最後の朝の一幕
『らんらんら〜〜〜ん』
『るんるんる〜〜〜ん』
『あっちとこっちをぎゅっとして〜〜』
『もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ楽しいな〜〜』
『三つ編み三つ編み楽しいよ〜〜』
『あっちとこっちをぎゅってして!』
『もぎゅもぎゅするのも楽しいの!』
『もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ楽しいな〜〜』
『楽しい楽しい』
『らんらんら〜〜〜ん』
早朝の光が差し込む部屋では、シルフ達の楽しそうな即興の歌声が響いている。
ベッドにうつ伏せになって枕に抱きついて熟睡しているレイの頭は、張り切ったシルフ達の手により今日もなかなかの芸術作品に仕上がっている。
もちろん、レイについて来ているシルフ達だけでなく、今朝も蒼の森から来た大きなシルフ達が目を輝かせて一緒になって三つ編みを引っ張ったり絡ませたりして遊んでいるので、まだまだ芸術作品は制作途中だ。
『相変わらずだなあ。全く、一体何をどうやったらこんな事になるのだ? 見ていても我にはさっぱり分からんぞ』
ふわりと現れたブルーの使いのシルフが、呆れたように笑いながら絡まった塊から飛び出していた三つ編みの先を引っ張る。
『あのねあのね!』
『その端っこはここに突っ込むんだよ!』
『こんな風にするの!』
『やってみていいよ!』
キラッキラに目を輝かせたシルフ達にそう言われて、三つ編みの先を握っていたブルーの使いのシルフが困ったようにレイの頭を見た。
『これを? これを何処に突っ込むというのだ?』
『ここここ!』
『ここに突っ込むんだよ!』
嬉々としてシルフ達が示す箇所には、確かに絡まった三つ編みの間に隙間がある。
『ふむ、こうか?』
少し考えたブルーの使いのシルフが、手にしていたそれを言われた箇所に無理やり突っ込む。
『それでいいよ』
『あとは出てこないように押さえるんだよ』
『こんな風にね!』
そして、別の箇所に同じようにして三つ編みの先を突っ込みながら後始末のやり方まで教えてくれる。
『成る程。つまりこういう事だな』
それを見て笑ったブルーの使いのシルフは、得意そうにそう言ってさっきの箇所を全体に押さえて整える。
『上手ですね〜〜』
『もしや経験があるんですか〜〜?』
『さすがは蒼竜様ですねえ』
わざとらしくシルフ達が感心するのを見て、ブルーの使いのシルフは得意そうに胸を張る。
『まあ、これしき、我にはどうと言う事もないわ』
そう言って塊になった赤毛をそっと撫でる。
『それにしても、今朝はまだ皆起きておらぬようだ。のんびりだな』
『のんびりのんびり〜〜』
『一緒に寝るの〜〜』
『でももぎゅもぎゅもしたいの〜〜』
『遊ぶんだよ』
『ね〜〜〜〜!』
『ね〜〜〜〜!』
楽しそうにそう言ったシルフ達は、何人かがレイの胸元や首元に潜り込み、一緒に眠る振りを始めた。
また、何人ものシルフ達が場所を交代してまた髪で遊び始める。
『まあ良い。好きなだけ遊ぶといい。ここで過ごす最後の朝だからな』
笑ってそう言ったブルーの使いのシルフも、少し考えてからレイの襟元に潜り込むと一緒に眠る振りをしたのだった。
それからしばらくしてすっかり明るくなった部屋では、陛下まで参加した寝癖見学会がまたしても開催されて、レイの部屋は大爆笑とレイの情けない悲鳴が響き渡る事となったのだった。
「うう、寝過ごした上に、またしてもこの寝癖〜〜」
まだ笑っているタキスと駆けつけて来てくれた執事の二人がかりで寝癖を解いてもらいつつ、レイも文句を言いつつずっと笑っている。
『おはよう、レイ。朝からなかなかに賑やかだったな』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、目線だけでそっちを見たレイが笑いながら頷く。
「あ、おはようブルー。朝方、ちょっとだけ目が覚めたんだけどすぐに寝ちゃったんだよね。で、次に起きたらまさかの陛下までお越しになっていて、しかも目が合って思わず悲鳴を上げちゃったんだよね」
「陛下も大笑いなさっていましたね。まあ、ここでの滞在を楽しんで頂けた様で、本当によかったです」
「確かに楽しんでは頂けたみたいだね。だけど、ここでの準備は大騒ぎだったらしいね。ご苦労様でした」
解けた髪を整えてくれている執事に、笑いながらお礼を言う。
「とんでもございません。こちらこそ、良い経験をさせていただきました。少しでもお役に立てた様で、安堵しております」
一礼した執事の言葉に、タキスとレイも笑顔になる。
「はい、これで元通りですね。シルフ達が手伝ってくれたので、すぐに元通りになりましたね」
笑ったタキスに肩を叩かれ、もう一度お礼を言ったレイが立ち上がる。
「えっと、今朝は、朝練は無しなのかな?」
「ええ。ルーク様によると、万一にもお怪我があってはいけませんので、もしもするなら軽い運動程度にしておく様にとの事です。どうしますか?」
「それじゃあ、部屋で柔軟体操だけしておくね。朝食は?」
「本日も、休日の朝食を準備させていただいております。ご準備が出来ましたら、ご案内させていただきます」
休日の朝食とは、全員揃うのを待たずに、準備が出来た者から先に食べる形式だ。
「そうなんだね。じゃあ着替えたら一緒に行こうよ」
「そうですね。では、ニコスとギードにも声をかけておきます」
笑ったタキスがそう言って一旦部屋に戻る。
執事と一緒に部屋に戻ったレイは、用意されていた竜騎士の制服に手早く着替えたのだった。
「はあ、さすがにちょっと寝不足だな」
寝癖見学会で朝から大笑いしたニコスは、洗面所へタキスと一緒に行くレイを見送ってからひとまず自分の部屋に戻った。
今朝も食事は料理人達が準備してくれるとの事で、ニコスの出番はない。
彼らが帰ったら、一度台所の状態を確認しておかないと。そんな事を考えつつ部屋に置いてあったグラスを持つ。
「ウィンディーネ、良き水を頼むよ」
ニコスの声に、グラスの縁に一人のウィンディーネが現れてそっとグラスの縁を叩く。
水が一気にグラスを満たすと、ウィンディーネは笑って手を振り消えていった。
「ありがとうな。はあ、美味しい」
ぐいっと半分ほどを一気に飲み干し、一息ついてから残りをゆっくりと飲み干したニコスは、昨夜の事を思い出していた。
結局、あの後も請われるままに陛下と何度も陣取り盤で対決をして、解放されたニコスが部屋に戻ったのは、もう夜明けに近い時間になってからだった。
「でもまあ、なんとか無事に済んだ様で一安心かな。いやいや、陛下がお帰りになった後も、シルカー伯爵様やシヴァ将軍へのお礼もしなければならないだろうし、実際に来てくれた執事や護衛の方々が荷物をまとめてお戻りになるまでまだ数日はかかるだろうから、元通りの生活になるまでは、もうしばらくかかりそうだな」
グラスを置いたニコスは苦笑いしつつそう呟き、とりあえず、昼食の弁当を作る段取りを考えていたのだった。




