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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ニコスの答えと陛下の答え

「サーベルタイガーの襲撃は突然でした。シルフ達に周囲への警戒を命じ守らせていたはずだったのに。あとでタキス達から聞いて知ったのですが、この森のサーベルタイガーは、魔獣ではあるが限りなく幻獣に近い存在なのだとか。その為、シルフ達よりも上位の存在となりシルフの守りはほぼ無意味なのだと。しかも、その襲ってきたサーベルタイガーはとんでもなく大きくそして強かったのです。唯一の対抗手段である精霊魔法を扱える私が一人でサーベルタイガーと戦い、怪我をした若様と冒険者達をなんとかその場から逃す事が出来ました。私が死ななかったのは、シルフ達の騒ぐ声を聞き何事かと様子を見にきてくださった蒼竜様が、今まさにサーベルタイガーに殺されそうになっているの私を見て、サーベルタイガーを追い払ってくださったおかげです」

 そう言って、ニコスは自分のズボンの裾をゆっくりと引き上げた。

 引き裂かれたようなひどい傷跡が残る足を見て、陛下が顔を歪める。

「もっと大きな傷が背中にもございます。結果としてサーベルタイガーから逃げる事は出来たものの、重傷を負ってもう動く事も出来ずに死にかけていた私は、駆けつけてきてくれたタキスとギードに助けられ生き延びました。しかも、逃げた仲間達はそれっきり誰も戻ってきませんでした。私は死んだものとして見捨てられたのです。その結果、私は傷が癒えた後もあの石の家で放心状態のまま、何も出来ずに寝たきりで過ごす事となりました。そんな私を、成り行きとはいえ見捨てずに面倒を見てくれたタキスとギードには、今でも心から感謝しています。そして、後にシルフ達の案内によりここへやって来た父上の口から、私は若様の死と家の取り潰しを知らされました」

 俯いたまま話すニコスの、真っ白になるまで握りしめた両手は可哀想なくらいにぶるぶると震えている。

 しかし、それを見ても陛下は何も言わずに黙って話を聞いているだけだ。

「私は大きな罪を犯しました。自由という言葉の本当の意味を知らぬままに、自由に生きようとしたあのお方を、本当ならば私が何をしてでもお止めしなければならなかったのに……主人が間違った事をした時に、側に仕える者が絶対にやらなければいけない事を、私は若様可愛さ故に放置し見ない振りをし、やらなかった。私は間違えたのです。そして、その結果として全てを失う事となったのです。ここにいるのは、やるべき事をせずにその報いを受けて全てを失った、ただの愚か者です。そのような者に、尊きお方のお子様を預けるなど、決してあってはなりませぬ。どうか、どうかお許しください」



 俯いたまま、まるで懺悔するかのようなニコスの言葉に、陛下が大きなため息を吐く。

「なるほど、それが其方の過ちであり傷か。よく分かった。だがニコスよ。人は過ちを犯すものだ。私だって同じだよ。だが、其方は忘れているようなので一つ教えてやろう。よく聞きなさい。人は、何度でもやり直せるのだよ。生きている限り、何度でも、な」

 思わぬほど優しいその口調に、ニコスが驚いたように顔を上げる。

「確かに、其方は一度間違ったのだろう。そしてその報いとして心身ともに酷い傷を負い、文字通り全てを失ったのだろう。だが今の話を聞いて、私はもっとニコスに来てほしいと思うようになったぞ。一度も間違わず正しき道を真っ直ぐに進む者もいるだろう。だが、間違った己を知り、同じ過ちを犯すまいと己を律するものは、きっと何も知らずに真っ直ぐに進む者よりも多くのものを見るのではないか? その視野の広さと知識の豊富さは、何ものにも変え難い貴重な財産だと思うぞ」

「陛下……」

 てっきり、軽蔑されると、そんな過ちを犯した自分は信じるに足りぬと、そう切り捨てられるものだと思っていたニコスは、笑顔で自分を見つめる陛下の優しい言葉に、咄嗟に返事が出来なかった。

「もちろん、これは単なるジジイの願いでしかないから、其方が本当に拒否したいと思うならそれ以上は何も言わぬ。どうだ? 先ほどの私の願い、改めて本気で考えてはくれぬか?」

 驚いたまま動けないニコスを見て、笑った陛下がワインの瓶を手にしてニコスの目の前に差し出す。

 慌てたニコスがワインの瓶を取ろうとするが、笑顔で首を振った陛下は黙ったまま視線で空のワイングラスを示す。

「お、恐れ入ります」

 空のグラスを手にしたニコスの言葉に陛下が笑顔になり、ゆっくりとそのグラスにワインを注ぐ。

 今度はニコスにワインの瓶を渡した陛下も空のグラスを手に取り、立ち上がったニコスが陛下のグラスにワインを注ぐ。

「精霊王に感謝と祝福を。そして、傷つき間違いを犯しつつも真っ直ぐに生きようとする正直者に、尊敬と祝福を捧げよう」

「精霊王に感謝と祝福を。そして、光の道を進み国を導く重積を担う尊きお方に、心からの感謝と尊敬と祝福を捧げます」

 笑顔の陛下の乾杯の言葉にニコスが目を見開き、一呼吸置いてから乾杯の言葉を返す。

 笑顔で小さく頷き合ってから、それぞれワインを口にした。



「陛下、恐れながら申し上げます」

 ワインのグラスを置いたニコスの言葉に、同じく陛下もグラスを負いてニコスに向き直る。

「先ほども申し上げましたが、私のような者をそこまで評価してくださり、心から感謝申し上げます。ですが、恐れながら……その勧誘、正式にお断りさせていただきます」

 居住まいを正し深々と頭を下げるニコスの言葉に、陛下はため息を吐いた。

「やはり、駄目か」

 まるでその答えがわかっていたかのようなその苦笑いしながらの言葉に、顔を上げたニコスが改めて頭を下げる。

「どうか我儘をお許しください。もしも私がオルダムへ行き妃殿下のお子様に仕える事になったなら……私は間違いなく、事あるごとに記憶にある若様とお子様を重ねて比較してしまうでしょう。それだけでなく、若様には出来なかった事をお子様に求めてしまうやもしれません。若様の身代わりとして……先ほど陛下がおっしゃられた、私の心が何処にあるのか、という問いにお答えします。今もなお、私の心は亡き若様の元にあります。間違いなくこの命尽きる時まで。ですが、それは尊きお方のお側に仕える者としては、絶対にあってはならぬ事です。どうか、どうかご理解ください」

 静かな、しかし深い決意を秘めたその言葉に、陛下はもう一度ため息を吐いた。

「よく分かった。ではもうこの話はここで終わりだ。私も忘れる故、其方も忘れなさい。だがニコスよ。其方がレイルズの養い親でありティアの恩人である事に変わりはない。次にオルダムに来た際には、奥殿でまた手合わせ願ってもよかろう?」

 勝負の途中で放置された陣取り盤を示した陛下の言葉に、ニコスが破顔する。

「もちろんです。その時には陛下の気が済むまで、何度でも全力でお相手を務めさせていただきます」

「うむ。では、その時が早く来るようレイルズにはせいぜい頑張ってもらうとしよう。とりあえず、勝負の続きをしよう。夜はまだまだ長いぞ」

 にんまりと笑って座り直す陛下の言葉に、ニコスも笑いながら居住まいを正したのだった。



挿絵(By みてみん)

2026年4月10日、TOブックス様より発売となります「蒼竜と少年」第二巻の表紙です。


イラストレーター様は、第一巻に引き続きKaworu様が、今回も素敵な世界とキャラクター達を描いてくださいました!

あの、エイベルがついに登場です!

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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