遊びの時間と出発準備
「だからもうさっきのが最後だったんだってば。もう無いです!」
元気な子竜達にキュウキュウとせがまれて、両手を上げたレイがそう言いながら笑う。
陛下が作ったおもちゃは早々にシャーリーとヘミングによって豪快に壊されてしまい、タキス達が作ったおもちゃでまた二匹が遊び始めたところで、我慢の限界になったヤンとオットーが参戦。
さらにはベラとポリーまでが参戦して、シルフ達とラプトルファミリーによるおもちゃ争奪戦が草原一杯を使って繰り広げられた結果、最後のレイが作ったおもちゃまでが見事に崩壊してしまったのだった、
そして、早く次を出せとせがむシャーリーとヘミングに最後はレイが押し倒されてしまい、草原は笑いに包まれたのだった。
「はあ、もう君達はどれだけ元気なんだよ」
子竜達に押し倒されて甘噛みされたレイが、笑いながらなんとか体を起こす。
「真っ白な制服は、さすがに汚れが目立ちますね」
笑いながらレイの腕を引っ張って立ち上がらせてくれたタキスの言葉に、驚いたレイが、慌てて自分の制服を見て胸元についていた砂をパタパタと叩いて落としつつ首を傾げる。
「えっと、どこか汚れてる?」
戸惑うようなその言葉に、苦笑いしたタキスがレイの背中側に立って腰の辺りを何度か叩く。
「倒れた時に付いたんでしょう。緑の牧草のシミがこの辺りに幾つか付いていますね。まあ、これくらいなら洗浄の術ですぐに取れますよ。ちょっと、じっとしていてくださいね」
笑ったタキスの言葉に、納得したレイが頷く。
「ウィンディーネ、ここに水をお願いします」
タキスの言葉の後に、差し出した右手に拳ほどの大きさの水の塊が現れる。
その水をタキスがレイの制服にゆっくりと擦り付けると、制服についていた緑色の汚れが水に吸い込まれて綺麗になっていく。
「はい、これでいいですよ。ああ、待って。肩のところにもシミがありますね」
そう言って腕を上げたタキスが小さく吹き出す。
「レイ、すみませんがしゃがんでもらえますか。ちょっと汚れが遠いです」
今のレイとタキスの身長差は頭ひとつ分よりも大きい。
レイの肩の上側についた汚れを取る為には、タキスが思いっきり腕を伸ばして背伸びしなくてはならないほどだ。
「あはは、了解。じゃあこれでいいかな」
笑ったレイが、頷いてその場にしゃがんで俯く。
「ありがとうございます。はい、これでいいですよ」
すぐに同じようにして肩についていた汚れも綺麗にしてから改めて立ってもらい、汚れが残っていない事を確認してから水の塊を地面に落とした。
「洗浄の術か。見事なものだな。私も使えるが、そこまですぐには綺麗にならぬな」
黙って見ていた陛下が、そう言って拍手をする。
「お、恐れ入ります。この術は攻撃的な術ではなく生活に直結する類の術ですので、どちらかというと市井の者達の方が、軍の方々よりも扱いが上手い事が多いと聞きます」
「成る程。確かに言われてみればそうかもしれぬな。執事の中には洗浄の術を扱う者が多いが、確かに軍人で、洗浄の術が得意だという者の話はあまり聞かぬな」
「一応、俺は最上位まで扱えますので洗浄の術もそれくらいは扱えますよ。便利な術ではありますが、確かに戦いの場ではほぼ役に立ちませんね。どちらかというと、戦いの後に必要な術ですね」
苦笑いするルークの言葉に、ヴィゴも苦笑いして頷いている。
「確かにそうだな。実際に、何度かルークの術に世話になった事があるな」
ルークの伴侶であるオパールは水の属性の竜なので、主であるルークも水の術は最上位まで扱える。
今、陛下が乗っているこの国の守護竜であるルビーは、火の上位である炎の属性を持っている。
これは守護竜のみが持つ事が出来る特別な属性なのだ。
当然、その主であるアルス皇子や、元主である陛下は火の術は最上位まで扱えるが、逆に二人とも水の術は上位までしか扱えず、少々扱いにもムラがある。どちらかというと苦手な部類なのだ。
「今までは、水の属性の竜は俺とユージンだけでしたが、今はレイルズのラピスだけでなく、カウリの竜であるカルサイト、さらにはティミーの竜であるターコイズも水の属性ですからね。どれだけ汚れても全員綺麗に出来ますよ。今までは火と風の属性に若干偏っていましたが、いいバランスになったんじゃあありませんか?」
笑ったルークの言葉に陛下も苦笑いしつつ頷いていたのだった。
精霊竜には四大精霊の属性である、火、風、水、土のどれか一つが属性としてあり、その属性の術は最上位まで扱える。それ以外の属性をどこまで扱えるかは、その竜の個々の適性や年齢による。
光は、全ての精霊竜が持つ属性だ。ただし光の術をどこまで扱えるかは、これもそれぞれの竜の適性や年齢により差はある。
ちなみに竜の主となった人間は、もともと精霊魔法使いでない限り、基本的にその竜が扱える術が自分の使える術となる。
ただし、光の精霊魔法に関しては元々の適正が無いと、例え竜の主であっても扱えない事も多い。
「そろそろ時間かな」
その後、陛下も参加してシャーリーとヘミングにもブラシをかけてやり、のんびりとそれぞれの竜のところへ行って寛いでいたが、空を見上げたルークの言葉に、皆も空を見上げる。
もう、太陽はほぼ真上に近い位置まで上がっている。
「名残惜しいが、確かにそろそろ帰る準備をするべきだな」
苦笑いした陛下の言葉に、レイも小さく頷いて立ち上がった。
「ブルー、じゃあ荷物を運んで来るね」
「ああ、行っておいで。その間に、鞍と手綱をシルフ達に取り付けさせておくとしよう」
それぞれの竜の鞍や手綱が入った木箱は、シヴァ将軍とロディナの人達がすでに運んできてくれている。
「うん、じゃあお願いするね」
笑ったレイが、手を振って離れていくのを、ブルーは目を細めて見送った。
「あの、お手伝いいたします!」
慌てたシヴァ将軍や何人かの人達が、ブラシを置いて駆け寄ってくる。
「そうだな。では、とりあえずその木箱を開けて、一式それぞれの竜の所へ運んでくれ」
「かしこまりました!」
直立してそう答えたシヴァ将軍の指示で、集まった者達が手早く木箱を開けて道具を確認しながら取り出していく。
彼らは、今回ここに来ているロディナの人達の中でも一般職員ではなく軍属の兵士達で、ロディナでは精霊竜に携わる仕事をしている者達だ。なので、もちろん竜の世話や手綱や鞍の扱いにも慣れている。
しかし、手早く運ばれたそれらの道具はブルーの指示でシルフ達がそれぞれの竜の背の上に運び、あっという間に広げて装着してしまった。彼らの出番は全くなかった。
「おお、話には聞いていたが……本当にシルフ達だけで装着出来るんだ」
「すげえ……自分の目で見ても信じられないよ」
「だよな。道具が勝手に動いて装着されるなんてな……」
精霊が見えない者達にしてみれば、道具が勝手に動いて竜に装着されていくのだから、確かに信じ難い光景だろう。
しっかり締まったベルトをみては凄い凄いと無邪気に感心する人達を見て、ちょっと得意げに喉を鳴らしたブルーだった。




