お墓参り
「ほう、泉とエイベル様の墓は近いのだな」
エイベル様のお墓横にある草原の上空に到着して旋回するルビーの背から、陛下が周りを見下ろしながらそう呟く。
「我らはまっすぐに空から来たので確かに近いように感じるが、地上を移動して泉からここまで来ようと思ったらまっすぐの道はないぞ。あの深い森を抜けて来なければならぬから、決して近くはないぞ」
笑ったブルーの言葉に、顔を上げた陛下は納得したように頷く。
「成る程。確かにそうだな。ああ、彼らはもう来てくれているな」
笑ってそう言った陛下は、すでに到着して準備を整えてくれているシヴァ将軍とシルカー伯爵に気がついて笑顔になる。
彼らが用意してくれたのは、以前、レイが里帰りした際にマイリー達と一緒にここに参った際に使ったのと同じような、簡易式の祭壇だ。
折りたたみ式の木の上には綺麗な敷布が敷かれ、ミスリル製の香炉と燭台が並べられている。
その香炉と燭台は、どちらも全面に渡ってとても細やかな細工が施された見事な逸品だ。
「おお、お越しになったようだな」
頭上の竜達に気付いたシヴァ将軍が笑顔でそう言いながら手を振り、上を見たシルカー伯爵はその場に直立した。
そして一緒に準備を手伝っていたお二人の護衛の者達は、頭上の竜達を見て慌てたように走って下り、お墓から離れたところで整列して直立した。
そのまま、竜達が横の草原にゆっくりと降りてくる。
陛下を乗せたルビーが最初に草原に降りるのを見て、ブルー達もそれに続いた。
全員が竜の背から降りて、エイベル様のお墓の前に並ぶ。
この中で剣帯していないタキスとニコスとギードには、ミスリルの鈴がついた杖がシヴァ将軍から渡された。
小さく頷いたタキス達が、渡されたミスリルの鈴の覆いをそっと外す。
離れて整列していた護衛の者達も、手にしていたミスリルの鈴がついた杖をゆっくりと持ち上げて覆いを外す。
その際にシャランと軽い音がこぼれ、周りにいたシルフ達が一斉に目を輝かせて集まってきた。
タキスの合図でミスリルの鈴が振られて、軽やかな音が一定間隔で静かな草原に響き渡る。
目を閉じてその音を聞いていた陛下が頷き、剣を持っていた者達が全員揃って剣を軽く抜いてから勢いよく鞘に戻してミスリルの火花を散らせた。
それから陛下がエイベル様のお墓の前にゆっくりと進み出て、用意されていた蝋燭に火蜥蜴が灯してくれた炎から火をもらい、こちらも用意されていた香炉の真ん中に置かれた親指の爪ほどの大きさの円錐形のお香の先に、手にした蝋燭からそっと火を移した。
炎が小さくなって消えたところで一筋煙が立ち上る。それを見たシルフ達が煙を燻らすお香にゆっくりと近付いて風を送り始めた。
燭台の真ん中に手にしていた蝋燭を差し込んだ陛下は、ゆっくりと腰に装着していた剣を抜き地面にそっと置くと、跪いて両手を握りしめて額に当てて深々と墓に向かって頭を下げた。
「我ら人の子と精霊竜との絆を守り、共に歩む道を示してくれた幼き竜人の子エイベル様に、心からの感謝と謝罪を。精霊王の御許にて、安らかに眠れかし……」
ゆっくりとそう言った陛下は、目を閉じてしばしの祈りを捧げてから手を下ろし立ち上がった。
剣を手に取り、ゆっくりと鞘に戻す。最後は勢いよく落とし込みもう一度ミスリルの火花を散らした。
護衛の者達とタキス達は、陛下がエイベル様のお墓に参っている間中、ずっと一定間隔でミスリルの鈴を鳴らし続けている。
剣を収めた陛下が立ち上がったのを見て、シヴァ将軍が、続いてシルカー伯爵が順番に同じようにしてエイベル様のお墓へ参った。
それからヴィゴとルーク、レイの順番に、こちらも正式な作法に則ってエイベル様のお墓に参った。
最後にタキス達が同じようにしてエイベルの墓に参ったところで、少し下がってその様子を見ていた陛下が、不意に背後を振り返った。
そこにいるのは、お墓から少し離れた場所に整列して、ずっとミスリルの鈴を一定間隔で鳴らし続けてくれていた護衛の者達だ。
「彼らは、其方のところの護衛の者達か?」
陛下の言葉に、居住まいを正したシルカー伯爵が小さく頷く。
「はい、我が館から連れて参りました。人相手だけでなく、野生動物への対応も出来る腕の立つ者達です」
「成る程。確かにこの森ならば、人よりも野生動物への対応の方が必要であろう。ご苦労。其方達も、構わぬからエイベル様の墓に参りなさい」
振り返った陛下にそう言って手招きされ、驚いた彼らの手が止まってミスリルの鈴の音が途切れる。
しかし、即座にタキス達が鈴を鳴らし再び一定の間隔で鈴が鳴らされる。
もう一度陛下が笑顔で頷くのを見て、目を輝かせた護衛の者達はミスリルの鈴が付いた杖をベルトに挟み込むと足早に進み出て、並んでエイベル様のお墓に正式に参ったのだった。




