帰宅後のそれぞれ
「タキス、嬉しそうだったね」
本部への道を戻りながら、ラプトルに乗って並んで歩くカウリをルーク越しに見たレイがそう言って笑う。
「タキス殿だけじゃあなくて、お二方からも祝福をいただけたからな。有り難い事だ。それに、確かに喜んでいただけたみたいで、俺も嬉しいよ」
「オリヴィエ嬢、可愛かったね。それにしても、赤ちゃんって本当に小さいんだね。初めて見た時のエルは、もっと大きかったよ」
今回はレイも少しだけ抱かせてもらったのだが、腕の中のオリヴィエ嬢のあまりの小ささに、本気で驚いてしまったのだ。
「以前も言ったけど、オリヴィエはかなり小柄らしいんだよ。今の体だと大体平均の四ヶ月齢くらいらしい。大体ひと月遅れだな」
「で、でも大丈夫なんだよね?」
慌てたようなレイの言葉に、苦笑いしたカウリが頷く。
「もちろん、定期的にガンディにも診ていただいた上で大丈夫だと聞いている。体が小さい以外は健康体だって言われているから、まあこれも個性だと思ってはいるんだけど……それでもやっぱり、小さいと言われる度に心配にはなるよ」
困ったようなカウリの言葉を聞いて、隣に並んだルークは何も言わずに心配そうにカウリを見ている。
そろそろ友人達にも子供が産まれている年齢のルークにしてみれば、あのくらいの月齢の赤ちゃんんはそれなりに見慣れている。その上で、同じくらいの月齢の赤ちゃんと比べると、オリヴィエ嬢は明らかに一回り以上は小さく見える。
月齢の平均体重と比べてひと月遅れというのは、嘘ではないのだろう。
「まあ、何も出来ない身としては、健康だというガンディの言葉を信用してお任せするしかないんだから、そう気に病むなって。レイルズみたいに、ある程度大きくなってからぐっと成長する事だってあるんだから、とりあえず特に緊急の問題がないのであれば、今は様子見でいいんじゃあないか?」
笑ったルークの言葉に、不意を打たれたカウリが吹き出す。
「人並み程度には大きくなって欲しいと思っているが、さすがにここまでデカくなる必要はないからそれはやめてくれ」
笑いを無理矢理抑えて顔を上げたカウリの真顔の言葉に、今度はルークとレイが同じく不意を打たれて、揃って思いっきり吹き出したのだった。
無事に本部へ戻った三人は、着たままだった第二部隊の制服からいつもの竜騎士の制服に着替え、カウリとルークは事務所で仕事の残りを時間までに片付け、レイは部屋で竪琴の練習をして過ごした。
少し早めの夕食を食堂で食べたあとは、若竜三人組と一緒に夜会に出る為にお城へ向かったのだった。
「おかえりなさいませ」
「はい、ただいま戻りました」
一方、瑠璃の館へ帰ったタキス達は、アルベルト達の出迎えを受けて館の中へ入っていった。
ひとまず部屋に戻って部屋着に着替えたところで、居間に集まって夕食前のお茶をいただく。
三人の話題は、ほぼ全部がオリヴィエ嬢が可愛かったという話で盛り上がっていた。
お茶のおかわりの準備をしていたアルベルトは、三人の帰りが思ったよりも遅かった理由を理解して密かに安堵していた。
特に連絡もなく帰って来られるであろう予定の時間をかなり過ぎていたので、実は何かあったのかと密かに心配していたのだ。
「では、一息ついたら言っていた楽譜を用意しましょうか。ニコス、申し訳ないのですが私が歌いますので、それを楽譜に書き起こしてもらえますか。私は譜面を少し見る程度なら知っているんですが、一から楽譜を書いた事はないんですよ」
飲んでいたお茶のカップを置いたタキスの言葉に、ニコスが笑顔で頷く。
「ああ、もちろん構わないよ。じゃあ歌詞の書き出しはギードに頼もう。歌ってくれれば、順に書き出していくからさ」
「ありがとうございます。ではよろしくお願いしますね。レイも手伝ってくれるとは言っていましたが、さすがに忙しいあの子の手を煩わせるのは申し訳ないですからね」
笑顔で頷き合っているタキスとニコスを見て、一瞬驚いた顔をしたアルベルトが居住まいを正した。
「失礼致します。タキス様、何かの歌を楽譜に書き起こされるのでしょうか?」
突然の質問に、タキスは笑顔で頷く。
「ええ、そうなんです。ちょっとした大仕事ですよ。実は今日のお墓参りの後、カウリ様のお屋敷にお邪魔させていただいて、奥方様とお嬢様にご挨拶をしてきたんです。もうオリヴィエお嬢様が可愛くて可愛くて、正直言うと帰りたくなかったくらいです。それで、その際に私が知る子守唄や童謡などをカウリ様にお教えする約束をしたんです。エイベルに歌ってあげた子守唄や、あの子の好きだった童謡がいくつもありますのでね。私の記憶が少しでもお役に立てれば嬉しいです」
嬉しそうなタキスのその言葉に、アルベルトも笑顔になる。
「そうでしたか。では恐れながら、こちらの館で楽器の管理を担当している執事にもお手伝いをさせましょう。彼なら楽譜の書き起こしも容易かと思いますので」
「ああ、それは有り難いですね。手は多い方が信頼度は増しますからぜひお願いします」
笑顔のタキスの言葉にニコスも笑顔で頷く。
「では、用意をしておきますのでどうぞごゆっくり」
おかわりのお茶をそれぞれの前に置いたアルベルトは、笑顔でそう言って一礼するとその場を別の執事に任せて一旦下がった。
言った通りに楽器の管理を担当する執事に急ぎ連絡を取り、新しい五線譜の準備とともに、おそらくお使いになるであろう竪琴や笛などの楽器の準備も併せて指示したのだった。




