明日の予定とそれぞれの立場
「分かりました。それじゃあ、明日は早起きして陛下も一緒に朝練をするんだね」
陛下とシヴァ将軍が揃って部屋に戻ったのを見送り、レイもルークとヴィゴと一緒に自分の部屋に戻った。
そこで、ルークから明日の予定を聞いたところだ。
「それで、午前中は陛下にここでの暮らしを見ていただく。その際には、ロディナの皆さんも出てきて畑仕事や家畜のお世話なんかを手伝ってくれるんだね」
「そうだな。せっかくだから、陛下にも色々見ていただかないとな」
「良かった。アンフィーやロディナの人達の姿が、帰ってから全然見えなかったから、実はどうしたのかと思っていたの」
少し困ったように笑ったレイの言葉に、ルークとヴィゴが揃って苦笑いしている。
「まあ、俺達やシヴァ将軍、シルカー伯爵なんかとは違って、ロディナの人達やアンフィーは、基本的に貴族ではなくて一般採用の人達だからな。保安上の意味もあってあまり陛下の近くには来られないよ」
まだまだ実感する機会はあまりないが、身分制度について今ではしっかりと理解しているレイも、ルークの説明に納得して黙って小さく頷いたのだった。
その後、ルークやヴィゴから先ほどのニコスに与えられた陛下の飾りボタンの意味について詳しい説明を受け、まさかそんな意味があったとは全く気付かなかったレイを大感激させたのだった。
実は今日、陛下やレイ達が日が暮れてからここに到着した時、上の草原には篝火が幾つも焚かれていて草原はとても明るかった。そこに、シヴァ将軍やシルカー伯爵を始め多くの執事達が整列して出迎えに来てくれていた。
レイはそちらに気を取られていて気付かなかったが、実は執事達からかなり下がった背後の林の手前、篝火の明かりが届かないギリギリの距離にアンフィーをはじめとしたロディナの人々も整列して出迎えに出ていたのだ。
しかし、厳然たる身分制度があるこの世界では、市井の人々が陛下と直接言葉を交わす事など無く、当然挨拶や紹介などもない。
陛下は、坂道を降りる際に整列して微動だにしない彼らにちらりと視線をやっただけだったが、それでも陛下が自分達を見てくれたと、ロディナの人達は揃って大感激していたのだった。
今の彼らは、ギードの家の方にある客間や空いている部屋を総動員してそちらに全員が泊まっている。
ちなみに、普段はこっちの家に自分の部屋のあるアンフィーも、陛下がお泊まりになっている間は彼らと一緒にギードの家に移動してそちらに泊まっている。
そして、遠目とはいえ見習いではない正式竜騎士の制服を身に付けたレイの姿を見て、アンフィーは感激のあまり泣き出してしまい、あとで仲間達から散々に揶揄われていたのだった。
「それじゃあ、明日は夜明けと同時に起きて、まずは朝練だな」
「寝過ごすなよ」
「はあい、頑張って起きます!」
笑ったルークとヴィゴがそう言って立ち上がり、笑顔のレイもそう答えてそれぞれの部屋に戻る二人を見送った。
「はあ、今更だけど……石のお家へ帰ってきたんだ。やっぱり嬉しいなあ」
記憶にあるよりも少し狭く感じる部屋のベッドには、前回里帰りした時と同様に今のレイの身長に合わせて足元に台が用意されている。
手早く夜着に着替えて、着ていた服は軽くブラシをかけてから壁際にあるハンガーにかけておく。
「失礼致します。レイルズ様、お召しになっていた制服を預からせていただきます」
その時、軽いノックの音がして一人の執事が部屋に入ってきた。
まさか自分のところにまで執事が来てくれると思っていなかったレイが、そう言われて驚きに目を見張る。
「えっと……」
しかし、その執事は壁際のハンガーに綺麗に掛けられていた制服を見て一瞬驚いたようにこちらも目を見開き、それからレイに向かって深々と一礼した。
「これは失礼を致しました」
「えっと、僕にはお世話は必要ないので、大丈夫です。ルーク達のところへ行ってあげてください」
「もちろん、ルーク様やヴィゴ様のところにも執事が行っております。では、ご用がないようですのでこれにて失礼致します」
笑顔でそう言った執事は、改めてレイに一礼するとそのまま部屋を出て行った。
扉が閉まるのを見てから、レイは小さく吹き出してそのままベッドに倒れ込んだ。
「ああ、びっくりした。まさか僕のところにまで執事が来てくれるなんてね」
『それはそうであろう。彼らの常識ではここは其方の家なのだから、帰ってきたら当然自分達がお世話をすると考えるだろうさ』
「ええ、彼らは陛下の為にここに来てくれたんだから、それだけでいいのに」
『そういう訳にはいくまい。ちなみに其方の家族達も、おやすみを言ってそれぞれ自分の部屋に戻ったところで待ち構えていた執事に気づいて、大慌てで逃げ回っておったぞ』
「あはは、まさかのタキス達の所にも行ったの? そりゃあ大慌てになっただろうね。お疲れ様」
来てくれたブルーの使いのシルフの言葉に、大慌てな彼らの様子が容易に想像出来てしまい思いっきり吹き出したレイだった。




