昼食会と小さな頼まれごと
扉から並んで出てきたアルス皇子とティア妃殿下を見て、中庭は大歓声と拍手に包まれた。
そして整列していた兵士達が一斉に直立して敬礼する。マークとキムも、それに倣って揃って敬礼した。
「おめでとうございます!」
レイとカウリはこれ以上ない笑顔で揃ってそう叫んで、持っていた籠から花びらを掴んで思いっきりばら撒いた。二人の手から花びらが大きく散らされて広がる。
シルフ達が一斉にその花びらを風で巻き上げ、ゆっくりと腕を組んで出てきた二人の上に降らせた。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
子供達も満面の笑みでそう言いながら、持っていた籠から一斉に花びらを撒く。
シルフ達はおおはしゃぎしながら、何度も投げられる花びらを中庭中に撒き散らしていた。
整列していた兵士達の最前列にいた軍楽隊が祝福の演奏を始める。そして敬礼を解いた兵士達は拍手でお二人を祝福した。
今はもうヴェールを上げているティア妃殿下のお顔を、この時レイは初めて見た。そしてその愛らしさと美しさに密かに感動していた。
小振りなそのお顔に女神像のように整った鼻筋。そして自分と同じ濃い緑色の瞳。結い上げた髪は見事な銀色だ。
「うわあ、オルベラートの宝石と謳われる美貌は本物だったな」
「本当に綺麗な方だね」
カウリの小さな呟きに、レイも同意するように小さく頷きながらそう呟いた。
大歓声の中を花吹雪は舞い散り、笑顔のお二人はしばしの間、式に参列出来なかった貴族の人達や兵士達の前にそのお姿を見せてくれたのだった。
この後、城へ戻ったお二人は、両陛下を始めとした皇族の方々と一緒に昼食をお取りになると聞いているし、夜には城の大広間で、改めてティア姫様のお披露目を兼ねた夜会が開かれる事になっている。
ありったけの花弁を撒き終えたレイとカウリは、執事に籠を返して一旦中に戻り、竜騎士隊全員揃って改めて中庭に出て、そのままアルス皇子とティア妃殿下と一緒に城へ戻った。
もちろんお二人には、二頭のラプトルが引く屋根の無い専用の馬車が用意されていて、城までのわずかな距離をその馬車に乗って移動した。
竜騎士達にもラプトルが用意され、普段ならすぐに歩いて行けるほどの距離をゆっくりとお二人の乗る馬車の前後について一緒に城へ戻って行ったのだった。
「この後の予定ってどうなっているんですか?」
夜会があるとは聞いているが、午後からの予定を聞いていない。
「ああ、式に参列した方々はこれで終了だから一旦解散だよ。でもまあ俺達は、このままオルベラートの方々との昼食会に参加だ」
一瞬解散と聞いて喜んだが、予想通りの言葉にレイは声無き悲鳴をあげてルークの腕に縋り付いた。
「アラステア公爵閣下が、お前の竪琴にいたく感動されていたそうだから、今夜の夜会で、是非また演奏して欲しいって仰っていたそうだぞ」
「ええ! 無理言わないでください!」
「良いじゃないか。それに今夜も恐らく俺達の演奏もあるぞ。ティア妃殿下の歌の披露もあるからな。とても楽しみだよ」
目を輝かせるレイに、ルークも笑顔になる。
「でもまずは昼食会だな」
「はあい、頑張ります」
天井を仰ぐその情けない姿に、ルークは小さく吹き出して咳き込んでいた。
昼食会はそれほど改まったものでは無く、どちらかと言うと交流と会話を目的としたもののようだった。
円形の机に竜騎士隊の皆も分かれて座り、食事の間は同じ机の人達との会話を楽しみ、後半の軽いお酒が出る頃になると席を移動しての別のテーブルでの会話も盛んに交わされていた。
レイの机の隣の席にはオルベラートのデゼルト伯爵夫妻が座っていて、年配だがお二人とも精霊使いだと聞き、精霊魔法の合成の話で大いに盛り上がった。
その際に、歓迎式典の際の見事な合成魔法の噂を聞いたらしく、実際に見てみたいと切望されて困ってしまった。
「えっと、さすがに室内で実演するのは危険ですから無理ですが、外であれば許可をもらってお見せする事は出来ると思いますよ。それに、オリヴェル王子様が、これに関しての論文をかなり詳しくお読みになっておられましたし、詳しい資料もお渡ししましたので、帰国なさったら、恐らくですが何らかの形で研究室などを設置なさると思います」
「おお、そうなのですね。ではそれを楽しみにします。いやあ、今になって全く新しい精霊魔法を知る事が出来るとは。長生きするものですね」
目を細めて嬉しそうにワインを飲みながら伯爵夫妻は揃って頷き合っていた。
「ところで、レイルズ様。一つよろしいですか?」
急に改まってそう言われて、デザートのタルトを食べていたレイは、慌ててそれを飲み込んで居住まいを正した。
「殿下からお聞きしました。デルバード伯爵家のあの竪琴を貴方が所持なさっていると。そして、彼の執事だった竜人があなたの養い親だと」
「はい、そうです。ニコスは僕の大切な家族です」
その言葉にお二人は揃って嬉しそうに頷き、懐から小さな袋を取り出した。
「では、貴方に一つお願いがあります、聞いていただけますか?」
「はい、僕に出来る事でしたらお引き受けしますが?」
改まって、オルベラートの貴族から一体何を頼まれると言うのだろう。
不思議に思いつつそう言うと、伯爵は持っていたその小袋をレイの目の前に置いた。
「今となってはウィリディスの形見の品です。ニコスに持っていてもらうのが良いと思うのでね。出来れば直接渡して欲しい」
「ウィリディスって……」
一瞬誰の事かと思ったが、ニコスの亡くなられた主人だと気がついた。
「ウィリディス様って、ニコスの亡くなられた主人だった方ですよね」
驚くレイに、伯爵夫妻は頷いた。
「これは、彼が愛用していた腕輪の一つでね。あの、彼にとって最後となった旅の前に、国元で私と会った際に、彼が金具に引っ掛けて飾りの石を一つ外してしまったんだ。それで私が預かって修理する約束をした。戻ったら土産話と引き換えにこれを返すと言ってね。もちろんすぐに修理を終えて彼の帰りを待っていたんだがね。結局、渡せぬままになってしまった」
言葉も無く、目の前に置かれた袋を見つめる。
「陛下には報告してこちらでの処理は全て終わっている、これは私が引き継いだ事になっていて、今回、ニコスにこれを渡す事も陛下に報告済みだよ。だから安心して彼に届けてくれたまえ。成人してからのウィリディスは、これを気に入ってずっと身につけていたからね。きっと喜んでくれるだろう」
ニコスのシルフ達が現れて、何度も袋にキスをするのを見てレイは大きく頷いた。
「かしこまりました。確かにお預かりいたします」
そう言って両手でそれを持って、額の上に捧げるようにする。
「感謝する。急ぎはしないので、届けるのは其方に時間が出来てからで構わない」
笑顔の伯爵にそう言われて、お礼を言ってそれを剣帯に取り付けた小物入れにそっと入れた。
ニコスのシルフ達がそれを見て嬉しそうに頷く。
「これも、精霊王の采配なのかもしれんな。精霊王に感謝と祝福を」
笑って持っていたワインを捧げる伯爵夫妻に、レイも笑顔で飲んでいたりんご酒をそっと捧げたのだった。
「不思議な縁と人の繋がりに、精霊王に感謝と祝福を」




