いつもの朝の一幕
『らんらんら〜〜ん』
『ふんふんふ〜〜ん』
『あっちとこっちをぎゅっとして〜〜』
『もぎゅもぎゅするのよ楽しいな〜〜』
『もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ』
『らんらんら〜〜ん』
まだ薄暗い部屋の中、すっかり朝の定番のなった歌を歌いながら、張り切ったシルフ達が先を争うようにしてレイの髪で遊んでいる。
枕に抱きついて熟睡中のレイは、全くの無抵抗だ。
『三つ編み三つ編み楽しいな〜〜』
『もぎゅもぎゅ楽しい』
『らんらんら〜〜ん』
『もぎゅもぎゅいっぱい」
『楽しいな〜〜〜』
『相変わらず、見事なものだな』
レイの枕元に座ったブルーの使いのシルフの言葉に、周りにいたシルフ達がコロコロと笑う。
『主様の髪は大好きなの!』
『ふわふわなの〜〜』
『ふわふわなの〜〜』
『でもでも今は硬いの〜〜』
『いっぱいもぎゅもぎゅしたもんね〜〜!』
『ね〜〜〜〜〜〜〜!』
『まあ、楽しそうで何よりだよ。まあ、まだ従卒の彼が起こしに来るまでもうしばらく時間はあるようだから、我はここで休ませてもらうとしよう』
無邪気なシルフ達の答えに苦笑いしたブルーの使いのシルフは、そう言ってレイが抱きしめている枕にゴロリと横になった。
ちょうど、眠っているレイの鼻先にくっついている状態だ。
『昨夜はちと深酒が過ぎたからな。ちょうど良い、酒精はまだかなり残っておるようなので、一応覚ましておいてやるか』
笑ってそう言い、その場に座り直す。
一瞬で、頭上には多くのシルフ達と光の精霊達が現れてこっちを見ている。
『頼む』
たった一言言った瞬間、頭上にいたシルフ達と光の精霊達が一斉に手を叩いた。
光が一瞬だけ部屋に満ちる。
「ううん……」
眉間に皺を寄せたレイが、小さく唸りながら抱きしめていた枕ごと寝返りを打つ。
『おっと』
その枕に寝転がっていたブルーの使いのシルフが、驚いたようにそう言って慌ててふわりと飛び立つ。
『びっくりした〜〜』
『でも起きないね』
『起きない起きない』
『じゃあもっと遊ぶの〜〜!』
『もっと遊ぶの〜〜!』
嬉々としてそう言ったシルフ達が、また先ほどの続きをする為に編みかけて少し解けた三つ編みを引っ張って編み直し始めた。
『まあ平和で良いさ』
楽しそうなシルフ達を見て笑ったブルーの使いのシルフは、小さくそう呟くともう一度レイの枕の上に降り立ち、そのまままたレイにくっついて眠る振りを始めたのだった。
「レイルズ様、朝練はいかがなさいますか?」
六点鐘の鐘の音が響いてからしばらくして、軽いノックの音の後にラスティが部屋に入ってきた。
『おはよう。レイはまだ熟睡しておるようだぞ』
「ラピス様、おはようございます。昨夜はかなり飲んでおられたようですからね。今朝は皆様、まだ誰も起きていないようですので、もうこのままもうしばらくお休みいただきましょう。まあ、その髪も、解く際にはシルフの皆様方がお手伝いくださるでしょうから、とりあえずはそのままでいいですね。お午前中は事務仕事の予定でしたから。一応、昼食会の予定が入っておりますので、その時には起きていただかないといけないのですがね」
苦笑いしたラスティの言葉に、ブルーの使いのシルフも笑って頷く。
『あい分かった。では、その時までにレイが起きて来なければ、我が叩き起こしてやるとしよう』
「はい、ではその際にはよろしくお願いいたします」
笑顔のラスティは、そう言って一礼するとそのまま静かに部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送ったブルーの使いのシルフは、小さく笑ってからまだ熟睡しているレイの鼻先に、そっと思いを込めたキスを贈ったのだった。




