夕食と最終日の女神の分所
「お待たせしました!」
ようやく、寝癖を直したレイが洗面所から飛び出してきて、まだ笑っていたロベリオとルークもようやく立ち上がった。
「それじゃあ、レイルズも無事に復活したようだから、食事に行こうか」
ルークの言葉に、レイは元気に返事をして彼らの後について部屋を出て行った。
いつものように食堂でしっかりと食べた。
「へえ、今日のお菓子はこれまた見事だな」
ロベリオの感心したような言葉に、レイも笑顔で大きく頷いた。
花祭り期間限定の本日のお菓子は、直径30セルテ程の大きさの円形を十二等分に切り分けてある綺麗なケーキだ。
その切られた断面には、何層ものごく薄い生地の間には真っ白なクリームが塗られているのが見える。
ケーキの上部には真っ白な粉砂糖が全面に振られていて、端の部分には真っ白なクリームで絞られた花が乗せられていて、これも可愛らしい。
そのケーキのお皿の横には、真っ赤なベリーのソースの入った器が置かれているので、これをかけて食べろと言うことなのだろう。
目を輝かせたレイは、横に添えられていた、いつもラスティ達が使っている三角の平らなスコップのようになったケーキサーバーを使って、自分のお皿に二切れ並べて乗せた。ベリーのソースも、ケーキの上にたっぷりとかける。
すると、ベリーのソースの真っ赤な色がケーキの間に染みて、綺麗な層を浮かび上がらせた。
「うわあ、綺麗」
目を輝かせるレイの声に、周りにいた兵士達もお菓子を覗き込んで笑顔になった。
奥からどんどん追加のケーキが取り出されて並ぶのを見て、何人もがケーキ用のお皿を持って列に並んだ。
「これ、おいしいです!」
席に戻って、いつものカナエ草のお茶と一緒にそのケーキを食べたレイは、満面の笑みになった。
「これ、以前にも出た事があるけど、久し振りに見たな。なんでもこの層になってる薄いのは、一枚一枚焼いて重ねてるって聞いた事があるぞ」
ルークの言葉に、こんなに薄い層をどうやって切るのかと思っていたレイは、食べるのをやめて思わず層の数を数えた。
「うわ、十二枚もあるよ」
「数えたのかよ!」
両隣からそう言われて、レイは小さく吹き出した。
「だってそんなの聞いたら数えたくなるでしょう? だけど確かに、端っこを見るとちょっとずれてるね。一枚ずつ焼いてあるんだって分かる。凄いや」
ケーキを眺めて感心したようにそう呟くレイに、ルークは笑って肩を突っついた。
「花祭りの会場で、こんなふうに円錐形になった、花束のようなお菓子を食べたのを覚えてるか?」
もちろん覚えている。とても綺麗で美味しかったし、ディーディー達も大喜びだったのだ。
笑顔で頷くレイに、ルークはお皿に乗ったケーキを指さした。
「あれは、この一枚にクリームと果物なんかを挟んで飾り付けた物だよ」
「ええ! じゃあ、あれと同じお菓子になるんですか?」
「お菓子の種類としては別になるんだろうけど、使っている材料は同じだな」
「へえ、お菓子って凄いんだね……」
感心したようなレイの呟きに、皆も改めて自分が取ってきたそのケーキを見る。
「これだって、専用の菓子職人がいて沢山作ってくれているんだもんな。感謝して頂かないと」
ルークの言葉に、レイは笑顔で大きく頷いて二個目のケーキを食べ始めた。
「相変わらずよく食うな」
ロベリオの言葉に、三人は苦笑いしながら頷いているのだった。
「えっと、明日の予定ってどうなってるんですか?」
「初日と同じだよ。俺達全員食事の後、そのまま城にある女神の分所へ行って、夜が開けるまで一晩中交代で蝋燭の守りと祈りと歌」
「花撒きは誰が出るの?」
最後の一切れを飲み込んでからそう尋ねると、ルークが飲んでいたお茶を置いて振り返った。
「去年と同じだよ。全員参加だ」
目を輝かせるレイに、ルークも笑っている。
「ラピスは身体が大きいからさ、花箱も沢山運べるだろう。幸せは一つでも多く届けてやらないとな」
「はい!」
「相変わらず元気だなあ」
タドラの呆れたような声に、ロベリオ達もお茶を飲みながら笑っているのだった。
「それと、明日の朝は、またマティルダ様が朝食にお誘いくださるからな。それでその後はラプトルに乗って花祭りの会場へ移動。閉会式と各種表彰に立ち会って、そのままとんぼ返りで城に戻って竜に乗って会場へ戻って花撒きだ。明日も忙しいぞ。でもそれで俺達の花祭りでのお役目は全部終わりだ」
「分かりました。じゃあこの後はまた女神の分所だね」
カナエ草のお茶を飲みながらそう言うと、ルークがニンマリと笑って顔を覗き込んで来た。
「分所では彼女の顔を見られるかな?」
「な、何の事だかわかりません!」
そっぽを向いてそう言い、残りのカナエ草のお茶を飲み干した。
食堂から引き上げた後、いったん各自の部屋に戻り、身なりを整えてから揃って城にある女神の分所へ向かった。
「えっと、殿下やマイリー、それからヴィゴとカウリは?」
渡り廊下を歩きながら隣を歩くルークを見る。
「大人組は、朝からずっと来客との会見と会食。今年はカウリも連行されてるから、一人当たりの担当人数は少なくなって喜んでたよ」
「カウリは死んだみたいな目になってたけどな」
ルークとロベリオの言葉に、ユージンとタドラが吹き出す。
「だけど、カウリが来てくれてからこっち、マイリーの仕事量は激減したからね。俺も手伝ってるけど、微々たるものだからさ。本当にありがたい事だよ」
肩を竦めるルークの言葉に、若竜三人組も揃って頷いている。
「凄いね」
素直に感心するレイにルークは苦笑いしている。
「本当なら俺にもお呼びがかかるかと思ってたんだけどな。レイルズの教育係ってのは、案外、いい免罪符になってるのかもな」
小さくそう呟き、もう一度肩を竦めたのだった。
到着した女神の分所は、相変わらず大勢の参拝者であふれていた。
参拝者達が交代で灯す蝋燭の炎が揺らめいて、祭壇の女神像を柔らかな光で照らしていた。
「あ、キムがいる」
小さく呟いたレイの声に、ルークが振り返る。
「本当だな。今夜は彼が担当か」
「あ、あっちにマークもいるよ」
うれしそうなレイの声に、何人かのシルフ達が勝手に飛んで行ってマークやキムの髪を引っ張り始めた。
「こら、お仕事の邪魔しちゃ駄目だって」
慌てるレイに、マークとキムが小さく肩を揺らしたのが見えた。
『シルフ達の悪戯はいつもの事だって』
『全くだよ彼女達は気まぐれだからね』
二人の使いのシルフの言葉に、レイだけでなく、ルークと若竜三人組も一緒になって小さく笑った。
「ご苦労。変わりは無いか」
その時、僅かに場内がざわめき、アルス皇子とマイリー達が揃って入って来た。
アルス皇子が軽く場内の参拝者達に向かって一礼して座ると、すぐに騒めきは収まり、また場内は祈りの声と時折鳴らされるミスリルの鈴の音だけになった。
全員揃ったところで、順番に女神像に参拝をして蝋燭を捧げた。
席に戻って座ったところで、ミスリルの鐘を持った巫女達が出てくるのを見て、皆立ち上がった。
巫女達の中にディーディーやニーカ、それからジャスミンの姿を見つけてこっそり眺めていたレイも、慌てて立ち上がったのだった。




