本部への帰還と新作お菓子
「うう、全員からおかしいとか言われたし」
ゼクスの手綱を引いて厩舎へ向かいながら、レイがそう言って泣く振りをする。
「おかしいものをおかしいと言って何が悪い」
「そうだそうだ。俺なんて、初級で一番簡単なはずの伝言の術を扱えるようになるまでですら、かなりかかったのに!」
開き直って笑うキムの言葉に、マークも何度も頷きながら苦笑いしている。
「一応僕、複数のシルフを使った上級の伝言の術での単位は貰えましたが、まだ失敗と成功が五分五分くらいなんですよね」
ため息と共に肩を落とすティミーの言葉に、マークとキムが同時に振り返る。
「ああ、分かる。五分五分まで出来れば確かに単位は貰えるけど、扱えるようになったって胸を張って言えるかって言われたら、微妙だもんなあ」
「でもまあ、あれはもう経験値だから、ガンガン使って慣れるしかないって。どうか頑張ってくださいね。ティミー様」
最後は厩舎に到着して周囲に第二部隊の兵士達が増えたので、マークの言葉が一気に改まる。
「ええ、教授からもそう言われたので、時々ロベリオ様やユージン様にお相手してもらって上位の声飛ばしを練習中なんです」
「そうなんですね。あ、何なら俺達で良ければいつでも練習のお相手をしますよ。遠慮なく伝言のシルフを飛ばしてください」
「ああ、それはいいな。ティミー様と俺達で、合成魔法について、伝言のシルフを通じて討論してみるのなんてどうですか?」
「是非お願いします!」
素晴らしい提案に目を輝かせたティミーが何度も頷き、それを見た二人も笑顔で頷く。
「何それ! 僕もやりたい!」
そして、こちらも目を輝かせたレイが振り返ってそう叫ぶのを聞いて、三人が揃って呆れ顔になる。
「レイルズ様。これはあくまでもティミー様の声飛ばしの練習の話なんです」
「ええ、僕だけ仲間はずれ〜〜」
苦笑いするキムの言葉に、駆け寄ってきた第二部隊の担当兵に手綱を返しつつ、文句を言って口を尖らせるレイだった。
マーク達と別れてひとまず兵舎の部屋に戻って荷物を置いたレイ達は、揃って本部へ戻りジャスミンとニーカも一緒に三階の休憩室へ向かった。
「ああ、おかえり。ちょうどお茶が入ったところだよ」
「春の新作菓子が届いたから、内緒でこっそり食べようと思っていたのに」
「ええ、それは駄目です!」
休憩室に入ってきた一同に気付いて笑いながらそう言ったロベリオとユージンの言葉に、レイが慌てたように叫ぶ。
「ああ、ジャスミンとニーカも一緒なんだね。じゃあ二人はこっちへどうぞ」
笑ったルークの言葉に、笑顔で頷いたジャスミンとニーカも素直に言われた席につく。
即座に控えていた執事が、レイ達の分のお茶を用意してくれる。
「ありがとうございます。うわあ、お花畑みたい」
「本当だわ。とっても綺麗ね」
カナエ草のお茶と一緒に出されたお菓子を見て、ジャスミンとニーカが嬉しそうな声をあげる。
用意されたのは小さくて丸いカスタードタルトだったが、その上部は見事な花畑になっていたのだ。
これは様々な色に着色したクリームを使って花や葉の形に絞り出し、まるで花束のような形に飾り付けがなされている。
さらにそのクリームの花の間には、華やかな色の果物も飾られているのだが、こちらも綺麗な飾り切りが施されていて本物の大小の花のようになっていたのだ。
横には小さめのリーフパイも添えられていて、本当に花束がそのままお菓子になったようだ。
「へえ、確かに綺麗だね。それに美味しそう」
「そうですね。とても綺麗です」
レイとティミーも、用意されたそれを見て揃って笑顔になる。
「これは、ジャスミンやニーカのような女の子に似合うお菓子だね」
「確かにこれは、俺達みたいな野郎が雁首揃えて食べるお菓子じゃあないなあ」
笑ったロベリオとユージンの言葉にルークとタドラが吹き出し、遅れてレイとティミーも吹き出す。
ジャスミンとニーカも口元を覆って吹き出し、その場は暖かな笑いに包まれたのだった。
「ううん、甘くて美味しいね。これ、瑠璃の館にも届けてもらえますか。せっかくだから、タキス達にも食べてもらいたいや」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
ラスティが笑顔でそう言い、それを聞いた執事が一人、小さく頷いてすぐに下がっていった。
「えっと、そういえば今夜の予定ってどうなってるのかな? 僕、瑠璃の館に戻っていいの?」
隣に座るルークを見ながらそう尋ねる。
「今夜は、レイルズも夜会に参加だ。でもまあ、それほど遅くはならない予定だから、帰りたければ瑠璃の館に戻ってくれても構わないぞ。だけど明日は昼食会と夜会の予定が入っているから、午前中にこっちへ戻ってきてもらわないといけないけどな」
「うう、せっかくなのに、タキス達とゆっくりする暇がないよう」
「そこはもう諦めてくれ。これでも最低限の参加で対応しているんだからな」
口を尖らせるレイを見て苦笑いしたルークがそう言い、恐らくそうだろうと思っていたレイは、これ以上ない大きなため息を吐いたのだった。




