タキス達の予定?
「はあ、毎日こんなに何もせずに朝寝して、食べて寝るだけの怠惰な生活をしていたら、森へ帰った時に元の生活に戻れなくなりそうで怖いですねえ」
すっかり日が高くなるまでゆっくりと休んだタキス達は、用意された、彼らにしては遅い朝食をいただきながら顔を見合わせて苦笑いしていた。
「確かに。でもそろそろ森へ帰る段取りをしたほうが良い気がするんだが、どう思う?」
パンをちぎったニコスが、そう言いながらタキスとギードを見る。
「確かにそうですね。でも、師匠が城の図書館へ連れていってくださると言っていたんですが、忙しいようでなかなか時間が取れないみたいなんですよ。別に知らない場所ではありませんから、個人的にこっそり行って好きなだけ本を読んで来ようかと思っているんですが、勝手に行くのはやはり駄目でしょうかね?」
最後は、背後に少し離れて控えていたアルベルトを振り返って、タキスが苦笑いしながらそう尋ねる。
「城の図書館での閲覧をご希望でしたら、すぐに手配をいたします」
一礼するアルベルトを見て、タキスが何か思いついたらしく小さく手を打つ。
「ああそうか。今の私は、ただの旅行客ですから一人ではお城へ入る権限はありませんね。勝手にお城へ入ろうとしても、入り口で止められ追い返されてしまいますね」
「エイベル様のお父上を追い返したと知られたら、その場の担当兵は、冗談抜きで最低でも始末書か、閑職に配置転換される程の大事件になるぞ。何も知らない一般兵に迷惑かけるんじゃあないよ」
呆れたように笑ったニコスの言葉に、一瞬動きを止めたタキスが思いっきり嫌そうな顔でニコスを振り返る。
「それって……」
「おう、冗談じゃあなくて、間違いなくそうなるからとりあえず勝手はするな。そうだなあ。誰かの案内無しに城に入りたいなら、レイか竜騎士隊のどなたかにお願いして保証人になっていただき、城に入れる権限を付与した身分証を発行をしてもらうのが一番良さそうだな」
今までのタキス達には竜騎士隊の誰かが、あるいは正式な指示を受けた執事達が付き添い、城や竜騎士隊の本部へ行っていた。
もちろんその際には、三人は正式に招待を受けた客人として扱われていたので、逆に言えば彼ら自身の身分証明書は必要なかったのだ。
「ニコス様。ご心配には及びませぬのでどうぞご安心を。こちらへ皆様方がお越しになられた際に、マイリー様のお名前で発行された正式な身分証明書をお預かりしております。これがあれば、城へも自由にお入りいただけます。それから、こちらはお帰りになる際にそのままお持ち帰りいただいて構いませんので、ブレンウッドの街や、あるいはまた次回オルダムへお越しになる際など、何らかの公的な身分証明書が必要になった際には、遠慮なくお使いくださいとの事です」
「お、おお……これはまた、ご配慮恐れ入ります」
にっこり笑ったアルベルトの説明に、若干焦ったようにニコスがそう言って深々と一礼した。
実は、三人の身分証明書を発行する際に、誰が三人の保証人となり裏書きをするかで一悶着あったのだ。
皇王様とマティルダ様が保証人に立候補したのだが、森に住む一般人である彼らの保証人が皇王様というのは、さすがにやりすぎだと竜騎士達から反対され、結局竜騎士達の間で相談した結果、マイリーが保証人として身分証の裏に名前を入れる事となったのだった。
保証人をレイの名前にしなかったのは、逆にそこからレイとタキス達との関係を遡られない為の用心である。
「じゃあ、せっかくだしひと休みしたら城の図書館へ行ってみるか? オルダムの城にある図書館の蔵書量は世界最高峰と謳われているからな。せっかくだから、俺も見てみたいよ」
笑ったニコスの言葉に、タキスが満面の笑みで頷く。
「ええ、あの図書館の蔵書量はそれは素晴らしいですよ。もちろん常に全てが公開されているわけではありませんが、各分野ごとに綺麗に整理された蔵書を見るだけでも、有意義な時間を過ごせますよ」
目を輝かせるタキスの説明に、ニコスとギードもそれは楽しみだと言って笑っていたのだった。
『おやおや、せっかくなのでのんびりすればよいものを、彼らの知識欲も相当のようだな』
窓辺に座ったブルーの使いのシルフの呟きに、並んで座っていたニコスのシルフ達も揃って笑いながら頷いている。
『前の主様も今の主様と同じくらいに知識欲は旺盛だよ』
『今はもう必要無いと言っておられるけど』
『それでもここへ来てからの前の主様はとても嬉しそうに本を読んでいる』
『それはとても良き事』
『良き事良き事』
得意そうなその言葉に、ブルーの使いのシルフも笑っている。
『そうだな。ではここにいる間に気が済むまで本を読めばよかろう。レイはまだまだ彼らに帰って欲しくは無いようだからな』
『そうだね』
『でもそろそろ帰った方が良いかもね』
『農作業がたくさん待っているからね』
『まあ、そこはブラウニー達とロディナの連中と、それから竜の保父さんに頑張って貰えば良かろうて』
面白がるようなブルーの使いのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達は揃って吹き出し大笑いしていたのだった。




