それぞれの待ち時間
「失礼致します。レイルズ様。ルーク様とヴィゴ様が間も無くお越しになるとの事です」
書斎でそれぞれ好きな本を読んでいると、軽いノックの後に入ってきた執事が、ソファーに座って本を読んでいたレイの側へ来て一礼してからそう伝えた。
「お仕事終わったんだね。えっと、でも陛下はまだなんだよね?」
「はい、今しばらくかかるかと」
「了解です。えっと、出迎えは……しなくて良いみたいだね。じゃあ、僕らはそのままここで待っていればいいね」
声が聞こえたらしいタキス達が、揃ってこっちを見ているのに気付いたレイが、わざと執事に確認してから少し大きな声でそう言って閉じていた本を開いた。
タキス達も顔を見合わせて頷き合うと、特に何も尋ねる事もせずに揃って読書を再開したのだった。
「おお、ラピスはもう来ているんだな。じゃあ、パティはここで待っていてくれよな」
自分の竜に乗って離宮へやってきたルークは、庭に丸くなって寝ているブルーを見てそう言い、少し離れて地面に降り立った自分の竜の背中から飛び降りて、頬擦りする大きな顔をそっと撫で手から腕を伸ばして抱きしめた。
その隣には、ヴィゴの乗る竜がゆっくりと降りてくる。
そしてそれに続いてブルーよりは少し小さいが、ルークとヴィゴが乗って来た竜と比べると桁違いに大きい真っ赤な竜が少し離れて降り立った。
その背には鞍はあるが誰も乗っていない。
「おお、ラピスとルビーが並ぶと壮観だな」
「ううん。この二頭と並ぶと、俺のシリルが小さく見えるぞ」
呆れたようなルークの呟きに、ヴィゴもそう言って苦笑いしていた。
「じゃあ、俺達は中にいるから好きに休んでいてくれよな」
笑ったルークの言葉に竜達がうんうんと頷き、駆け寄ってきた執事に伴われてルークとヴィゴは建物の中へ入って行った。
「ああ、もう来たのか。久しいなルビー」
起きて座り直したブルーがそう言い、ルビーと首を絡めるようにして挨拶を交わしてから、ルビーの胸元に自分の首を差し入れてゆっくりと喉を鳴らした。
これは、同格の竜がどちらが上位なのかを示す方法で、首を差し入れて喉を鳴らすのは、相手が自分よりも格上だと認める行為なのだ。
この国の守護竜であるルビーは老竜なので、本来であれば古竜であるブルーの方が竜としての位は一段階上になる。だが、守護竜の役割を心得ているブルーは、表向きルビーに従うそぶりを見せているので、時折こうして他の竜が見ている前でこれをしている。
そしてそんなブルーの気遣いをしっかりと理解しているルビーは、目を細めてこちらもゆっくりと喉を鳴らしながらブルーの首の上に、そっと自分の首を重ねたのだった。
しばらくして喉を鳴らすのをやめて顔を上げたブルーとルビーは、改めてお互いを見て頷き合う。
それからブルーは、残りの二頭から改めて挨拶を受ける。
その後、広い庭でそれぞれ少し離れて座った竜達は、出発の時間になるまでのんびりと寛いでいたのだった。
「おお、そっちにいたのか」
書斎にやって来たルークとヴィゴが、ソファーに座って本を読んでいたレイに笑顔で手を振る。
「いらっしゃい。もうお仕事は終わったの?」
「おう、取り急ぎ片付けないといけないのは一通り終わったから、後はまあ、留守番組に頑張ってもらうよ」
「くじ引きで負けたマイリーとカウリは、文句を言っていたがな」
笑ったルークの言葉に、ヴィゴも笑いながらそう言って肩をすくめる。
「あはは。誰が蒼の森へ陛下と一緒に行くかは、くじ引きで決めたんだね」
無邪気なレイの笑う声に、黙って聞いていたタキス達が揃って吹き出していた。
その後は、ルークとヴィゴも加わりのんびりと読書を楽しんでいたのだが、途中で一度、ルークの前に伝言のシルフが現れ、嫌そうな顔をしつつルークが伝言のシルフを伴って一旦書斎を出て行ってしまった。
「えっと……」
驚いて顔を上げたレイが、ルークの出て行った扉を見てから困ったようにヴィゴを見る。
「大丈夫だよ。心配はいらんさ。ちょっとした確認だ」
そう言って首を振ると、素知らぬ顔で読書を再開した。
「大丈夫なんだって」
テーブルに積んだ本の上に座っていたシルフにそう言うと、苦笑いして首を振ったレイも読書を再開したのだった。
しばらくして戻ってきたルークも特に何も言わず、元いた場所に座ってこちらも読書を再開したのだった。
「失礼致します。食事の準備が出来ておりますので、どうぞお越しください」
「おう、もうそんな時間か。確かに腹が減ってきたな。じゃあいただくとするか」
本を閉じて顔を上げたルークの声に、レイ達も読んでいた本を閉じる。
「えっと、でも陛下はまだなんだよね。お越しになられるまで待たなくて良いの?」
陛下は、謁見が終わってからこっちに来ると聞いているが、食事はどうするのだろう。
心配そうにそう尋ねるレイに、ルークが首を振る。
「謁見が終わったら、昼食は向こうでお召しになってから来ると聞いているからね。だから、どちらかというと俺達が早めに食事をしておいた方が良いって事」
「そっか。陛下がお越しになった時に僕らが食事をしていなければ、食事抜きで出発するか、逆に陛下をお待たせする事になっちゃうもんね」
納得したレイの言葉に、逆にのんびり読書をしていたタキス達が無言で慌てている。
「大丈夫ですよ。まだ当分かかりますって。俺達がここに来る前に確認した時点では、まだまだ謁見待ちの人が行列していたと聞きましたからね。って事で、とりあえず食事にしましょう」
笑ったルークにそう言われて安心はしたものの、何となく急ぎ足で別室へ向かう一同だった。




