のせいか背景が暗くなった。


 「まずお話ししなければならないのは、私との会話の記憶は全て転生先では再現できません。先ほどご説明した通り、脳が知覚した情報ではないので脳に還元できないのです」


 「ん?じゃ、魂は記憶している?」


 「そうです」


 「それを踏まえてお聞きください。まず審査の結果ですが、転生の適性については問題ありません。続いて片倉登さんのこれまでと転生先のとの齟齬ですが」


 「え?転生先はもう決まっているですか?」


 「いいえ、まだです。ただ説明する必要があります。転生先での生存率に関わる問題です」


 「はぁ。生存率……」


 何のことだろう?ここで説明を受けてもあっちに行ったらここでの記憶が無いのと一緒だから、あまり意味が無いように思えるが


 「魂に説明をしたとしなかったではその後の生存率に大きく差が発生し……」


 「説明した方が生存率が高いと?」


 「そうです」


 相変わらず白光りしているメガネのセンターをサカモトさんは中指でついっと押し上げる。


 「理由は今のところはっきりしておりませんが、転生先で死亡、拡散した魂を調べると説明を受けなかった魂は衰弱の度合いが激しい。というこまでは分かっております」


 「脳が知覚できなくても魂の記憶がなんらかの影響を与えていると?」


 「わかりません」


 またピシャリと遮られた。何かわかっているのか本当に分からないのかネガネ白光りのサカモトさんからは判断がつかない。背景の暗闇から赤黒い渦がゆっくり後光のように渦巻いている。なんか大切な話なのは理解できた。まあ、生存率は大事だけど、サカモトさんにとってなんで大事なんだ?


 「必要な説明とは魔力に関することです。片倉登さんの『元居た世界』では『魔力を脳が知覚(以下:知覚)』したことはありませんでしたね」


 「はい。なかったですね」


 「しかし、転生先によっては『日常的に知覚すること(以下:魔力の使用)』の必要がある場合も発生します。程度にもよりますが、その魔力の使用が特に日々の生活の糧を得るための手段、つまりは職業に代表される生き方の選択に大きく影響します。」


 「なるほど」


 「ですので、魔力について基本だけご承知おきください」


 サカモトさんの説明によれば、まず魔力とは魔力要素の制御であり、魔力要素そのものを得る方法は大まか二種類あって、ひとつは体内に魔力を発生させる臓器等がありそこから発生した魔力要素を得る方法と、もう一つは土、植物、鉱物、水、大気等から魔力要素を吸収して得る方法(この場合は呼吸のみから吸収、皮膚呼吸のみから吸収(呼吸と併用有り)、皮膚からの間接吸収、皮膚からの直接吸収(間接・直接併用あり)である。とのこと。この二種類を併用した場合もあるようだ。


「では魔力の使用の方法は?」


 使用の方法は基本的に『想像力』なんだそうだ。得た魔力を想像力によって変換する。


 「例えば魔力で水を……想像力によって『コップ一杯分』に変換し、自分が飲む。相手に飲ませる。同じく水を想像力で『高圧で押し出された状態』に変換し、何かを切断する。そんな感じ?」


 「そうですね。『コップ一杯分』と『高圧で押し出された状態』では使用する魔力量等が異なります。さらに『コップ一杯分』なら大小はともかく、誰でも同じように想像できますが、『高圧で押し出された状態』は人によっては……例えば子供なら『水鉄砲』一般人なら『放水車』ある特定の技術者、研究者なら『ウォータージェット』といったように『高圧で押し出す』を使用者がどのようにイメージするのかで変換後の水の状態は大きく異なります」


 ほぉ。


 「『水に溺れて苦しい』を想像してそれを魔力で変換して誰かにぶつけるとどうなるの?その人の周りに水が湧いてくるの?」


 「『水の属性』としての『魔力の使用』であればそうなりますが、『溺れて苦しい』を知覚させるだけなら別の属性の方法もあります」


 わかったようなわからんような…… 


 「以上はあくまで基本でして……」


 行き先によって『知覚』『魔力の使用』は様々な制限を受けたり、その逆もあるらしい。トランプゲームの『大貧民/大富豪』のローカルルールみたいものだろう。


 「少々喋りすぎましたが、生存率向上のための魔力の基礎についての説明は以上です」


 「あ、はい。ありがとうございます。魔力については、行けばわかりますね」


 「おっしゃる通りです。それでは……」


 メガネ白光りが止んだと思ったらサカモトさんの目が微笑んでいた。


 ニュース番組あたりからか、魂が行方不明って何だろう、それから魂の転生方法とか、魂のない脳、幽霊、サカモトさんが魂、イメージ上の演出、転生先はもう決まったのだろうか。生存率、魔力……


 わからんことだらけだ。そしてそのわからんことは全部転生したら思い出せない。


 そして最大の謎


 「なんでワシが転生できるの?ほかの人はどうなの?」


 サカモトさんはにっこりしながらテレビのリモコンらしきものを握っている。


 「お答えできません」


 サカモトさんの握られたリモコンがこちらに向けられるた。腑に落ちないが仕方ない。


 「あ、え、それでもなんだかいろいろおせわになりました」


 「では」


 ぷつんっ


 まっくらやみに溶けていった


 


  


 



  


 

 

  


   


  

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