商談の開始と新しい仕事
「ああ、クッキー、お天気も悪いのに急に無理を言ってごめんね」
本部の普段は使っていない会議室に案内されたレイは、机の上にいくつもの箱を並べているクッキーを見て慌てて駆け寄った。
「いえ、お呼びいただきありがとうございます。今レースをご覧いただけるようにご用意していますので、その間にご注文の毛皮の絨毯をご確認ください」
持って来てくれた毛皮を並べてラスティが確認するのを、レイは大人しく後ろで見ていた。
「これだけあれば、しばらくは大丈夫だね」
「しばらくって何が?」
レイの隣で、レースを並べるのを見ていたルークが、その言葉に振り返る。
「あのね、この三つ編みなんだけど、元は僕が寝ている間にシルフ達が僕の髪を好きに遊んでくしゃくしゃにしちゃうところから始まったんです。最初はちょっと寝癖が付くくらいだったのに、どんどん酷くなってきて、最近は絡まるだけじゃなくて、シルフ達が何処からか三つ編みを覚えてきたおかげで、僕の髪を三つ編みにするのがシルフ達の間で流行ったみたいなの。最初はもっと太かったのに、どんどん細くなっていってね。最近はもう本当に朝から解くだけでも大騒ぎだったんです。それで考えて身代わりを用意する事にして、この毛皮を代わりに結んで遊んでも良いからって言い聞かせて、僕の髪の毛で遊ぶのはやめてもらったら上手くいったんです」
「あはは、成る程。急に三つ編みなんか始めたからどうしたのかと思ってたよ。シルフ達が三つ編みするのには理由があったわけだな。でもそれなら一枚か二枚あれば良いだろうに、どうしてそんなに枚数がいるんだよ?」
不思議そうにそう言ったルークは、何枚も積み上がった毛皮の敷物を見て首を傾げている。
「だって、もう今朝見たらほとんど全部三つ編みになっちゃってたんだよ。あれを全部解くだけでも大仕事決定です。だから交換用の毛皮がいるんです。主に僕の髪の毛の安全を守る為に」
最後の言葉に、ルークとクッキーがほぼ同時に吹き出す。
「た、確かにそれは交換用の毛皮が必要ですね。すぐに追加のご注文を頂いたので、てっきりどなたかに贈られるのかと思っておりました」
クッキーが、なんとか笑いを収めて涙を拭いながらそう言って毛皮を見ている。
「でもこれを全部三つ編みにしたのなら……確かに解くのはちょっと大変そうですね」
まだ笑っていたルークだったが、そのクッキーの呟きに顔を上げて伝票を確認してるラスティを振り返る。
「なあ、もしかしてラスティがするんだよな。その毛皮を解くのってさ」
「はいもちろんです。少々時間がかかるでしょうが、これはレイルズ様の髪を守るためにも必要な作業ですから喜んでやりますよ」
とは言っているが、どう考えてもものすごく大変な作業であろう事は想像に難く無い。ラスティ達だって多くの仕事を抱えているので、決して暇では無いのに。
「なあ、それなら一つ提案があるけどどうだ?」
笑顔になったルークが、絨毯を指差す。
「その三つ編みだらけの絨毯を解す作業。基金が支援してる孤児院の子供達にお駄賃をあげてやらせたらどうだ。これなら室内で出来るし、まだ働けないような小さな子でも、三つ編みを編むのは難しいだろうけど、解くだけなら出来るだろうからさ」
「ああ、それは良い考えですね」
クッキーもルークの提案に同意して大きく頷く。
「小さい子の手の方が当然手は小さくて細いですから、細い三つ編みを解くだけなら教えたらすぐに出来ると思いますね。一緒に毛皮用のブラシを渡しておいて、三つ編みを解した後に綺麗に毛並みを整えるところまでやらせたら充分に仕事として成り立ちますね。それなら労働の対価を払えると思います」
目を輝かせたレイが、何度も頷く。
「じゃあ、そうしてもらいます。ねえラスティ、良いでしょう?」
満面の笑みのレイの言葉に、ラスティも笑顔になる。
「素晴らしい提案ですね、了解しました。私も助かりますので、是非そうさせて頂きます」
「孤児院の院長に連絡しておいてやるよ、あとはそっちで相談してくれ」
そう言ったルークと顔を寄せて、ラスティが何か真剣な顔で話をし始めた。どうやら頼む際のお駄賃について相談しているみたいだ。
相場が全く分からないレイは、そこは全面的に任せるしかない。
「しっかり払ってあげてね」
思わずそう声をかけると、振り返ったラスティは分かっていると言わんばかりに大きく頷いてくれた。
「そういえば、孤児院の子供って働く所が無いって言ってたよね」
小さな声で隣にいるクッキーに尋ねる。
「全く無いとは言いませんが、厳しいのが現実ですね。素晴らしい提案をありがとうございます。慣れてくれば、他の汚れた絨毯の手入れや修繕も子供達の仕事に出来るかもしれませんね」
「じゃあ、毎日頑張ってシルフ達に編んでもらわないとね」
嬉しそうなその言葉に、またクッキーが笑う。
「レイルズ様。それだと絨毯を編む目的がいつの間にか変わっていますよ」
「あ、そうだね。でも良いよ。子供達のお仕事が出来るんだものね」
そう言って笑ってくれる頼もしい友人に、クッキーは両手を握って額に当て、跪いて深々と頭を下げた。
「お優しいレイルズ様の子供達へのご配慮に心からの感謝を。ですが、どうかご無理はなさいませんように」
「ああ、もうそういうのは無しです! ほら立ってください」
照れ隠しに叫んだレイが、クッキーの腕を引っ張って立たせて、顔を見合わせて笑い合うのだった。




