精霊魔法訓練所にて
「お待たせしました」
「お待たせしました!」
食堂から戻ったレイとティミーが準備をして待っていると、可愛らしいドレスに身を包んだ笑顔のジャスミンとニーカが鞄を持った執事に伴われてやってきた。
「はあい、それじゃあ行こうか」
鞄を手に立ち上がった笑顔のレイの言葉に、ティミーも鞄を手に立ち上がった。
そのままレイ達は厩舎へ向かい、それぞれのラプトルに乗ってからいつもと違って一旦本部の正面玄関側へ出る。
そこにはすでにジャスミンとニーカの為の馬車が用意されていて、二人が乗ったところでレイとティミーが護衛の者達とともに馬車の後ろに着く。
「では、出発いたします」
御者の声が聞こえた後、ゆっくりと進み始めた馬車の速度に合わせて、レイ達もラプトルをゆっくりと進ませたのだった。
「ううん、今日も良いお天気だね」
いつもよりも少しゆっくりラプトルを進ませながら、よく晴れた空を見上げたレイが嬉しそうにそう言って笑う。
「確かに気持ちよく晴れていますね。ちょっと日差しが暑いくらいです」
「少し前まで、寒い寒いって震えていたのにね」
胸元を軽く握って震える振りをするレイを見て、ティミーも同じように震えて見せる。
「寒い時は火蜥蜴達が暖めてくれるからまだマシなんですけど、これからどんどん暑くなってくるから、考えただけでちょっと憂鬱です」
小さなため息を吐いたティミーが、そう言って汗を拭く振りをする。
「確かにそうだね。暑い時ってシルフ達に頼んで風をもらうくらいで、暑さそのものを凌ぐ方法はないもんね。本部の中なら上着を脱ぐ程度の事は出来るけど、外だと迂闊に制服を脱ぐわけにもいかないしね」
苦笑いするレイの言葉に、ティミーも苦笑いしつつため息を吐く。
「僕、寒いのは割と平気なんですけど、実を言うと暑いのがかなり苦手なんですよね。なんかこう……ラプトルに乗っていて、日差しそのものを遮る方法ってないものでしょうかね?」
空を見上げながらのティミーの言葉に、思わずもう一度空を見上げたレイも無言になって考える。
「えっと……鞍上で日差しを遮ろうと思ったら、日傘を差すか馬車みたいな箱の中に入るか……あとはツバの広い帽子を被る、くらいかなあ」
「レイルズ様、それ、どれもラプトルに乗っていたら無理じゃあないですか? まだツバの広い帽子を被って顎紐で固定するのが一番出来そうですが、それも急な横風が吹いたりしたらツバが風を受けて危ないですよ」
思わずと言った様子のティミーの言葉に、レイが堪えきれずに吹き出す。
「あはは、確かにそうだね。でもそれくらいしかないと思うなあ。ううん……まだ一番現実味のあるやり方だと、ラプトルに乗るんじゃあなくて小さめの馬車に乗って、シルフ達とウィンディーネ達にお願いして、冷たい風を馬車の中に吹かせてもらうくらいかなあ」
「ああ、確かにそれが一番現実的で効果がありそうですね。じゃあ、今年の夏にもしも暑すぎて出掛けるのが嫌になる事があれば、それを思い出してやってみます」
「あとは、その馬車に冷たい氷の塊を置いておくとかも効果がありそうじゃない?」
「ああ、確かにそれも良いですね。シルフ達に頼んで氷に向かって風を吹かせて貰えば、馬車の中も少しは冷えるかもしれませんね」
「夏の暑さ対策が出来たね。いざとなったら、僕も氷を積んだ馬車に一緒に乗せてもらおうっと」
笑顔のレイの言葉にティミーも思わず吹き出し、顔を見合わせてから揃ってもう一度吹き出したのだった。
「おはよう。あれ、今日は全員一緒なんだな」
「おはよう。いつもの自習室取ってあるぞ」
精霊魔法訓練所に到着したレイ達は、ラプトルを預けて護衛の者達と別れ、ジャスミンとニーカも一緒に建物の中へ入って行った。
ちょうど自習室から出てきたマークとキムに会い、お礼を言って鞄を自習室に置いたレイ達もそれぞれ自分の参考書を探しに図書室へ向かった。
しかし、図書館の中に入ったところで、真っ白な竜騎士の制服を着たレイに気付いた貴族の若者達が集まってきて口々にお祝いを言い始めた為、司書の先生に図書館内は静かにするようにと注意されてしまい、慌てて皆で図書館から出ていく羽目になったのだった。
結局そのまま貴族の若者達と一緒に自習室へ戻って、そこで改めてレイは顔見知りの者達や貴族の友人達からお祝いの言葉を受けることになったのだった。
出遅れてしまった為にそれに参加し損なった軍部の兵士達や一般出身の者達は、貴族の若者達が図書館に戻ってくるのを見てから、いそいそと一緒に戻ってきたレイの元へ駆け寄り、結局レイはもう一度自習室に戻ってお祝いの言葉を受け取る事になったのだった。
「人気者は大変だな」
「うう、まさかここまで大騒ぎになるとは思わなかったよ」
ようやく解放されたレイが図書館に戻ってきた時にはもうかなりの時間が経っていて、からかうようにマークにそう言われてため息を吐いたレイがそう言って肩を落とした。
「まあ、それだけ竜騎士になるって事は大きい意味を持つんだよ」
女の子達が集めた参考書や問題集をまとめて自習室に運んでやりつつ、キムがそう言って笑う。
「確かにそうだね。でもやっぱり僕は普通がいいなあ」
積み上がった問題集をまとめて抱えたレイも、苦笑いしつつそう言って肩をすくめた。
「何をもって普通というかは大きな問題だな」
こちらも参考書を抱えたマークの大真面目な言葉に、レイ達は揃って吹き出し慌てて口を押さえたのだった。




