解決策の提案
「はあ、一体何をどうしろと……ううん、冗談抜きで誰か頼れる人は……」
ニコスとの精霊通信を終えたシヴァ将軍は、大きなため息を吐いてから頭を抱えた。
「どう考えても、今現在頼れるとしたらブレンウッドのシルカー伯爵家だな。よし、勝手に話すわけにはいかないので、まず先にあいつに確認してみるか」
もう一度ため息を吐いたシヴァ将軍は、無言で立ち上がって部屋の施錠と全部の窓の施錠も確認してから椅子に戻って座った。
それから、机の上に置いてあった小袋からやや長めの小枝を一本取り出した。
これは、先ほども使った伝言の木だ。
シヴァ将軍は、もちろん伝言のシルフは見えるが、精霊魔法は使えないので自分でシルフを呼び出す事は出来ない。
なので、ここに来る際には緊急事態に備えていつも伝言の小枝や伝言の木を複数用意してきている。
これがあれば、万一の際にすぐに外部と連絡が取れる。
「シルフ、フィルベルトを呼んでくれるか」
伝言の木を手折ると、そう言って居住まいを正した。
フィルベルトとは、シヴァ将軍の年の離れた弟の名前で、今はロディナで奥方と共に精霊竜の育成に携わっている。
特に、二人ともシヴァ将軍の苦手な事務系に強く、主に書類仕事や各地との連絡の窓口になってくれている頼りになる存在だ。
しばしの沈黙の後に、一人のシルフが現れて座る。
『兄さんかどうした?』
弟の言葉を伝える伝言のシルフを見て、シヴァ将軍がため息を吐く。
「すまんが緊急事態なんだ。今すぐに、誰もいない部屋に行って施錠してくれ。話はそれからだ」
『りょ……了解だ』
『ちょっと待ってくれ』
慌てたように頷いて立ち上がったシルフが、走る振りをしてからため息を一つ吐いて座る。
『もういいぞ話を聞こう』
『一体何事だ?』
その言葉にもう一度ため息を吐いたシヴァ将軍だったが、顔を上げて真顔になる。
「その前に一つ質問だが、お前、奥方との仲は良好か?」
『はあ? いきなり何だよ』
驚いた様子でそう言った伝言のシルフは、小さく吹き出してから胸を張った。
『当たり前だろうが』
『夫婦喧嘩をしたのは』
『もう思い出せないくらいに昔の話だぞ』
「ちなみに奥方のご実家との関係は?」
『これ以上ないくらいに良好だよ』
『降誕祭には子供達に山程の贈り物を交わし合うし』
『新年のご挨拶には』
『ロディナの干し肉を箱で贈るくらいには仲良くしているぞ』
「それなら良かった。実は奥方のご実家に内密の仕事を頼みたいんだ。ちょっといくつか確認してからでないと詳しい話は出来ないんだがな」
『え? 内密の話だって?』
明らかに警戒する様子の伝言のシルフを見て、シヴァ将軍はもう一回ため息を吐いた。
「そう、内密の話だ。一応言っておくが、違法な話や悪い話ではなく、皇族のお方に関する話だ」
『はあ? それこそ何の話だよ!』
「すまんが、あとでもう一度連絡するから、とにかくそのまま待っていてくれ。シルフ、話は終わった」
一方的にそう言って、一旦精霊通信を終了する。
それから伝言の小枝を取り出して手折り、今すぐニコスに、こちらに連絡してもらうように頼んでから、もう一度ため息を吐いたシヴァ将軍だった。
「ん? どうした?」
執事達と話をしていたニコスの腕に、不意に伝言のシルフが現れて腕を叩く。
驚いたニコスの言葉に、執事も即座に口をつぐんで下がる。
しかし、伝言のシルフが伝える言葉を聞き、ニコスと執事は顔を見合わせて苦笑いした。
「もしかして、さっきの話かもしれないな。シルフ、シヴァ将軍閣下をお呼びしてくれ」
笑ったニコスが椅子に座ってそう言うと、テーブルの上に何人ものシルフ達が並んで座った。
「ニコスです。何かありましたか?」
真顔になったニコスの言葉に、先頭の伝言のシルフが笑って頷く。
『先ほどのお話ですが』
『一つ解決策を思いつきました』
『実は私の弟の妻の実家が』
『ブレンウッドのシルカー伯爵家なのです』
『弟に確認したところ』
『ご実家との仲は良好との事ですので』
『ここは事情を話して手伝ってもらうべきでは?』
『もちろん伯爵ご本人が』
『信頼出来る人物である事は私が保証します』
予想通りの内容に、ニコスは安堵のため息を吐く。それに、どうやらその伯爵ご自身も信用に足る人物のようだ。
「それは有り難いです。ご迷惑でなければ是非お願いします」
『ありがとうございます』
『では弟を通じて連絡を取り』
『詳しい事情を話しておきます』
笑ったシヴァ将軍の言葉に、ニコスも笑顔で大きく頷く。
「では、こちらから後ほどそのシルカー伯爵に連絡を取り、お願いしたい内容を詳しく詰めましょう」
『そうですね』
『確かに詳しい打ち合わせは』
『直接していただいた方が良いでしょう』
『では私の方からシルカー伯爵に連絡しておきますので』
『あとは直接やりとりをしてください』
「かしこまりました。ではよろしくお願いします」
ニコスの言葉に伝言のシルフ達が立ち上がり、次々に手を振ってからくるりと回って消えていった。
「どうやら、何とかなりそうですね」
安堵のため息を吐いたニコスの言葉に先ほどまで打ち合わせをしていた執事も笑顔で頷き、全くの戦力外で見ているしか出来なかったタキスとギードも、揃って安堵のため息を吐いたのだった。




