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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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見学とミスリルの鞘

「ご馳走様でした。美味しかったです」

 食べ終わったトレーを指定の位置に返して、お湯の入ったポットを貰ってくる。各自、持って来ていたカナエ草の茶葉を入れて蒸らしている間に、レイとルークはマフィンを取りに行った。

「朝からよく食べるよな」

 皿に盛られた幾つものミニマフィンを見て、呆れたようにロベリオがそう言った。隣ではユージンとタドラも笑っている。

「良いの、甘い物は別腹なの」

 ロベリオの冷やかしも気にせずに、嬉しそうにチョコマフィンを齧るレイに、肩を竦めて苦笑いしている若竜三人組だった。

「俺はお仲間が出来て嬉しいぞ」

 ミニマフィンを手にそう言って笑うルークに、レイも二つ目のマフィンを齧りながら笑って頷くのだった。


「じゃあ、俺は会議があるから、あとは頼むよ。言ったように、とりあえず本部と兵舎、それから竜舎。それだけで良いぞ」

「分かった。じゃあ後は時間があれば訓練所かな。いってらっしゃい。会議ご苦労様」

 最後のお茶を飲んで、そう言いながら立ち上がったルークに、ロベリオが頷いて手を振った。

「りょーかい。それじゃあレイルズ。今日は午前中はロベリオ達と一緒にいてくれよな」

 レイの肩を叩いてそう言うルークに、レイは頷いて顔を上げた。

「分かりました。えっと、会議ご苦労様です。いってらっしゃい」

 そう言って笑うと、目を瞬いたルークに背中を叩かれた。

「じゃあ、気が乗らない会議だけど行ってくるよ。後はよろしく」

 後ろ手に手を振って、立ち上がったルークは出ていってしまった。

「じゃあ俺達も行くとするか。取り敢えず、必要なところを中心に案内するよ」

「はい、お願いします」

 それぞれ、最後のお茶を飲んで立ちあがった。


「ここが竜騎士隊の本部がある建物。これ自体を俺達は本部って呼んでる」

 最初に案内されたのは、今いる食堂のあった竜騎士隊の本部の建物だった。

「ここと兵舎は、渡り廊下で繋がってる。それから、向こう側の渡り廊下は城に続いてる。面会の時に歩いて行っただろう?」

 頷くレイを見て、ロベリオは中庭を指差した。

「あそこが、普段竜達が降りる為の中庭だよ。綺麗に芝が敷いてある。竜達の邪魔にならないように背の高い木は植えられていないんだ」

「あ、それはマイリーに聞きました」

「一階は、朝練をした訓練所や、モルトナやロッカの仕事場があるよ。それから武器や装備を保管する倉庫もね」

 ユージンがそう言って、大きな扉を開いた。

 中は、大きな棚が部屋一杯に並び、鎧や剣を始め騎竜の鞍や革のベルト、他にも見た事の無い色々なものが整然とそれぞれの棚に並べられていた。

 壁には、大きな斧や槍などが、これも整然と並べて掛けられていた。

「凄いね……」

 凄い量に圧倒されたレイだったが、ここにあるのは言ってみれば一番よく使うものだけで、まだ他にも保管倉庫があると聞かされて、驚きのあまり言葉も無いレイだった。

 モルトナと、ロッカの仕事場にも順に顔を出した。

 ロッカのところに行った時には、連絡を受けていた彼に、ギードのミスリルの剣を見てもらってサイズを計ってもらい、専用の鞘を用意してもらうように頼んだ。

 計った数値を専用の書類に熱心に書き込んでいるロッカを見て、レイはふと疑問に思った。

「ねえ、聞いて良い?」

「はい、何でしょうか? 私に分かる事でしたら、何でもお答えしますぞ」

 手を止めて顔を上げたロッカに、レイは小さな声で質問した。

「えっと、これのお金はどうしたら良いの?」

 質問の意味が分からなかったらしく、何度か目を瞬いたロッカだったが、納得したように頷くと、レイの顔を見て大きく首を振った。

「レイルズ様。装備に関しましては貴方様が支払う必要はございませんぞ」

「でも、ロッカはそれがお仕事なんでしょう? じゃあ、僕の頼んだものは誰が払ってくれるの?」

 組織という概念がまだよく分かっていないレイにとってみれば、自分の頼んだ品物の代金を自分で支払わないと言うのは、どうにも納得出来なかった。

「これはレイルズ様の装備ですが、言ってみれば竜騎士隊の方の装備……まあ、あなた様はまだ見習いでございますが、その竜騎士様の持たれる装備になりますので、当然、竜騎士隊の所属する軍そのものが面倒を見るべきものでございます。お分かりになりますか?」

「そうだぞ、言ってみれば、装備は軍からの支給品な訳だ。レイルズのそのミスリルの短剣みたいに、個人で持ち込む装備は別だけど、基本的にはここで作ってもらうものに関しては、お前が直接払う必要は無いぞ」

 後ろで聞いていたロベリオの説明に、レイは振り返った。

「良いの?」

「もちろん。ちゃんと良いものを作ってもらえよ。それで、大事に使えば良い」

「そうでございます。もちろん、何か気付いた事や、もっとここをこうして欲しいなど、どんな細かい事でも何かご希望がございましたら、どうぞ遠慮なく相談してください。精一杯お応え致しますぞ」

「分かりました。よろしくお願いします」

 レイの言葉に、ロッカも笑顔になった。

「しかし、このミスリルの短剣は本当に見事でございますな。一度、これを作られたギード殿にお会いしたいものです」

 作業机に、抜き身のままで置かれていたミスリルの短剣を見て、ロッカはしみじみとそう呟いた。

「それでは、これはお返し致します。新しい鞘がご用意出来るまでは、申し訳ありませんがそれをお使いください」

 手渡された剣を受け取って、レイは腰に取り付けた鞘に剣を戻した。今、レイが使っているのは、ラスティが渡してくれた無地のヌメ革の鞘だ。剣の先の部分には金属が取り付けてあるが、それも大きな蔓草模様が彫ってあるだけの簡単な仕様だ。大きさはぴったりだが、確かに地味ではある。

「良いよ、僕、ヌメ革って好きなんだ」

 目を見開いたロッカが、嬉しそうにそうに笑いながら言った。

「その言葉、モルトナに伝えておきましょう。ならば鞘は全体をヌメ革で作り、細かな刻印を施しましょう。そして口の部分と先端部分にミスリルで細工を施しましょう。うん、それならば……」

 大きな紙を取り出したロッカは、勢いよく鞘のデザインを考えながら描き始めた。

「おい、誰かモルトナを呼んできてくれ。レイルズ様の装備について相談があると言ってな」

「了解しました」

 その言葉を聞いた一人の兵士が、敬礼して走って部屋を出ていった。

「じゃあ、後は任せて次に行こう。それじゃあ、ロッカ、よろしくね。モルトナにもよろしく」

 ロベリオの言葉に、顔を上げたロッカは立ち上がって敬礼してくれた。

「えっと、よろしくお願いします」

 レイも、ロッカに頭を下げてからそう言ってロベリオ達について部屋を出ていった。


 廊下を歩き、階段を上がって二階へ行くと、ぐっと兵士達の姿が多くなった。

「ここが言ってみれば竜騎士隊の中枢。つまり本部の事務所ある場所だよ。こっちが俺たちが事務仕事する時にお世話になる場所。まあ、そのまま事務所って呼んでる。あ、本部で待ってろ。って言われたら、ここで待ってれば良いぞ」

 一行が扉の前に来ると、扉の両側で立っていた兵士が、直立して敬礼してくれた。

 扉を開くと、中では何列も並んだ机に、それぞれ兵士が座って仕事をしていた。と言っても、レイにしてみたら、何をしているのかさっぱり分からなかったのだが。

 大勢の兵士達が、書類を手に忙しそうにしている。他の部屋では、彼らが入って来たらいっせいに立ち上がって敬礼したのだが、ここでは何人かが軽く会釈しただけで皆自分の仕事をしている。

「まあ、言ってみれば、ここが俺達の勤め先になる。あ、お前の机はこれだぞ」

 一つだけ、誰も座っていない机の列があり、一つだけ新しい、何も置かれていない机があった。

「僕の机?」

 驚いてその机を見る。

 机には、書類を入れる箱が三段重なって置かれている。真ん中にはインク壺を置く台やペン立てが置かれているがまだ何も入っていない。箱型の本立てにも何も置かれていなかった。

「まあ、ここで書類仕事するのはもう少し先だろうけどね。嬉しいだろ、自分の机があるって」

 ユージンにそう言われて、レイは目を輝かせて大きく頷いた。

「ルークの助手が出来るくらいには、頑張って覚えてくれよな」

「そうだぞ。頼りにしてるからな」

「僕達、自分の事以外は……あんまり役に立たないもんね」

 タドラの言葉に、ロベリオとユージンが揃って吹き出した。

「これも適材適所。それ以外で俺達は頑張ろうぜ!」

 ロベリオの言葉に、周りにいた事務員達が小さく吹き出しかけて慌てて我慢するのを、全員が見て見ぬ振りをしたのだった。


「こっちの部屋は何度か来たことあるだろう?」

 廊下に出て、事務所の隣の部屋に入る。

「あ、えっと休憩室だね」

 そこには誰もいなくて、部屋はがらんとしていた。

「そう言えば、ヴィゴと殿下は?お忙しいの?」

 朝から一度も顔を見ていない。

「お二人も、ルークと一緒に会議だよ。まあ、色々と忙しいのは間違い無いね」

 苦笑いするロベリオだった。

「あ、これだね。ニコスが作ってくれた栗の甘露煮と砂糖漬け。あ、すごい! ビスケットもある」

「せっかくだから、一度休憩しようか。疲れたろう?」

 ユージンの言葉に、レイは小さく頷いた。

 実は、知らない人がいっぱいで、皆がこっちを見ていたので緊張していてかなり疲れていた。それに、言われてみれば喉も渇いている。

「じゃあ、ここの設備の説明もしておくね」

 タドラに手招きされて、レイは慌てて側に行った。

「ここの戸棚に入ってるカップは好きに使って良いよ。使い終わったらそこの流しに。カナエ草のお茶はこの棚、蜂蜜やお砂糖もここにあるよ。あ、言っておくけど、カナエ草のお茶に砂糖を入れたら、そのまま飲むより凄いことになるから、絶対やめた方がいいよ」

「そのまま飲むより凄いって……どうなるの?」

 不安そうなレイに、タドラが顔をしかめてわざと低い声でこう言った。

「ものすごーく苦くて甘い、謎の飲み物になるからね。強者揃いの竜騎士隊でも、これを全部飲めた奴は、今まで僕の知る限り誰もいない」

 それを聞いて、ロベリオとユージンが同時に吹き出した。

「俺は絶対無理。それなら喜んでそのまま飲むよ」

「俺も絶対無理! 同じくそのまま飲みます!」

「僕だって、絶対嫌だよ!」

 顔を見合わせた三人は、また同時に吹き出した。

 絶対に、カナエ草にお砂糖を入れるもんかと、密かに心に決めたレイだった。

 壁際に作られた小さな竃で、ヤカンに水を入れて火にかける。

「ここには、いつも火蜥蜴がいてくれるから、ヤカンを置くと勝手に湯を沸かしてくれるよ」

 竃の中を覗くと、二匹の火蜥蜴が走り回っているのが見えた。

「ありがとうね。よろしく」

 そう言って手を振ると、二匹は立ち止まって嬉しそうに顔を上げた。口を開けて小さな火の玉を吐くと、またそのまま走り続けた。


 カナエ草のお茶と一緒に、ニコスの作ってくれた甘露煮を食べた。

 懐かしい甘さに、ちょっと涙が出そうになったが、我慢して全部まとめてお茶で流し込んだレイだった。

「ニコスの作ってくれた甘露煮、美味しいね」

 誤魔化すようにそう言って笑うと、三人も笑って頷いてくれた。

 肩に座ったシルフが、全部分かってると言わんばかりに、黙ってそっとレイの頬にキスしてくれた。

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