食後の片付けと明日の予定
「明日にはもう帰らねばならぬのか。あっという間だな」
賑やかな夕食の時間が過ぎ、焼き台の火が落とされたところでワインを飲んでいた陛下が少し残念そうにそう呟いた。
「それにしても、ここは良い所だな。アルスももう一度来たがっていたが、その気持ちが今ならよく分かるな。務めがあると分かっているのに、帰りたくないと思ってしまうぞ」
苦笑いした陛下は、隣で同じワインを飲んでいるシヴァ将軍を横目で見た。
「聞くところによると、其方は定期的に部下達と共にここへ来て、その度に長期滞在しておるそうだな」
明らかに拗ねた口調の陛下の言葉に、遠慮なくシヴァ将軍が吹き出す。
「陛下、毎回私がここに来るのは、金花竜の人慣れ訓練の為です。金花竜の飼育に関してはタキス殿から全幅の信頼をいただいておりますので、責任は重大です。ようやく落ち着いてきましたが、怪我や病気の危険は常にあり子竜からはまだまだ目が離せません。責任者である私が毎回来るのは当然です」
大義名分を掲げて胸を張ってそう答えたシヴァ将軍をもう一度見た陛下は、口を尖らせて横を向いた。
「お前だけずるい」
あまりにも素直な子供のようなその文句に、もう一回堪えきれずに思いっきり吹き出したシヴァ将軍だった。
「い、今更だけど、将軍閣下って、実はすごいお方だったんだなあ」
「だよな。俺も思っていた。陛下とあんな風に平然とお話しされるなんて……」
「なんか凄え」
「だよなあ。本当に凄えよな」
「俺達、実は凄いお方に雇っていただいていたんだなあ」
執事達と共に、汚れた食器やカトラリーを集めて片付け始めたロディナから来ていた者達が、顔を寄せて小さな声でそう言って頷き合い、ワイングラスを片手に陛下と楽しそうに話をするシヴァ将軍を揃って尊敬の眼差しで見つめていたのだった。
ここでも、ロディナにいる時でも、シヴァ将軍はその身分にも関わらず率先して働き、精霊竜達の世話だけでなく、手が足りない時には騎竜達や竜の餌として飼育している鶏や羊などの家畜の世話、搬入が重なった時には当たり前のように荷物運びまでしてくれるのだ。
その際にも、周りの者達に積極的に声をかけて労ってくれる。
軍属ではない彼らのような現地採用の一般職員でもその態度は変わらず、その為ロディナの一般職員達の中には、逆にシヴァ将軍の身分を正確に理解していない者もいる。
実は彼らもそうだったのだが、今回、陛下と平然と話をするシヴァ将軍を見てその身分と凄さをようやく理解していたのだった。
「えっと、明日にはもう帰るんだよね。明日はどういう予定なの?」
こちらももう食べ終え、片付けを手伝おうとしたのだが執事達にやんわりと断られてしまい、仕方なく席に戻ったレイが、新しく入れてもらった貴腐ワインのグラスを揺らしながら隣に座るルークに尋ねる。
「ああ、出発は昼前の予定だよ。午前中はゆっくりしてくれていいぞ。実は陛下が凄く楽しみにしているから、ニコスにお弁当をお願いしてあるんだ」
またニコスのお弁当を食べられると聞いて、レイが目を輝かせる。
「あれは本当に美味しいから、俺も楽しみだよ。明日の朝は、朝練はするのかな? 後で陛下に確認しておくよ」
「陛下ってすっごくお強いんだね。僕、木剣とトンファーで手合わせしたけど、どっちも完敗だったよ」
無邪気に感心するレイを、ルークはチラリと見てから小さく笑った。
「陛下が皇太子だった頃は、タガルノとの関係が最悪だった頃だからね。実戦での経験値が俺達とは桁違いなんだよ。父上もそうだけど、あの年代の人達は、強さが半端ないからね」
苦笑いしたルークの言葉に、朝練の後にブルーから聞いた話を思い出した。
「そうなんだね。強いのは純粋に憧れるけど、それが実戦を経たからだって言われたら……やっぱりちょっと考えちゃうよね」
しょんぼりしたレイの言葉に、ルークが一瞬驚いたように目を見開いてレイを見る。
「そうだな。平和が良いよな」
「うん、僕も平和が良いです。武術の腕を上げる方法は、どれだけ大変でも訓練がいいです」
真顔で断言するレイに、ルークも困ったように苦笑いしながら小さく頷いたのだった。
この後に片付けの最後の大仕事である冷えた焼き台の片付けをしようとしたところで、興味津々な陛下がやって来て精霊魔法を使わずにどうやってそれを綺麗にするのか見たいと言い出し、ロディナの人達が無言のパニックになる一幕もあったのだった。




