奥殿から本部への招待?
「それにしても可愛いですねえ。蒼の森に来てくれるのが楽しみです」
膝の上によじ登ってきたふかふかな子猫を撫でながら、タキスが嬉しそうに目を細めながらそう言って笑っている。
撫でられた子猫は、ご機嫌でタキスの手にじゃれつき始めた。
その子猫は、猫のレイと同じく白と黒の毛色で綺麗な鉢割れ模様になっている。そして当然だが、タキスの知る普通の猫よりもかなり毛が長くてもうこれ以上ないくらいのふわふわだ。
「子猫達、どの子も可愛いよね」
嬉しそうなレイの言葉に、タキスも笑顔で頷く。
「こんな風に、先の事が楽しみな日々を過ごせる日がまた来るなんて、今でも夢のようです。本当に長生きはするものですね」
そう言って笑ったタキスの言葉に、皆一瞬だけ真顔になる。
「さて、蒼の森に来てくれるのはどの子になるのでしょうね」
皆の様子に気付いたタキスだったが特に何も言わず、笑って膝の上で喉を鳴らす子猫をもう一度撫でてやった。
「タキス殿、どの子が良いか、希望はありまして?」
笑顔のサマンサ様の言葉に一瞬驚いたように目を見開いたタキスは、自分の膝を占領している子猫を見て、それからまだ部屋の中を走り回っている子猫達を順に見回してから首を振った。
「こんなに可愛い子達の中から一匹だけ選べと言われても、正直に申し上げて選べる自信が全くありませんね。もちろん、どの子が来てくれても全く問題ありません。来てくれる日を楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします」
「そうですか。それでは頑張って選ばせていただきますね」
サマンサ様は笑顔でそう言い、同じく笑顔のマティルダ様と顔を見合わせて頷き合っていたのだった。
そのあとも暴れ回る子猫達をのんびりと眺めて過ごし、用意された紐や鳥の羽根で子猫達と遊んでやってから奥殿を辞した。
「えっと、今夜は出ないといけない夜会があるんだって。でも、また遅くなっても瑠璃の館に帰るからね」
廊下を歩きながら、レイが小さな声で先ほどルークから聞いた予定を伝える。
「それで明日はこっちで一緒に過ごせる最後の日でしょう。一日予定を空けてくれたから、ゆっくりしていいんだって」
本当なら昼食会と夜会の予定が入っていたのだが、ルークが無理やり予定を空けてくれたのだ。
「おや、それは嬉しいですね。では、何をして遊びましょうか?」
嬉しそうにそう言ったタキスに、ルークが笑いながら軽く右手を挙げて見せる。
「実はその事でちょっと相談があるんですが、よろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
驚いたようにタキスがそう言ってルークを見る。
「まあ、こんなところで立ち話もなんですから、本部へご招待いたしますのでとにかく戻りましょう」
確かに、奥殿の廊下で立ち話は失礼だろう。
笑ったルークから一通の封筒がニコスに渡される。
それを見てニコスが小さく吹き出し、タキスとギードに何かを説明していた。
まだ一緒にいられるのだとわかって、レイも笑顔になる。
とりあえず奥殿を出るまで一緒に歩き、出迎えてくれた執事達に一旦タキスを預けてレイ達はそのまま本部に戻った。
タキス達はそのまま用意された馬車に乗って、正面から招待客として竜騎士隊の本部に来てくれるのだと聞きレイが驚く。
「このまま俺達と一緒に戻ると、まあ、色々言ってくる人がいたりするからね。実を言うとタキス殿やニコスの扱いは、ちょっと慎重になっているんだよね」
「色々言ってくるって?」
まだまだそのあたりの貴族達の考えについては思い至らないレイが、不思議そうにそう言ってルークを見る。
「まあ、色々だよ。これについては後でゆっくり時間を取って教えてあげるよ。何としてもタキス殿と縁を結びたがっている貴族は、どこにでもいるからね。もちろんタキス殿が社交界に顔を出してくださるのならまた話は別だけど、そっち方面は全部断られているからね」
「タキス達が社交界に顔を出すなんて、そんな無茶言わないでください」
割と本気のレイの叫びに、苦笑いしつつ頷くルークだった。
「皆、ようこそ〜〜」
先に本部に戻って一息ついたところで、執事に案内されたタキス達三人が本部の休憩室に入って来て、レイが嬉しそうにそう言って立ち上がって出迎える。
「はい、お招きいただきありがとうございます」
笑ったタキスがそう言い、三人揃って深々と一礼する。
「ようこそお越しくださいました。どうぞ座ってください」
同じく立ち上がったルークとカウリだけでなく、そこには会議から一足先に戻って来ていたマイリーの姿があった。
そして笑顔のマイリーの座っていたソファーの前のテーブルの上には、一台の陣取り盤が置かれている。
「お帰りになられる前に何としても再戦をお願いしたくて、俺がわがままを言ってお招きしたんですよ。俺は夜会の予定はありませんので、じっくりお相手願えますか。ニコス」
にっこり笑ったマイリーの言葉に、ニコスが堪えきれずに小さく吹き出す。
「もちろん、何戦でも喜んでお相手を務めさせていただきますよ」
笑ったニコスの答えにマイリーも小さく吹き出し、座って笑顔で手招きする。
「では、失礼します。おお、これはまた素晴らしい陣取り盤ですね」
黒光りするその台をそっと撫でたニコスがそう言い、まだ並べられていなかった駒から白と黒の兵士の駒を一つずつ取り、両手を合わせて駒を軽く振ってから左右の手で握り込む。
「では、右を」
マイリーの言葉にニコスが右手を広げると、白い兵士の駒が現れた。
「よし、先手を取ったぞ!」
笑ったマイリーの言葉に、わざとらしくニコスが頭を抱えて見せる。
陣取り盤は、基本的に先手が有利だとされているからだ。
手早く駒を並べ始めた二人を見て、レイ達は笑顔でよく見える位置を確保して座る。
苦笑いしたタキスとギードはそんな彼らの端に並んで座り、早速始まった対戦を目を輝かせて見つめているレイ達を、飽きもせずに笑顔で眺めていたのだった。




