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騎竜に乗ってみる

 降誕祭が終わったら、新しい年まではあっという間だった。

 晴れた日は、草原へ皆で上がり、来てくれたブルーと一緒に精霊魔法の練習をする。

 もう、強い風を起こす事も、風で草を切る事も出来るようになった。

 ギードに教えてもらって、火の扱いもずいぶん上手くなった。

 皆に褒めてもらって、ちょっとだけ自分に自信がついた。


 そして、何より背が伸びた。

 もう、ここに来た時に着ていた、母さんの作ってくれた服は着る事が出来なくなった。

 それどころか、最初にニコスに作ってもらった服も着られなくなった程だ。

「背が伸びただけではなく、筋肉もしっかり付いてきましたね。身体に厚みが出てきた」

 ニコスが、新しい服を着たレイを見て満足そうに笑った。

 全体に、ゆったりめに作られた新しい服は、体を動かしても全く無理がない。

「それにもう、俺より背が高いよな。人間の子供の成長の早さはすごいな」

 立ち上がって横に並んだニコスは、嬉しそうにそう言った。

「ほんとだ! ちょっと僕の方が高い!」

 背中合わせになって、頭の上に手をやったレイは、高さを確認して声をあげる。

「しかも、まだまだ伸びそうだな。どこまで大きくなるか楽しみだよ。見下ろされる日も、そう遠くないな」

 レイの背中を叩いて、ニコスは感心したように笑った。


 ラプトルに乗る訓練は、装備を一定時間内に整える事が出来るようになってからだと言われ、毎日練習している。

 ところが、最初のうちは、装備を装着している間は大人しくしていてくれたポリーだが、何度かやっているうちに、レイが装備をつけている最中に服を咥えて引っ張ったり、髪を引っ張ったりして、戯れて邪魔をするようになった。

 お陰でなかなか良い記録が出ない。

「ポリーに舐められてますよ、レイ。貴方より自分の方が偉いと思われてるから、こんな風に邪魔をするんです」

 苦笑いしながら、監督しているタキスに言われる。

「そんな事言われたって、それ事実だよ。僕よりポリーの方が、どう考えても強いって」

 腕を甘噛みするポリーの頭を押さえながら、振り返ったレイが困ったように言った。

「ポリー、いい加減にしなさい」

 タキスが、ポリーの頭を押さえて少し強く言った。

 途端に、ポリーは口を離しタキスの手に、まるで謝るように頭を擦り付ける。

「背中に乗ると言うことは、その騎竜を自分の意のままに動かせる事が大前提ですからね。舐められていては、乗った時に言うことを聞いてくれませんよ」

「どうしたらいいの?」

 困ったように、ポリーを撫でながらこっちを見て言う。

 背は高くなったとは言っても、まだまだ子供だ。ポリーにとっては、レイは保護の対象なのだろう。

「もう、装備は整えられますね。なら、一度乗ってみますか?」

「いいの?」

「貴方を、自分の背に乗せても良い相手だと、ポリーに解らせるのが一番ですからね」

 にっこり笑ってポリーの背を叩いてやる。

 そうは言っても、今のままポリーに乗れば、レイは間違い無く振り落とされるだろう。

 それでも、頑張って自分で乗りこなしてもらうしかない。

 これは遊びではないのだ。

 騎竜に乗ることは、森で生きていく上で、絶対に必要な事なのだから。


 今いる場所は、家畜や騎竜達のいる広場の一段下にある、柱のある広場だ。

 レイの訓練のため、ベラとポリーを連れてきている。

 ここは元々、騎竜に乗るのが苦手なドワーフ達が、練習する為に作った場所で、その為ここの床は、硬い岩盤ではなく、柔らかな土が一面に敷かれている。

 広場の端では、ギードがノームを呼び出して何やら耳打ちしている。

 そっちを見ると、ギードが振り返って頷いた。どうやら話はついたらしい。


「それでは、乗ってみましょう。まず、この(あぶみ)に足をかけます。こんな風にね」

 まずは見本を見せる。そのまま、軽々と乗り上げて跨った。

 タキスは簡単に乗って見せたが、実際、見るのとやるのでは大違いだ。

 まず、鐙に足を固定するだけでも初心者には大変だ。

 なんとか足を乗せられたら、その状態から地面を蹴って飛び上がり、まずは鐙の上に片足で立った状態にする。そこから、鐙に乗せた片足で踏ん張って鞍を跨ぐのだ。

 しかもその間、騎竜がじっとしていてくれるとは限らない。


 レイは、鐙に左足を乗せるところまでは出来たが、飛び上がって直立する事が出来ない。当然、跨ることなど不可能だ。無言で慌てている。

 助けを求めたら手を貸そうと思っていたが、自分でなんとかするつもりらしく、何度も片足で飛び上がりかけては失敗を繰り返している。

「レイ、左手でポリーの首の付け根のあたりをしっかり持ちなさい。少しぐらい力を入れて掴んでも大丈夫ですよ」

 ベラの首筋を叩きながらコツを教えてやる。

 レイは無言で頷くと、遠慮しがちだった左手を伸ばして首の上に乗せて、出っ張った骨の辺りをしっかりと掴んだ。

 驚いたポリーが目を瞬く。しかし、抵抗する事なくじっと堪えている。

「せいっ!」

 掛け声と共に飛び上がった体は、なんとか鐙の上で立ち上がる事が出来た。

 そのまま、 一気に右足をあげて跨った。

「の、乗れた!」

 嬉しそうに声を出した瞬間、ポリーが軽く身震いした。

「うわっ!」

 落ちるかと思い、慌てて駆け寄ろうとしたが、レイはちゃんと手綱を持って、両足に力を入れて、ポリーの体を挟むようにして、自力で踏ん張っている。

 落ち着いたところで、右足も鐙に入れた。

「よしよし、ありがとうなポリー。お陰でうまく乗れたよ」

 嬉しそうにそう言うと、ポリーの首筋を軽く叩く。

 もう一度軽く身震いすると、ポリーは甘えるように鳴いて、首を上げて振り返り、自分の背に乗るレイを横目で見た。


「えっと、こうだね」

 そう言うと、手綱は引かずに持ったまま、両足でポリーの脇腹を軽く蹴った。

 指示されたポリーが、素直に前にゆっくりと進む。そのまま真っ直ぐ歩いて、丸くなった広場を歩きだした。

 慌てて、ベラに指示を出し後を追う。

「もう少し背筋をまっすぐに。それ以外はうまく出来てますよ」

 横に並んで声をかける。

 緊張しているようで、前を見たまま頷いて、無言で背筋を伸ばした。

「右へ曲がってみましょう。手綱の右を軽く引いて少し体重を右に傾けます。そう、上手ですよ」

 驚いた事に、レイは並足の状態で、教えた通りに右に、左に、曲がってみせた。

 ポリーも、しっかりと言うことを聞いている。

 どうやら大丈夫のようだ。レイも安心したのか、こっちを向いて笑った。

 その時、ポリーがいきなり軽く跳ねた。

「うわわっ!」

 反動で跳ね上がった体は、そのまま後ろに吹っ飛んだ。

 あっと思った時には、レイは背中から落っこちていた。

 駆け寄って無言で地面を見ると、レイの身体を受け止めてくれた三人のノームが、得意げにこっちを見ている。

「ありがとうございます。さすがですね」

 笑って礼を言ったが、受け止められた方は、落ちた体勢のままで硬直している

「大丈夫ですか?油断するとこうなりますから、乗っている時は、集中してくださいね。油断してはいけませんよ」

「……び、びっくりした。今、何が起こったの?」

 ようやく動けるようになったレイが、ノーム達の手から立ち上がりこっちを見た。

「まずは、受け止めてくれたノーム達にお礼を」

 笑って注意すると、レイは慌てて振り返った。

「ありがとうございます! お陰で怪我せずに済みました!」

 両手を揃えて直立すると、自分を見ているノーム達にお礼を言った。

『良い良い無事で何より』

『ここは我らが守る故安心するが良し』

『雛が育つ姿は嬉しや嬉しや』

 三人は笑ってそう言うと、いなくなった。

「ノームが守ってくれるなら、安心だね」

 照れ臭そうに笑うと服に付いた土を払い、ポリーの側へ来る。

「ポリー、いきなり跳ねるからびっくりしたじゃないか」

 ちょっと口を尖らせて、ポリーに文句を言うのをタキスは面白そうに眺めていた。

「ダメだよ。僕はまだ初心者なんだから、ゆっくり動いてくれないと」

 まるで、ごめんなさいとでも言うように、喉を鳴らすとレイの体に顔を擦り付けている。

 どうやら、相互の信頼関係は築けているようだ。


 もう一度乗るところからやり直したが、もうコツを掴んだらしく、少し手間取ったが、自力で乗る事が出来た。

「覚えが早くて何よりです。これはもう、慣れるしかないので、何度も乗り降りを繰り返して、体に覚えこませる事ですよ」

 タキスに言われて、レイは身体をまっすぐにしたまま何度も頷いた。


 その日は、夕食までの間、何度も乗り降りを繰り返し、一度の動作で鞍に跨がれるようにまでなった。最後に早足で広場を一周して、この日の練習は終わりになった。

「すごいや!一日で乗れるようになったよ」

 満面の笑みで嬉しそうに言うと、ポリーの首に抱きついた。

「ありがとうポリー、これからもよろしくね」

 抱きつかれたポリーは、嬉しそうに一鳴きすると、レイの腕を甘噛みした。

「心配は要らんかったようだな」

 ベラの首筋を叩きながら、見ていたギードが笑う。

「ここでも、素晴らしい運動神経がものを言いましたね」

「全くだ。初めての乗竜で、落ちたのが一度きりとは驚きだわい」

 二人は顔を見合わせて頷きあった。

「さあ、ベラとポリーを広場に戻して拭いて、水を飲ませてやってから戻りましょう」

 ベラの手綱を引きながら声をかけると、元気な返事が返ってきた。

騎竜に乗る描写は、作者の乗馬体験に基づいています。さすがに落ちはしませんでしたが、何しろ大きな馬に跨るまでが大苦戦でしたね。

でも、頑張って乗れた時の感動は、今でも鮮明に覚えています。何であれ初体験は楽しいですね。

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