夜会の前に
「失礼致します。そろそろ早めの夕食をお召し上がりいただかないと、何も食べずに夜会に参加なさる事になりますが、よろしいですか?」
ニコス対マイリーの五度目の対決を夢中になって見ていた時、控えめなラスティの声が聞こえてレイは慌てて顔を上げた。
「ええ、もうそんな時間なの?」
「はい、もうそんな時間でございます」
大真面目な顔でそう言われて、思わず吹き出す。
「ああ、本当だ。外はもう真っ暗だね」
窓の外が真っ暗になっているのに気付いたレイの言葉に、対決の手を止めたマイリーとニコスも驚いたように揃って顔を上げた。
「おやおや、もうそんな時間か。今夜の夜会に参加するのは誰と誰だ?」
笑ったマイリーの言葉に、ルークとカウリ、ロベリオとユージンとタドラ、それからレイが手を上げる。
「俺達は倶楽部の会合だから、そっちとは別口だけどね」
苦笑いするロベリオの言葉に、ユージンとタドラも揃って苦笑いしつつ頷いている。
「つまり夜会の予定が無いのは俺とマイリーだけか。じゃあ、お前達は、構わないから先に食事にしなさい」
唯一、夜会の予定が無いヴィゴが笑ってそう言いながら背後を示す。
そこには、さまざまな料理を載せたワゴンが何台も用意されていて、彼らが座っていたのとは別に置かれている広いテーブルに、執事達が手分けしてその料理を並べているところだった。
そのどれもが簡単に摘んで食べられるように工夫されているし、量もそれなりにある。
夜会に参加するレイ達は、それを見て笑顔で広いテーブルに移動したのだった。
「ああ、放ったらかしにして申し訳ありません。よければご一緒にいかがですか?」
彼らから少し離れた窓際のソファーに並んで座り、陣取り盤を前にして初心者向け攻略本を見ていたタキスとギードに、振り返ったルークが若干慌てたようにそう言って料理の並んだテーブルを示す。
ちなみに二人の前にあるテーブルの上には、二台の陣取り盤と並んで、飲みかけの赤ワインのボトルとグラスが二つ、それからチーズと燻製肉が並んだお皿が置かれている。
「我らも楽しんでいますので、お気遣いは不要ですよ」
「そうですぞ。遠慮なく先に一杯いただいております。これは、銘柄は存じませぬが、なかなかに美味いワインでございますなあ」
笑ったタキスに続き、栓の空いたワインのボトルを手にしたギードもそう言って笑顔になる。
「ああ、それは俺が個人的に援助しているワイナリーのものですね。小規模の家族経営なので、毎年、支援者達と専属契約している商人のところに届けられるだけで、市場には一切出ないワインですよ。でも、これがまた美味いんですよね」
笑ったルークの言葉に、ギードが驚いて目を見開く。
「おお、そのような貴重なワインを……」
「どうぞお気になさらず。たくさん届いているので、いつもこっちでも飲めるようにしてもらっているんです。お気に召したのなら、用意しておきますので土産に持って帰ってください」
笑ったルークの言葉にギードは、希少なワインとは言ってもそれほど高級なものではないのだと知って、密かに安堵のため息を吐いた。
「では、せっかくですから我らも食事をご一緒させていただきましょうか」
「そうだな。では遠慮なく」
テーブルの上に並んだ料理を見たギードも、タキスの言葉に頷いて立ち上がる。
各自好きに取って食べるようなので、これならそれ程マナーを気にせず気軽に食べられそうだ。
「ほら、こっちこっち」
満面の笑みのレイに手招きされて、タキスとギードもレイの隣に座って好きな料理を取り始めたのだった。
一方、夜会の予定のないマイリーとヴィゴはそちらには参加せず、マイリーはニコスを相手に止まっていた対戦を再開して、ヴィゴはその横に座って見学していたのだった。
ちなみにティミーも、お腹が空いていたのでマイリーとニコスの対決を気にしつつもロベリオの隣に座って食事をしている。
「えっと、僕が夜会に参加している間は、タキス達はどうするの?」
軽めの白のワインを飲んだレイが、隣に座るルークの袖を軽く引っ張る。
「こら、引っ張るんじゃあないよ。ええと、どうなさいますか? マイリーはまだまだニコスを離す気はないみたいですが」
チラリと横目でマイリーを見たルークの言葉に、タキスとギードは困ったように顔を見合わせる。
「よろしければ、今夜はお二方もこちらにお泊りください。それなら夜会から戻って来たレイルズともすぐに会えますからね。それで明日の朝はゆっくりしていただいて、それからレイルズと一緒に瑠璃の館に戻りください」
「よろしいのですか?」
「もちろん。それにせっかくの最後の夜でしょう?」
驚くタキスの言葉に、ルークが何故かにんまりと笑う。
そして若竜三人組とティミーが、それを聞いてこちらも何故かにんまりと笑って揃って頷く。
「えっと……?」
「まあ、それは夜会の後の楽しみって事にしておくといい」
あえて何故なのか言わずにそれだけを言ったルークは、あとはもう素知らぬ顔で取り分けた料理を食べ始めた。
タキスとギードと顔を見合わせて揃って首を傾げたレイだったが、とりあえず時間も無いので、まずは食事をする事に専念したのだった。




