おやすみまでの時間
「お先でした〜〜〜!」
しばらくして、赤毛に負けないくらいに頬を真っ赤にしたレイが湯殿から戻ってきた。
汗をかいて少しクシャクシャになっていた赤毛は、すっかり元通りのふわふわになっている。
「はい、では先に湯を使わせてもらいますね」
戻ってきたレイと手を叩き合ったタキスが、笑顔でそう言い二人に一礼してから湯殿へ向かう。
レイが湯を使っている間に相談して、タキス、ギード、ニコスの順番で湯を使う事にしていたのだ。
「あ、冷たいお茶も用意してくれてあるね。ちょっと貰おうっと」
テーブルの横に置かれたワゴンに気付いたレイが、嬉しそうにそう言って冷えたカナエ草のお茶をグラスに注ぐ。
部屋を片付け終えた執事達とラスティは、もう下がっているので部屋にいるのはレイとタキス達だけだ。
「楽しそうな笑い声が聞こえていたけど、何の話をしていたの?」
二杯目のお茶を飲み干したところで、振り返ったレイが白ワインを飲んでいたニコスとギードにそう尋ねる。
「いや、毎日楽しかったなって話をしていただけだよ」
笑ったニコスがそう言い、手にしたワイングラスをゆっくりと揺らした。
「さて、次にここに来るのはいつなんだろうなあ?」
「そうだな。果たして次は……いつになるんだろうなあ?」
ニコスの呟きにギードも小さな声でそう言い、顔を見合わせた二人が揃って何か言いたげにレイを見る。
一瞬、不思議そうにしていたレイだったが、二人が言いたい事が分かった瞬間に唐突に耳まで真っ赤になる。
「そ、そんなの知りません! 別に理由が無くても、来たくなったらいつでも来ればいいんだって!」
悲鳴のようなその叫び声に、ニコスとギードは揃って吹き出したのだった。
その後、順番にギードとニコスも交代で湯を使い、全員揃ったところでベッドへ移動した。
「そう言えばこの顔ぶれで、ベッドで一緒に寝るのって初めてだね」
部屋の明かりを消してから、枕を抱えて寝転がったレイの嬉しそうな言葉にタキス達は不意を突かれたように驚いてお互いの顔を見る。
「うん、言われてみればそうだな。草原や森で昼食の後に一緒に昼寝をした事は何度もあるが、確かにこんな風に、夜にベッドで一緒に休んだ事は無いな」
笑ったニコスがそう言い、レイの隣に枕を抱えて寝転がる。
「確かに言われてみればそうですね。寝込んでいる誰かさんの横で一晩付き添った事なら何度かありますが、一緒にこうやって寝るのは初めてですね」
同じく笑ったタキスがそう言い、置いてあった枕を抱えてニコスが横になったのとは反対側のレイの隣に寝転がる。
「うう、その節はお世話になりました」
枕を抱えて笑うレイの言葉に、タキス達が揃って吹き出していた。
「おう、出遅れたわい。レイの両隣を占領されてしもうたな」
最後に、同じく枕を抱えたギードが苦笑いしながらそう言いニコスの横に寝転がる。
今、このベッドは普段レイが寝ているベッドに加えてもう一台、同じくらいに大きなベッドが横付けされて四人が並んで寝ても余裕の広さになっている。
これは、枕戦争が始まる前に、執事達が用意してくれたものの一つだ。
「もう帰っちゃうんだね。分かってはいるけど、やっぱり寂しいなあ……」
仰向けになって天井を見上げたままのレイの言葉に、三人も同じように仰向けになって天井を見上げる。
「俺達も寂しいよ。だけど、ここでのレイの様子を知れて良かった。もう何の心配もなく、安心して蒼の森へ帰れるよ」
「そうですね。今までもレイの口から周りの方々の話を折に触れ聞いてきましたが、こうやって自分の目で見てお話もさせていただけて、確かに今まで以上に安心出来るようになりましたね」
「そうじゃな。竜騎士隊の皆様はもちろんの事、ワシ個人としては今まで正直あまり良い印象の無かった貴族のお偉いさんやご婦人方も、ここオルダムでは少し違うようだと思えたのは良い収穫だったな」
笑ったニコスの言葉に、タキスとギードの声が続く。
「タキスとニコスとギードにそう言ってもらえて良かった。僕、ここで一杯頑張るから、どうか見ていてね」
嬉しそうに笑ったレイが、ころりと横を向いてタキスに抱きつく。
「ええ、しっかり頑張りなさい。まあ、弱音も愚痴もいくらでも聞いてあげますから、必要な時には遠慮なくシルフを飛ばしてくれていいですよ」
当然のように笑ったタキスがそう言い、腕を伸ばしてもう自分よりも遥かに大きくなったその体を抱きしめ返す。
「俺のところにも、遠慮なくいつでもシルフを飛ばしてくれていいぞ。もちろん、相談でも質問でも愚痴でも弱音でも、なんでも受け付けるぞ」
「もちろん、ワシのところでも構わんぞ。待っておる故遠慮なくシルフを飛ばしてくれ。ワシらは、いつだってレイの声が聞きたくてたまらないのだからな」
こちらも横を向いて背中側からレイに抱きついたニコスがそう言い、腕を伸ばして小柄なニコスごとレイに抱きついたギードもそう言って笑う。
「うう、その時にはお願いします」
笑ったレイがそう言い、今度は全員揃って吹き出し、暖かな笑いに包まれたのだった。
それから話し疲れて眠るまでもうしばらくの間、四人は飽きもせずに様々な話をしては声をひそめて笑い合っていたのだった。




