限定の御印帳
「えっと、あ、ここだね!」
売店を出たところでキョロキョロと周りを見回したレイは、すぐ横の建物に気付いて笑顔になった。
神殿の礼拝堂に入る大きな扉を挟んだ反対側の建物が、その教えられた事務所らしい。
先ほどの売店の三倍くらいはありそうなその建物の扉には、事務所、と書かれた小さな看板が掲げられていて、その下にもう一枚小さな看板があり、御印受付、と書かれていたのだ。
「どこの神殿でも、大抵こんな感じで売店の横に事務所があって、そこで御印の受付をしてくれるぞ」
「そうなんですね。えっと、お城の中にある各神殿の別館や分所でもそうなんですか?」
手にしたまだ新しい御印帳を見ながら、レイがカウリにそう尋ねる。
「城でも大体そうだな。売店の横や並びに事務所か窓口があって、そこで御印の受付をしているよ。それこそ、叙任式当日は長蛇の列だったと思うぞ」
「へえ、あまり気にした事が無かったので気が付きませんでした。今度神殿に参拝した時に確認しておこうっと」
「ちなみに、街の神殿とお城の神殿の別館や分所と街の神殿では、書いてくれる御印がまた違うから、これまた集めたくなるぞ」
笑ったカウリの言葉にレイが目を見開き、ルークとタキス達が揃って吹き出す。
「確かにそうでしたね。私は以前ここに住んでいた頃、アーシアと一緒に何らかの祭事の際に合わせて、お城の神殿へもわざわざお参りに行って御印集めをしましたよ。白の塔に勤めていれば、お城への出入りもほぼ自由でしたからね」
「あはは、それは正しい職権濫用ですね」
笑ったルークの言葉にタキスが吹き出し、レイも堪えきれずに吹き出したのだった。
「懐かしいですね。こんな事、今の今まですっかり忘れていましたよ……今になって、こんな風になんでもない事のように笑って彼女の事やエイベルの事を他人に話せる日がくるなんて……レイ、貴方には本当に感謝しますよ」
小さく笑ったタキスのごく小さなその呟きは、周りにいた誰にも聞かれずにすぐに消えていった。
唯一、それぞれの竜の使いのシルフ達だけがその言葉をに気付き、そのすぐ後にタキスの肩や頭の上に現れ、それぞれに慰めるかのように想いを込めたキスを贈っていたのだった。
「通常のと限定の、両方をお願いします!」
買ったばかりの真新しい御印帳を差し出すレイに、受付にいた年配の神官は笑顔になる。
「かしこまりました。では、こちらが受付の番号になります。無くさないようにしてください」
タキス達も真新しい御印帳を渡して番号札をもらう。
「じゃあ、せっかくだから限定の分だけ紙に書いたのを貰うか」
苦笑いしてそう言ったルークとカウリは、何も渡さずに番号札だけをもらった。
「あれ? ルークとカウリは何を貰うの?」
驚くレイに、二人は笑って貰った番号札を見せた。
「俺達は御印帳は持っているけど、今日はここに持ってきていないだろう? こういう場合は、別の紙に書いてもらうんだ。そのまま持っていてもいいし、後で御印帳に貼り付けるのもありなんだよ」
「へえ、そんなのもあるんですね」
無邪気に感心するレイに、タキス達も苦笑いしている。
「ちなみに、今はもう大丈夫だから限定の御印も直接書いてくれるだろうけど、叙任式当日は限定は別紙に書いたものだけだったりするぞ。頼むと日付だけ入れてくれるやつな」
笑ったカウリの説明に、まだまだ知らない事がいっぱいあるのだとレイは真剣に考えていたのだった。
それからしばらく待って、それぞれ書いて貰った御印帳を指定の金額を払って受け取る。
カウリとルークは、薄紙に挟んだ紙を貰っていた。
「へえ、綺麗に書かれていますね」
流暢な文字で定型の祈りの言葉と祝福の言葉が綴られ、赤と緑色の判が押されている。
限定の方は、また違う祝福の言葉と共に、金色の判が押されていた。
どちらも、端には今日の日付も書かれている。
「日付があれば、いつ来たか分かるから記念になるね」
嬉しそうなレイの言葉に、皆笑顔で頷く。
「じゃあ、俺の屋敷へ戻る途中にある事だし、せっかくだから精霊王の神殿と女神オフィーリアの神殿くらいは立ち寄って行くか? 簡単に参拝して御印を頂くくらいなら、それほど時間もかからないだろうからさ」
預けていたラプトルの手綱を受け取りながら、ふと思いついたようにカウリがそう言って道の方を指差す。
「是非お願いします!」
目を輝かせて即答するレイに、カウリとルークが揃って吹き出す。
「タドラに恨まれそうだな。でもまあ、御印は幾つあってもいいもんな。じゃあ、立ち寄って行くとするか」
笑ってラプトルに飛び乗ったカウリの言葉にルークも笑いながら頷き、それぞれのラプトルに乗った一行は水の神殿を後にゆっくりと一列になって精霊王の神殿へ向かったのだった。
到着した精霊王の神殿と女神オフィーリアの神殿でも、それぞれ定番の御印と限定の両方を書いて貰ったのだが、その際にどちらの神殿でも、レイの叙任式を祝した限定の御印帳が販売されていて、レイは悩みに悩んだ末、どちらの神殿でも限定の御印帳を購入していたのだった。




