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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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図書館での時間とニコスのシルフ達

 その日は、夜の後援会主催の夜会以外は特に予定は無いのだと聞き、レイは、夕方まで城の図書館で好きなだけ本を読んで過ごした。

 見える範囲のすべてに本がぎっしりと詰まっているここは、レイの大好きな場所だ。

 自分では持っていない天文学関係の分厚い本を、夢中になって時間を忘れて読み耽った。



 図書館のすぐ隣の建物には、喫茶室と呼ばれる、有料で食事が出来る場所がある。

 城の食堂から調理人が来てくれているここは、軽食を中心にお金を払って食べられるようになっているのだ。

 貴族の場合は、伝票にサインをして家に支払いを回し、兵士達は、自分が持っている木札に書かれた番号で伝票を切ってもらう仕組みだ。

 今ではレイも、ラスティから木札を貰っている。

 まだ街では買い物をした事は無い。唯一、ここだけが木札を自分で使う事が出来る場所なのだ。

 お昼はここで食べるとラスティに伝えてある。



 一点鐘の鐘の音に気付き、慌ててレイは喫茶室に向かった。

 本に夢中になると寝食を忘れそうになるレイに、ラスティは毎回言い聞かせているのだ。必ずお昼はしっかり食べてください、と。

 後日伝票が行くので、食べ損なったらラスティに知られて心配をかける。

 レイは、読み掛けていた本を読書中を示す白い籠に入れて座席に置いた。

 こうしておけば、ここは読みかけでちょっと席を外しています、という表示になるのだ。

 籠をそのままにして、レイは急いで隣の建物の喫茶室へ向かった。




 喫茶室では、メニューを見て自分で注文をして、その場で作ってもらったものを自分で席まで運ぶ。片付けは置いておけば担当者が片付けてくれる仕組みだ。

 ちょっと考えて紅茶をポットで貰い、たっぷりの野菜と生ハムがぎっしりと挟まれたパンと、同じくたっぷりの野菜と一緒にレバーフライが挟まれたパンを取る。それから綺麗にカットされた果物を取って、全部まとめて伝票を切ってもらった。

 壁側の空いた席に座り、きちんとお祈りをしてから食べ始める。



 真っ赤な竜騎士見習いのレイルズは、何処にいても目立つ。

 しかし、逆に目立つが故にあまりあからさまな声掛けも行われず、皆、何となく遠巻きにして彼を見ているような状態が常だ。

 しかし、この日は違った。

「あれ? レイルズ……様。お一人ですか?」

 声をかけて来たのは、同じくらい料理の乗ったトレーを持ったキムだった。

「あれ、キム。一人なの?」

 食べかけていたパンを置いて、笑顔で前の席を示す。ほら、ここに座って。と言わんばかりだ。

「失礼します」

 小さく笑ったキムは、持っていたトレーを置いて席についた。

 こちらもきちんとお祈りをしてから食べ始める。

 しばらくは、二人とも黙々と持って来たものを食べた。



 しっかり二つとも食べ終えてから、お代わりの紅茶にミルクを入れてゆっくりと飲む。

「マークは、今日も神殿の警備応援に入ってます。午後からは精霊通信室の通常業務です。俺は、今日は一日論文を書く為に休みを頂いたんです」

 周りが聞き耳を立てているのに気付いているキムは、苦笑いしながらやや改まった口調で話す。

 一瞬、口を尖らせて拗ねて文句を言いかけたが、レイも周りの人達がこっちを気にしているのに気付いて、情けなさそうに眉を寄せた。

「頼むから拗ねるなよ」

 ごく小さい声でそう言われて、レイはちょっと笑う。

「拗ねてません」

「嘘つけ。まあ良いよ。レイルズ様はお一人なんですね」

 後半は、普通の声で話す。

 いつもなら、レイが図書館にいる時は、大抵の場合、竜騎士隊の誰かが一緒にいるのだ。

「うん、今日は竜騎士隊の人達は皆出払ってて本部には誰もいなかったよ。僕は夜は夜会の予定があるんだけど、夕方迄は自由にして良いって言われたからさ。それで午前中からずっとここで本を読んでるんだ」

「そうなんですね。相変わらず、本がお好きなんですね」

 笑ったキムの言葉に、レイは小さなため息を吐いた。

「うう、やっぱりなんだか嫌だ、その言葉遣い」

 そう言って、また拗ねたように眉を寄せる。

「駄目です。良い加減慣れてください」

 これはもう、毎回外で会った時のお約束になっている会話だ。無言で顔を見合わせて小さく吹き出す。

「うん。まあ良いや。ねえ、今はどんな論文を書いてるの?」

 目を輝かせるレイのお願いに負けて、キムはこの後書きかけの論文をレイに見せる事になってしまい、大いに焦ったのだった。

 食事の後は、ラスティが時間だと呼びに来るまで、レイは自分の読みかけていた本を先に片付け、キムと一緒に彼の論文作りの手伝いをして過ごした。




 図書館でキムと別れて本部に戻ったレイは、早めの夕食を食堂でしっかり食べて、それから夜会用の礼装に着替えて、夜会の会場のある城へ向かった。

 今夜は一人での参加なので、会場までラスティがついて来てくれたおかげで、城の中で迷子にならずにすんで、レイは密かに安堵していた。

 今通っている廊下は何となく見覚えがある気がするのだが、城の内部がどうなっているのかはまださっぱり分からない。ニコスのシルフの案内無しには、中庭を突っ切って白の塔へ行く道以外は歩く事は出来そうに無いレイだった。




 ニコスのシルフ達は、もう、この城にいるシルフ達から城の詳しい風の流れを聞き、ほぼ全ての場所を把握している。

 建物の中の風の流れ、それはつまり廊下の事だ。そして、窓が無い通路、それは隠し通路を意味している。

 そして逆に、窓があるのに風が滞る場所、それが通常の部屋であり、窓が無く風が滞り扉も無い場所、それは即ち隠し部屋に他ならない。

 なので、行った事は無くても、そこがどう言った場所で、何処に繋がっているかという判断がつくのだ。

 しかし、知識の精霊達は、敢えてレイにそういった事をあまり詳しく教えていない。

 あくまでも彼女達がするのは、レイルズの補助なのだから、彼自身にまずは覚える努力をして貰わなければならない。

 今の所、彼女達の勉強熱心な主人は、彼女達の期待に充分すぎるくらいに応えてくれている。



 だが、肝心のレイは、彼女達は一度でも行った事がある場所を覚えてくれているのだとばかり思い込んでいて、彼女達は本当に凄いんだなと、呑気に感心しているのだった。

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