最後の夜
「はあ、なかなか勝たせてくれませんね。これは引き分けかな」
せっかくだからと言われ、ニコスとのひと勝負終えたヴィゴがそう言いながらソファーに倒れ込んだ。
「いやいや、ヴィゴ様も相当にお強いですよ。勝つつもりだったのですが、攻めきれませんでしたね」
苦笑いしたニコスの言葉に、腹筋だけで体を起こしたヴィゴも散らかった盤上を見てから苦笑いしていた。
「なかなか良い勝負でしたね。お疲れ様でした。お、そろそろレイルズ達も戻って来る時間かな?」
窓の方から聞こえる十一点鐘の鐘の音に気が付いたヴィゴが、そう言いながら扉の方をチラリと見た。
「そうだな。そろそろ夜会の終わる時間だろうが、まあ戻ってくるまではもう少しかかるだろうさ。さてと、それなら最後にあと一回くらいは出来るかな? じゃあ、最後の対戦は二対二でやってみますか?」
笑ったマイリーの言葉に、ヴィゴが腹筋だけで軽々と大きな体を起こしマイリーの隣に並んで座り直す。
それを見て、嬉々としてニコスの隣にティミーが座る。
そのままティミーとニコスが組み、ヴィゴにはマイリーが付いて二対二での最後の対決となったのだった。
また、まだそれほど陣取り盤に詳しくないタキスとギードは、大いに盛り上がっている四人を横目にこちらはかなりののんびりとした様子で陣取り盤を挟んで座り、グラントリーとタドラの従卒であるヘルガーがそれぞれ横に付き、攻略本を片手に陣取り盤の攻め方や守り方について詳しく教えてくれた。
元々頭の良い二人は興味津々で時折質問もしつつ実際に駒を動かしては納得したように何度も頷き、こちらもなかなかに楽しい時間を過ごしていたのだった。
「ただいま戻りました〜!」
それからしばらくして、マイリーの言葉通りに夜会に参加していたレイ達が休憩室へ帰ってきた。
「ああ、おかえり」
ニコスが何とかそう答えたが、それ以外の三人は顔も上げない。
「おお、やってるやってる。それで、今はどうなってるんだ?」
笑ったルークがマイリーの肩越しに陣取り盤を覗き込む。レイも笑いながらニコスの肩越しに盤上を覗き込んだ。
そのすぐ後に倶楽部の会合に参加していた若竜三人組も帰ってきて、皆が好き勝手に横から口を出し始めて大騒ぎになったのだった。
「ううん、最後は勝ちたかったなあ。敗因は、お前の攻めたここだな」
「面目ない」
マイリーにバンバンと背中を叩かれて、俯いたヴィゴが悔しそうにそう言って顔を覆った。
「はあ、何とか逃げ切れましたね。いやあ、良い勝負をありがとうございました」
そしてこちらは満面の笑みになったニコスがそう言って、ティミーと頭上で手を叩き合っていた。
「お疲れ様。で、やるんですよね?」
にんまりと笑ったルークが、そう言ってマイリーとヴィゴの背を叩く。
「もちろん。俺達も参加していいんだよな?」
同じくにんまりと笑ったマイリーとヴィゴが、揃ってそう言いティミーを見る。
「もちろん僕も参加させていただきますので、よろしくお願いします!」
「え? 何をするの?」
もうひと勝負するのかと思っていたが、グラントリーや執事達が散らかった駒を集めて整理し始めているのを見て、レイは首を傾げつつ隣にいるルークを見た。
「何って、お前……そりゃあ最後の夜なんだから、ひと勝負するだろう?」
そう言って、ソファーに置いてあったクッションを引っ掴むと、そのままレイの顔にクッションを叩きつけた。
「ああ! もしかして枕戦争ですか!」
「じゃあ、一旦兵舎に戻って各自湯を使ったら、各自武器を持ってレイルズの部屋に集合な」
笑ったルークの言葉に、あちこちから吹き出す音が聞こえて拍手が沸き起こったのだった。
目を輝かせたレイが勢いよく立ち上がり、そのまま兵舎へ全員揃って移動したのだった。
「お待たせしました!」
両手に枕を抱えたティミーが、執事のマーカスに付き添われて部屋に駆け込んできた。
「待っていたよ〜〜」
笑ったレイがそう言い、当然のように手にしていた大きめの枕をティミーに叩きつける。
即座に対応したティミーが大きくのけ反ってそれを避け、下から枕を振り上げてレイを殴りにいく。
声を上げて笑ったレイとティミーがそのままベッドに倒れ込み、転がったまま枕を振り回す。
「ああ、もう始めてる!」
「ずるいぞ。俺も入れろ!」
開けたままだった扉から、同じく枕を抱えたロベリオとユージンが部屋に駆け込んできて、そのままベッドに飛び込んでくる。
今、このベッドは普段レイが寝ているベッドに、さらに大きなベッドを後二つ無理やりくっつけているのでかなり広い。
ちなみに、いつもお茶を飲むときに使っているテーブルは壁際まで移動されていて、追加で設置された大きめのソファーが合計三台、若干無理矢理な配置で設置されている。
当然、クッションは多めに用意されているし、並んだワゴンにはカナエ草のお茶をはじめワインやウイスキー、軽食やお酒のつまみも数多く用意されている。
「僕も入れて〜〜!」
枕を抱えたタドラも乱入してきて、いきなり前哨戦が始まったのだった。
「本当に、私達まで参加してよろしいのですか?」
「もちろんです。せっかくなんですから誰でも思いっきり枕でぶん殴ってください。もちろん、俺も喜んでお相手しますよ」
そして枕を抱えてマイリーとヴィゴに付き添われて部屋にやってきたタキスとギードとニコスを見て、レイは大喜びで歓声を上げティミーと二人並んで一気に起き上がり、そのまま大きく枕を振りかぶってタキスに飛びかかって行ったのだった。




