もう一つの墓参りと夕食準備
「ご苦労。では、行くとしよう」
用意していた簡易祭壇を手早く片付けたシヴァ将軍やルーク達を見て、陛下が笑顔でそう言い先にルビーの背に上がる。
それを見たシヴァ将軍とシルカー伯爵が、ルーク達に一礼してから木に繋いでいたラプトルに飛び乗る。
簡易祭壇とミスリルの鈴がついた杖の入った木箱は、今度はルークが自分の竜であるオパールの背に乗せている。
レイもブルーの背に上がり、タキス達が全員上がってきて座ったのを確認してからゆっくりとブルーに合図を送った。
「うむ、では行くとしよう」
笑ったブルーが、先ほどの陛下と同じ事を言ってから翼を広げてゆっくりと上昇する。
ブルーが先頭になり、その後ろに陛下の乗るルビーが付き、少し下がった左右にルークの乗るオパールとヴィゴの乗るガーネットが付く。
綺麗な編隊を組んだ竜達は、エイベル様のお墓の上空をゆっくりと旋回してからその場を離れた。
当然そのまま石の家に戻ると思っていたが、次に向かったのはなんと母さんのお墓のある場所だった。
当たり前のようにお墓の横の草地に降りていく、陛下を乗せたルビーをレイは驚きに目を見開いて見つめていた。
そして、当然のようにルークが先ほどの木箱を下ろし、母さんのお墓の前に簡易祭壇の準備を始めたのを見て、レイも慌ててそれを手伝った。
「ああ、さすがにいくら急いでも上空からの方が早いですね。準備をありがとうございます」
その時、軽い足音と共に苦笑いする声が聞こえて、ラプトルに乗ったシヴァ将軍とシルカー伯爵が護衛の者達と共に到着した。
驚くレイに、シヴァ将軍が笑顔で頷く。
「タキス殿からお母上様の墓の話を聞き、私も、時折参らせていただいております」
驚きに言葉もないレイにそう言ってくれたシヴァ将軍が、もう一度笑顔で頷く。
「途切れかけていた古竜と我が国の縁を再び結んでくれた、古竜の主となった其方を産んでくれたお方の墓だ。我らが参る理由にはならぬか?」
優しい声の陛下にまでそう言われて、レイは咄嗟に込み上げてきた涙を堪えきれなかった。
ポロポロと、涙の粒がレイの頬を転がり落ちる。
「あ、ありがとうございます……」
言葉が出てこず、ただただそう言って深々と頭を下げた。
そして、エイベル様のお墓に参ったのと同じようにして、正式に参ってくれる陛下やシヴァ将軍、そしてシルカー伯爵やルーク達を、レイは涙を浮かべながらそれでも笑顔で見つめていた。
タキス達や護衛の者達までが参ってくれたのを見届けてから、最後にレイが母さんのお墓に正式に参った。
「ねえ母さん、見た? 陛下がここまで来てくださったんだよ。竜の主って凄いんだね……」
顔を上げたレイがお墓の前でしゃがみ、少し小さな声でお墓に向かって話しかける。
「母さんに会いたいなあ。こうやってお参りするたびにそう思うよ。今なら、母さんに聞きたい事や話したい事がたくさんあるのに……」
腕を伸ばして墓石の上にあった小さな枯れ葉をそっと払ってから、煙を燻らせるお香を見る。
「でも、あの時の事が無ければ僕はブルーと出会えていなかったんだから、きっとこれで良いんだよね。寂しいけど、きっとこれで良いんだよね。だから、だからいつか精霊王の御許で母さんと再会出来た時に恥ずかしくないように、僕はオルダムで精一杯頑張るから、母さんはそこで見ていてね。それじゃあ、また来るから」
小さく鼻を啜って込み上げてきた涙をグッと飲み込んだレイは、小さなため息を吐いてからそう言って立ち上がった。
「お待たせしました」
振り返って、優しい笑顔で自分を見つめている陛下にそう言って頭を下げる。
「構わぬよ。大切なただ一人のお母上の墓だ。もう良いのか?」
「はい、では片付けますので、もうしばらくお待ちください」
顔を上げたその目元は、少し赤くはあるがもう涙はない。
進み出たルークに肩を叩かれて笑顔で頷いたレイは、また簡易祭壇を片付けるのを手伝った。
墓参りを終えて石の家に戻ったのは、そろそろ日が傾き始めた頃だった。
陛下は、シルカー伯爵や護衛の人達と一緒に先に石の家へ戻っていただき、その後に、タキス達が簡易祭壇の入った木箱を持って家へ戻る。
レイは、ルークやヴィゴ、それからシヴァ将軍と一緒に手分けして竜達のお世話をしてから石の家へ戻った。
竜達は、今夜もブルーと一緒に蒼の森の泉で過ごすそうだ。
それぞれの部屋に戻るのを見送ったレイは、自分の部屋に戻って大急ぎで着替えを済ませてから居間へ走っていった。
そこは、予想通りにアンフィーをはじめとしたロディナの人達が、ニコスと一緒に手分けして夕食の準備をしていた。
「ああ、おかえり。すまないが、レイは納屋へ行ってもらえるか。タキスとギードにも行ってもらったんだが、焼き台の設置と荷物運びを手伝ってやってくれ」
「わかった。じゃあ食材の準備はよろしくね」
笑って頷き、そのまま納屋へ向かう。
今夜は、以前アルス皇子にも体験していただいたように、陛下にも参加していただいて庭に焼き台を準備して皆で肉を焼いて一緒にいただく。
もちろん、座る場所は少し離れているが、今夜の夕食はロディナの人達も一緒だ。
しかし到着した納屋はすでにに運びを終えて空っぽになっていた。それを見て大急ぎで庭に駆け出したレイは、今まさに始まったところだった焼き台の設置を慌てて手伝ったのだった。




