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冬籠りの準備と精霊魔法の勉強

 ギードの家で休憩した後、作業を再開する。

 納屋からタキスが脚立を持って来て、脚立の一番上に上がる。ニコスが揺れない様に脚立を押さえていると、タキスは木で作った厩舎の屋根を、内側から外し始めた。

「え? すごい、そんな事出来るの?」

 驚いていると、外した大きな板をギードが受け取って、岩の壁側に立て掛けてていく。

「厩舎と家畜小屋は、冬の間は雪の重みで壊れない様に解体するんですよ。凄いでしょ、屋根と梁は簡単に外して、また組み立てられる様に出来てるんですよ」

 タキスはそう言って、一度降りて脚立の場所を変えると、また登って別の屋根を外していく。

 屋根が無くなると、天井の梁を今度はギードが登ってハンマーで叩いて外し始めた。

「この作業はちょっと危ないですから、貴方は下がっててくださいね。外した梁を置きますから、板の横にある物を奥の棚に片付けておいてください」

 急いで、言われた通りに、散らかっている木の箱や交換用の柵の棒などを、奥へ片付ける。

 どんどん梁は外され、横に渡された木は全て外されてしまった。

 太い柱は、そのまま立てておくのだと言う。

 積み上がった木の板と梁の上には、大きな布が掛けられる。重しの石を載せると作業は終了だ。

「さて、家畜小屋もやってしまおう」

 ギードが脚立を持って、皆一緒に家畜小屋へ向かうと、同じようにタキスが屋根を外し、ギードが梁を外していく。

 レイも、今度は少しだけ運ぶのを手伝った。板は運べたけれど、梁は重くて一人では運べず、ギードと一緒に運んだ。


「お疲れさん。これで冬籠りの支度は完了だな。さすがに、一日で全部やると疲れるのう」

「全くです。もう少しゆっくり降って欲しいですね」

「まあ、今年は色々あったからな。終わり良ければ全て良しだよ」

 タキスとニコスが、笑って頷いた。

「それじゃあ、飯の支度をしてくるよ」

 そう言って、ニコスが先に家へと戻っていった。

「これから、本格的な雪が降り始めると、もう家の扉からは外に出られません。ギードの家は風向きの関係で埋まることがまず無いんですよ。もし、埋まってしまっても、こっちの扉は内側にも外側にも開くように作られてるんです。ほら、凄いでしょ」

 タキスはそう言うと、ギードの家の扉を、内側に押して開いた。

「凄い! 魔法みたいだ」

 思わず拍手すると、二人に笑われた。

「さて、それでは片付けたら戻って飯に致そう」

 ギードが大きく伸びをして、脚立を持ち上げた。


 それから数日は曇り空が続いたが、雪が降ることは無かったので、広場の壁に作られた大きな螺旋階段を上って、上の草原へ、ラプトルや家畜達を毎日連れて行った。

 皆、慣れているらしく、当たり前のように並んで階段を登って行く。ヤンとオットーも、大人しくポリーの後について行った。

 上った先は、突き出た岩の陰に作られた、鉄製の扉だった。

「岩の下にこんなものがあったなんて、全く気付かなかったよ。すごいね」

 扉から出て、辺りを見回して感心したように呟いた。

「ここも、風向きの関係で雪に埋まる事は無いんですよ。万一埋まることがあれば、火蜥蜴に頼んで、積もった雪を溶かしてもらいます」

 タキスが、扉を叩いて笑った。

「そのための鉄製なんですよ」

「もしかして、その扉ごと熱するの?」

 驚いて尋ねると、笑いながら頷いた。

「まあ、私はもうここに住んで長いですが、埋まったのは一度だけですね」

「……埋まったことあるんだ。ちょっと見てみたいかも」

 思わずそう呟くと、火蜥蜴が現れて肩に乗り、何度も首を振っている。

「それは駄目なの?」

 レイの顔を見て、何度も頷く。

「火蜥蜴はやっちゃ駄目だって」

 見ていたタキスは、苦笑いして頷いた。

「まあ、そうでしょうね。溶けた時に出る蒸気で、そこら中霜だらけになるし、階段は、溶けて流れてきた水でびしょ濡れになるし、水の精霊に頼んで何とか止めましたが、後始末がかなり大変だったんですよ」

「うわあ、大変そう。いい、じゃあ見たくない!」

 両手でバツを作って、顔を見合わせて笑った。


 冬籠りの生活は、なかなか大変だが、普段とは違った楽しみもあった。でも、基本的な作業は同じで、畑仕事が無くなった分、自由時間が増えたくらいだ。

 午前中は、まず広場の掃除や汚れた物の片付けだ。普段と違って、掃除で出た汚れた物は、広場の壁に作られた別の小さな部屋に置いておく。

 そこの床は土になっていて、上の堆肥置き場と同じようになっている。火蜥蜴が保温してくれているらしく、その部屋はとても温かい。いつも土の上に一匹か二匹寝ているのだ。

 その子達を見ていて、ふと思った。

 そう言えば、皆同じ姿に見える火蜥蜴だが、自分の火の守役と言われた火蜥蜴の事は、何故か見分けがつくのだ。明らかに顔が違って見える。

 不思議に思ってギードに聞いてみると、笑って教えてくれた。

「それが仲良くなると言う事なんですよ。レイはまだ見分けがつかないようだが、ワシにはどの子も皆、違って見えますぞ」

 そう言って、側に来た火蜥蜴を撫でてやる。大きな手に撫でられて、火蜥蜴は嬉しそうだ。

「知らない事がいっぱいあるね。早く色んな事が出来るようになりたいな」

 そういうと、手を出して火蜥蜴の背中を優しく撫でた。


 お天気の日には、ブルーが来てくれる。

 上の草原で、家畜達とラプトル達を放してやった後、ブルーから、精霊魔法について教えてもらうようになった。

 まず、使いたい属性の精霊達と仲良くなっている事が前提で、その上で、して欲しい事を出来るだけ具体的に思い描くのだと言われた。

「レイが初めて使ったと言う火の魔法、その時の其方は、寒かったので暖まりたかったのであろう?」

「そうだよ、上着を着てくれば良かったって思ってた」

「そこで、レイと仲良くなっていた火蜥蜴が、何とかしてやろうと考えて、その望みを叶えてくれた訳だ」

「無意識に使っちゃう事もあるの?」

 ブルーは、少し考えてから答えてくれた。

「人の子の精霊魔法が、一般的にどの程度迄使えるのか我は知らぬが、少なくとも無意識に魔法を使った。などと言うのは、初めて聞くな」

 照れたように笑うと、ブルーは体に頬摺りして言ってくれた。

「我の主は、どうやら精霊魔法の才能があるようだ。シルフ達とも随分と仲良くなっておるのだから、練習してみるとよい。今なら、我がいるから何があっても大丈夫だぞ」

 その言葉を聞いて、草原で山羊や牛のブラシをしていたタキスとギードが、来てくれた。

 向こうで、ラプトルの世話をしていたニコスも、声を聞いて来てくれた。

「おお、それは心強い。せっかくなので、少し練習してみますか」

 ギードが笑うと、タキスも頷いてくれた。

「そうですね、狭い室内でするより安全です。せっかくなのでやってみますか」

 ニコスも笑って頷いている。

 皆にそう言われて、やる気になったが、具体的にどうすれば良いのか分からない。

 困ったようにブルーを見ると、頷くと空に向かって言った。

「シルフ、風を起こせ」

 すると、いきなり突風が吹いて思わず顔を覆った。

 風は一瞬で消えてしまった。

「……すごい! 」

 興奮して飛び跳ねる。

「今のは風だが、強さを調節すれば岩を割る事も、生き物を切り裂く事だって出来る。カマイタチと呼ばれる技だ。水も同じだ。弱く出せば、皆が使っているようにお茶を飲むためにやかんに入れたり、手を洗ったり出来る。しかし、使い方を変えれば、水でも岩を割れる。もちろん生き物を切り裂く事も簡単だ。火の威力は知っていよう」

 ブルーが真剣に教えてくれる内容を聞いていて、段々怖くなってきた。

 単純に、魔法が使えたら便利だし格好良い、程度にしか考えてなかったが、確かに使い方を誤れば、とんでもない事になるのだ。

 もし、人に対して使ったら……考えただけで、震えそうになった。

「難しく考える事はありませんよ。貴方がどんな風に魔法を使いたいか。それをしっかり考えてください」

 タキスが側に来て、震えている手を握ってくれた。

「たとえば、ニコスが料理に使う肉切り包丁。ギードが薪を割る時の手斧。普段当たり前に使っていますが、武器にもなりますよね。それと同じ事です。道具に罪はありません。使う者がどんな風に使うかで、役に立つ事もあれば、人を殺す道具にもなる。忘れないでください。魔法と言うのは、それくらい力のある技なんです。だから、それを使う者には、それだけの責任が求められるんです」

「……僕に出来るかな」

 自分に自信の無いレイは、不安になってタキスの手を握り返した。

「大丈夫ですよ。もし、貴方が間違えそうになったら、絶対に私が止めてあげます。私は体力ではギードやニコスには負けますが、魔法の腕は一番ですからね」

 笑って抱きしめてくれた。

「大丈夫です。貴方は貴方の信じる道を歩いて下さい。きっと、お母上が導いてくださいますよ」

 胸がいっぱいになって、何度も頷いて抱き返した。

 震える背中を、ブルーが尻尾で優しく叩いてくれた。

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