協力者か当事者か?
「じゃあ質問だけど、精霊魔法を発動する際に、理由は分からないけど発動しなくて苦労した事は?」
笑ったマークの質問に、首を傾げたレイが真剣に考え出す。
「えっと、少なくとも記憶にある限り、発動そのものに苦労した事って、無い気がする……」
「じゃあ、自分の体調が悪い時や疲れている時でも、楽に発動出来るのってどの属性の精霊魔法だ?」
横からのキムの質問にも、レイは首を傾げつつ考える。
「それも、同じ答えだね。どんな時でも、発動そのものに苦労した事はないと思うね」
無邪気な答えに、三人揃って呆れたようなため息を吐いた。
「まあ、レイルズだもんな」
「そうだな。レイルズだもんな」
「そうですね。レイルズ様ですものね」
顔を見合わせたマークとキムが呆れたようにそう言い、その横ではうんうんと頷いてそう言ったティミーがもう一度ため息を吐いた。
「えっと、よく分からないけど何か馬鹿にされているような気がします」
そんな彼らを見たレイが、拗ねたようにそう言って口を尖らせる。
「違う。感心しているんだよ。普通は、得手不得手があるもんなの!」
「だよなあ。俺だって、得手不得手はある」
「古竜の主と一般人を一緒にしてはいけないんだなあと、感心していたのさ」
「だな。レイルズにはもっと彼でないと出来ないような事を頼むべきだと思う」
「俺も全くの同意見だ。レイルズには、彼にしか出来ない事を頼むべきだな」
「そうですね。僕もそれが良いと思います」
笑ったマークとキムの言葉に続いてそう言ったティミーが、これまたうんうんと頷いている。
「ええ、せっかくだから僕も合成実験の資料作りに参加したかったのに〜〜」
「いや、だからお前はもう参加してるって」
「だよな。さっきも言ったけど俺達の中でお前は、合成魔法の協力者と言うよりも、そもそもの発案者の一人なんだから協力者じゃあなくて当事者だって」
「だよな。お前がいなかったら合成魔法に関する研究は、そもそもこんな風に大勢の人を巻き込む重要な研究にまで発展する事はなかっただろうからさ」
マークとキムの二人が取り組んでいる精霊魔法の合成に関する研究は、皇王様から直々にお褒めの言葉をいただき、最重要項目として軍を上げて協力するよう指示がなされている。
それでなくても、第四部隊の兵士ならほぼ全員が思っている。
今になって自分の知らない魔法に出会えるなんて! と。
「でもまあ、逆にレイルズみたいに得手不得手が無く、どんな精霊魔法でも安定して発動出来る人なんてごく稀なんだから、逆にこいつの資料を一通り作ったらまた他とは違う面白い資料が出来るかもな」
「あはは、確かにそれは言えてるかも! よし、じゃあレイルズには彼単体でいろんな合成魔法の資料を作って貰えばいいな。参考資料として活用させてもらうよ」
「うう、やっぱりなんか馬鹿にされている気がする〜〜」
「いやいや、頼りにしてるぞ我が親友殿!」
「そうだよ。頼りにしてるぞ古竜の主殿!」
大爆笑するマークとキムの言葉に、レイも吹き出し三人揃って大笑いになったのだった。
「いいなあ。僕にもあんな風に身分を超えて、無邪気に笑って戯れあって遊べるような友人がいればいいのに」
大笑いしながらも、じゃあどんな合成魔法の発動をレイにしてもらうのが良いかで話し始めた三人を見て、彼らの後ろに下がったティミーが小さくそう呟いて密かにため息を吐いた。
ティミーの場合、友人付き合いはどうしても貴族の若者に限る。
アルジェント卿のお孫さんであるマシューやフィリス、あるいはゲルハルト侯爵の息子であるライナーやハーネインのようにある程度気心の知れた歳の近い友達もいるが、それでもお互いの家の身分は当たり前の前提としてあるので、身分を超えたレイとマークやキムの付き合い方とはやはりどうしても違う。
大学や精霊魔法訓練所では、ティミーが伯爵家の嫡男である事に加えて年齢的な事もあり、どうしても気軽に彼らのような友達を作れる環境には無いのだ。
今までは、それは仕方のない事だと思っていたし諦めてもいた。
だが、目の前で古竜の主であるレイと対等に話をし、またレイもそれを許し、お互いに遠慮なく親友と呼んで憚らない関係というのは、どうしても身分ありきで付き合うのが前提のティミーにとっては夢のような関係なのだ。
「いいなあ、僕にも、親友と呼べるような友達が一人でもいたらよかったのに……」
寂しそうなごく小さなその呟きは、誰の耳にも届かず消えていった。
『ティミー』
『そんな寂しい事を言うな』
『其方には我がついているぞ』
その時、ティミーの肩に現れた一人のシルフが、ターコイズの声でそう言ったのだ。
「ええ、ゲイル! ちょっと待って。それって、それってラピスがレイルズ様と話をする時に使っているそのままの声を届ける声飛ばしだよね!」
思わず、肩に座ったターコイズの使いのシルフを見ながら大きな声で言うと、驚いたレイ達三人が揃って振り返った。
『うむラピスに教えてもらってな』
『頑張って覚えたのだ』
『我の方から呼びかけた時には』
『これでお互いの声を届けられるようになったぞ』
『ティミーもぜひ覚えてくれ』
『そうすればティミーから呼ばれた時にも』
『お互いの声が届くようになるからな』
笑ったターコイズの得意そうな言葉にレイは目を輝かせて拍手をし、マークとキムは呆気に取られてティミーと肩に座ったシルフを見ていたのだった。




