今日の予定
「ええ! 今日は精霊魔法訓練所へ行ってもいいの?」
本部の食堂で朝食を食べていたレイは、ルークから聞かされた今日の予定に嬉しさのあまり大きな声でそう言って食べる手を止めた。
周囲にいた兵士達が、突然の大声に何事かと何人も振り返っている。
「はいはい、嬉しいのは分かるけど食堂でそんな大きな声を出すんじゃあないよ。叙任式を終えてからまだ一度も行けていないだろう? せっかくだから教授達にもその姿を見せて挨拶をしておいで」
「ありがとうございます! あ、でも何も予習をしていないけど、元々の授業の予定はどうなっていたんだろう?」
パンを手にしたレイが、今気が付いたと言わんばかりに慌てたようにそう言ってラスティを振り返った。
「確か、天文学と高等数学の授業の予定が入っていたはずです。部屋に戻ったら、すぐに確認しておきます」
「天文学と高等数学。まあ、それなら予習無しでもなんとかなるかな。古典文学とか医学関係の授業だったら、予習無しだと絶対についていけないもんね」
「天文学と高等数学なら大丈夫で、古典文学とか医学関係は予習無しだと駄目? ううん、相変わらず色々おかしい。普通は逆だと思うんだけどなあ」
「だよな。天文学と高等数学を予習無しで大丈夫とか、絶対におかしいって。いや、でも医学関係は、俺も予習無しだと無理だったなあ」
「僕はどれも無理〜〜〜」
ルークとレイの会話を聞いて、若竜三人組が顔を見合わせてそう言いながら苦笑いしている。
「レイルズ様、今日は僕もご一緒させてもらいますね」
「そうなんだね。よろしく!」
そんな三人の横に座ったティミーの言葉に、笑顔のレイが嬉しそうにそう言い手にしていたパンをちぎった。
「今日はジャスミンとニーカも一日訓練所だから、一緒に行くといい」
笑ったルークの言葉に、レイとティミーも笑顔で頷くのだった。
「マーク達やクラウディア達はどうなんだろうね。せっかくだからご一緒したいなあ」
レバーペーストをたっぷりと塗った丸パンにレバーフライを二枚まとめて挟んだそれを齧りながら、レイが小さくそう呟く。
「クラウディア達の予定はちょっと分からないけど、マーク軍曹とキム軍曹なら間違いなく今日はいると思うぞ。
精霊魔法の合成に関する実験の報告会が午後からあるからね。ちなみに今日は俺達三人もご一緒させてもらうよ」
得意そうに笑ったロベリオの言葉に、顔を上げたレイが不思議そうに首を傾げ、少し考えてから納得したように頷いた。
「あ、そっか。ロベリオ達も精霊魔法訓練所の研究生として登録したんだって言っていたね。でもその、精霊魔法の合成に関する実験の報告会って、何ですか?」
不思議そうなレイの質問に答えてくれたのは、若竜三人組ではなく隣に座ったルークだった。
「以前、離宮で開催した本読みの会の時に少し話したのを覚えているか? この春から精霊魔法訓練所の研究生や第四部隊の兵士達の一部に協力してもらって、さまざまな合成魔法の発動実験を軍部や王立大学として正式に開始しているんだ。まず、それぞれの兵士達や生徒達の得意な精霊魔法や不得意な精霊魔法なんかを全て申告してもらった上で、それぞれに指定された合成魔法の実験を行う。その際には、実験の結果や失敗の有無に始まり、当日の本人の体調や、その日の気温や天候なんかも全て記録してもらっているんだ。集められたそれらの資料は、同じく第四部隊の事務方の人達が管理して統計立てて整理してくれている。で、それらの資料を定期的にマーク軍曹とキム軍曹に報告会を通じて届けているんだよ。彼らは、その受け取った資料を参考にして、彼らの考えを加えたいろいろな資料を作って講義に使用したり、時には資料として講義の際に配布してくれたりもするわけだ。二人は、このところ特に忙しくしているみたいだぞ」
「へえ、そんな事になっているんだね。凄い」
目を輝かせるレイに、若竜三人組とティミーも笑顔で胸を張る。
「僕も、毎回ではありませんがその実験に参加していますよ。実験結果を報告する際に使う、自分の得意不得意な精霊魔法やさまざまな個人情報なんかを記入するカードを作るのが少し大変ですが、それがで出来てしまえばあとは指定された合成魔法をするだけなので、気軽に参加出来るんです。今のところ、大きな失敗は一度だけです」
「俺達も、毎回じゃあないけど精霊魔法訓練所へ行った際には実験に参加しているよ。確かに、気軽に参加出来る体制を整えてくれたのは凄いと思うよ。この間見た資料はかなり良く出来ていたからな」
笑ったロベリオの言葉に、レイも目を輝かせながら頷く。
「じゃあ、僕も訓練所へ行ったら教授に詳しい話を聞いてこようっと」
マーク達の研究の役に立てると聞き、やる気満々になっているレイだった。




