サマンサ様と子猫達
「失礼致します」
美味しいお菓子をいただきながら、猫達の普段の様子やティア妃殿下の話を伺っていた時、マティルダ様の元に一人の執事がやってきて何かを耳打ちした。
「ようやくのお目覚めね。ええ、いつでも構わないわ」
小さく笑ったマティルダ様の言葉に、顔を上げたレイも笑顔になる。
「もしや、サマンサ様がお目覚めになったのでしょうか?」
「そのようね。お茶会の時間を寝過ごした事に気付いて、大慌てだったみたいよ」
「それくらいぐっすりお休みになれたのなら、良かったです」
笑顔のレイの言葉に、タキス達やルーク達も笑顔で頷く。
「このところ、お祖母様はずっと体調も良いみたいだし、子猫効果は抜群のようね」
ティア妃殿下の言葉に、アルス皇子が嬉しそうに笑う。
「ならば、孫が生まれたらもっと元気になってくださるかな?」
その言葉に、ティア妃殿下が目を見張り大きく頷く。
「本当ですわね。お祖母様にはこの子をしっかりと抱いて、祝福をいただかないと」
嬉しそうにそう言って大きくなったお腹を撫でるティア妃殿下を、ニコスはもうこれ以上ないくらいの笑顔でずっと見つめていたのだった。
「まあまあ、なんて失礼をしたのでしょうね」
しばらくして、執事に車椅子を押されたサマンサ様が、少し恥ずかしそうにそう言いながら部屋に入ってきた。
膝の上にはいつもの台付きのクッションが置かれていて、まだ寝ぼけているらしい六匹の子猫達がぎゅうぎゅうにくっつきあって収まっている。
「ゆっくりお休みになれた様でよかったですわ」
笑顔のマティルダ様が椅子を少し引いて場所を開け、レイとマティルダ様の間にサマンサ様の車椅子が収まる。
「お姿が見えないので、お加減が悪いのかと心配しました。お元気そうでよかったです」
目を輝かせたレイが言う通り、今日のサマンサ様は顔色も良くとても元気そうだ。
「そうね。このところ体調も良くて食事が美味しいの。この子達のおかげで毎日楽しいわ」
嬉しそうに目を細めたサマンサ様が、膝の上の子猫達をそっと撫でる。
シワだらけの細い腕に、目を覚ました子猫の一匹が嬉々としてじゃれついてくる。
しかし、子猫特有のまだ爪が出っぱなしになっている為に、サマンサ様の袖に子猫の爪が引っかかってしまった。
「ああ、駄目よ。ほら、じっとして」
苦笑いしたサマンサ様が、慣れた様子で反対の手で子猫の前脚を押さえて爪を外す。
大人しくされるがままになっていた子猫は、爪が外れた途端くっついていた横の子猫にじゃれつきにいく。
そのまま二匹揃って膝の上のクッションから転がり落ちそうになる子猫を見て、咄嗟にレイは腕を伸ばして落ちそうになった子猫を押さえた。
即座に執事が駆け寄り、無事に二匹の子猫達はサマンサ様の膝に戻されたのだが、立ち上がりかけたせいで大きく動いた為にレイの膝から突然に膝掛けごとずり落ちてしまった猫のレイは、心外だとばかりに不服そうに鳴きながらレイの足に頭突きを始めた。
「ああ、ごめんね。ほらおいで」
それを見たレイは困った様に笑って一旦立ち上がり、改めて座り直してから落ちた膝掛けを拾って膝の上に広げて、ぽんぽんと自分の膝を叩く。
しかし、足元にいる猫のレイは、そんなレイを見上げているだけで拗ねた様に小さく鳴き自分では動こうとしない。
「失礼致します」
一礼した執事が、足元にいた猫のレイをそっと抱き上げてレイの膝の上に置いてくれる。
拗ねたように普段よりも若干低い声でもう一度鳴いた猫のレイだったが、そのままレイの膝の上で丸くなって収まった。
「機嫌を直してくれてよかった。でも、そろそろ僕の膝が誰かさんの体重のせいで痛くなってきているんだけどなあ」
笑ったレイの言葉に尻尾の先だけで返事をした猫のレイは、丸くなったまま顔も上げない。
「君は、相変わらず自由だねえ」
苦笑いしたレイが、そう言いながら猫のレイをそっと撫でる。
ご機嫌で喉を鳴らし始めた猫のレイを見て、タキス達もこれ以上ない笑顔になっていたのだった。
サマンサ様の前には小さなベリーのジャムのパイが用意され、改めて全員にお茶が用意される。
竜騎士達とレイは、当然カナエ草のお茶だ。
「この、ベリーのジャムのパイ、とても美味しかったですよ」
「まあ、そうなの。甘い物好きなレイルズの墨付きがあるのなら安心ね」
笑顔のレイの言葉に、サマンサ様は嬉しそうにそう言ってパイを口にした。
「本当ね。パイはサクサクだし、ジャムも甘くて美味しいわね」
笑ってそう言った直後、サマンサ様の膝の上にいた子猫達が目を覚ましたらしく次々に起き上がり、伸びをしたりお互いを蹴り合ったりし始める。
「あらあら、駄目よ。喧嘩しないで」
慌ててカトラリーを置いて膝の子猫達を撫でるサマンサ様だったが、すっかり目を覚ました子猫達はさらに興奮して暴れ出し、絡まり合ったままで膝からまとめて転がり落ちそのまま部屋中を走り始める。
「皆、サマンサ様と一緒に休んでいたから元気いっぱいだね」
尻尾を立ててご機嫌で走り回る子猫達を見て、お茶をいただいていた皆も笑顔になるのだった。




