将来の目標と進路
「ようこそ。お越しくださいました。レイルズ様!」
到着したゲルハルト公爵の屋敷の門前には、騎士服を着て短剣を装着したライナーが、居並ぶ執事達と共に満面の笑みで待ち構えていた。
「お招きありがとうございます。ええ、ライナーが出迎え役なの?」
ラプトルを止めたレイが笑顔でそう言い、軽々と飛び降りて駆け寄ってきた執事に手綱を渡す。
「それに、その格好。うん、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます!」
確かにまだ幼さは残るが、年齢の割に大柄なライナーにその騎士服はよく似合っている。
「来月から、士官学校に編入する事が正式に決まりました。僕、ずっと騎士になりたくて父上にお願いしていたんです」
今のゲルハルト公爵は、事務方の長として様々な仕事をしている。
なのでレイは、ゲルハルト公爵の息子であるライナーとハーネインは父親の後を継いでお城の事務官になるのだとばかり思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「おお、とうとうお父上を説得したんだな」
「おめでとう。しっかり頑張れよ」
「はい、頑張ります!」
笑ったルークとカウリの言葉に、ライナーがこれまた満面の笑みで大きく頷く。
「お父上を説得、ですか?」
不思議そうなレイの言葉に、ライナーが笑顔で胸を張る。
「最初、軍人になりたいって言った時には父上には大反対されたんです。でも、たくさん勉強して訓練も頑張りました。それで先日、ディレント公爵閣下が手合わせしてくださって、これなら大丈夫だって父上に言ってくださったんです! あの、ルーク様、その際にはお口添えをありがとうございます!」
「別にお礼を言われるような大した事はしていないよ。少し前にたまたま父上に会った時に、ライナーが進路のことで悩んでるって話をしただけだよ」
「では、大した事なくてありがとうございます!」
「何だよそれ」
よく分からない理由をつけてお礼を言うライナーに、レイも思わず吹き出しカウリと顔を見合わせて笑ったのだった。
「ああ、玄関先で何を長々と話をしているんでしょうかね。失礼しました。中へどうぞ!」
我に返ったライナーの言葉にルーク達が揃って吹き出し、困ったように待っていた執事の案内で中へ入っていった。
レイは、笑顔のライナーと並んで歩きながら得意そうなその様子に感心していたのだった。
「いらっしゃい。お待ちしていたよ」
笑顔のゲルハルト公爵夫妻の待つ部屋に案内され、挨拶を交わしてからひとまずソファーに座る。ライナーは嬉しそうにレイの隣に座った。
すぐに、全員に紅茶が用意され、まずは歓談の時間だ。
ここでレイは、初めてライナーが今まで何度も士官学校への入学を希望していた事や、ずっとご両親が反対していた事を知った。
そして、弟のハーネインもまた軍人になりたいと言っているのだと聞き更に驚く事になったのだった。
しかし、ゲルハルト公爵夫妻も子供達の進路希望を聞き最初は反対していたが、今では二人の決意が固い事を理解して応援するようになったのだと聞き、ルーク達と顔を見合わせて安堵のため息を吐いた。
「まあ、基本的にこの国では伝統的に両公爵家で軍事関係と事務方を分けて担当しているから、ライナーとハーネインが軍人の道に進んでくれれば父上も安心だな」
苦笑いするルークの呟きに、レイも納得する。
ルークの父でもあるディレント公爵にはルークよりも一歳年下の嫡男であるユーリ様がいて、とても優秀な方だが体が少し弱いとも聞いている。
それを考えれば、もう一つの公爵家であるゲルハルト公爵家の嫡男であるライナーとその弟のハーネインが、二人揃って軍人になってくれるのは確かに良い事なのだろう。
「大変な事も多いと思うけど、頑張ってね」
笑顔のレイの言葉に、ライナーは満面の笑みで大きく頷いたのだった。