タキス達の想いと心配
「いやあ、若いって凄えな。午前中だけで全回復してるし」
「確かに。まあ、ラピスが癒しの術を張り切ってかけたからこそなんだろうけど、やっぱり凄えよな」
本日のデザート、ベリーのミニタルトを三個も取ってきたレイを見たカウリとルークは、そう言いながら揃って呆れ顔だ。
「あれ? ルーク、デザートは取らなかったの? 食事は普通に食べていたけど、もしかしてどこか具合でも悪いの?」
二人の前に、カナエ草のお茶しか置かれていないのを見て、レイが驚いたように二人を見る。
カウリは甘いお菓子はほとんど取らないからお茶だけなのはわかるが、ルークは甘い物好きなのにデザートを取ってきていないのは意外だ。
「いやいや、いつも通りだよ。それ、前に食った事があるんだけどかなり甘いんだよ。食べようかと思ったんだけど、食後にそれ一個は多すぎるからさ」
レイに心配そうな目で見られて、ルークが苦笑いしながら首を振る。
「じゃあこれ、一つを半分こする? 実を言うと、三個目はちょっと多かったかなって思っていたの」
無邪気な提案に、ルークが吹き出す。
「あはは、そりゃあ魅力的な提案をありがとうな。じゃあ、少しだけ分けてもらおうかな」
「うん、じゃあお皿を取ってくるね!」
笑顔でそう言ったレイは、ミニタルトのお皿を自分の席に置くと、急いでお皿を取りに走っていった。
「ああ、相変わらず元気だねえ」
自分でお皿を取りに行くつもりで立ち上がりかけたルークが、もう一度小さく吹き出してから席につく。
「確かに元気だな。白い制服になってちょっとは大人びたかと思ったけど、ああいうところはそのまんまだな」
「あはは、確かにそうかもな」
空のお皿とフォークを手にすぐに戻ってきたレイが席につき、自分のフォークでタルトを器用に半分にするのをルークは笑顔で見つめていたのだった。
「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」
朝練の見学を終えてすぐに瑠璃の館へ戻り、出迎えたアルベルトの言葉に馬車から降りてきたタキス達三人は、揃ってもうこれ以上ないくらいの笑顔になった。
「もうどの戦いも、本当に、本当に素晴らしかったですよ。息をするのも忘れて見入ってしまうほどでした。急な無理を言ったのに、完璧に準備を整えてくださり心から感謝します」
目を輝かせたタキスが、そう言ってアルベルトの手を取る。
「こ、これは過分なお言葉をいただき恐れ入ります。それが我らの務めなれど、お喜びいただけて私も嬉しゅうございます」
にっこりと笑ったアルベルトの言葉に、もう一度笑顔でお礼を言うタキスだった。
一旦部屋に戻って着替えた三人は、ここでようやく用意された朝食を食べる事が出来た。
「はあ、感動のあまり忘れていましたが、確かにまだ朝食を食べていませんでしたね。これを見たら、一気にお腹が空いてきました」
「確かに腹は減っているな。今朝は普段よりもかなり早起きだったし、向こうで頂いたのは、お茶と軽食だけだったからな」
燻製肉を切り分けたタキスがしみじみとそう言い、同じ事を思っていたニコスもパンを手に何度も頷いていた。
「確かにそうだな。緊急事態でもないのに、腹が減っていた事に今の今まで気付きもせなんだとは、我ながら驚きじゃわい」
何があろうともしっかり食事をする事を忘れないギードの呟きに、タキスとニコスも揃って苦笑いをしながら何度も頷いていたのだった。
「いやあ、それにしても本当にレイの成長っぷりには感動したよ。多少の配慮はされていただろうけど、まさかのヴィゴ様に勝つとはな。あれには本気で驚いたよ」
食後の紅茶を飲みながらの、ニコスのしみじみとした呟きにギードも笑って頷く。
「うむ、確かにどれ一つとっても見事な戦いぶりであったな。しかも、まさかワシが作った赤樫の金剛棒を叩き折るとは、驚くより先に、呆れて声も出んかったわい」
そう言って呆れたように笑いながらも、ギードはとても嬉しそうな顔をしている。
「しかも、三回目だって言っていたな」
「ああ、確かにそう言っていましたね。遠征訓練の時だったとか」
ニコスとタキスの言葉に、ギードが吹き出す。
「その辺りの話も、また詳しく聞きたいもんじゃな」
「どうだろうな。そういった話は軍の機密事項にも関わってくるだろうから、逆にその辺りの詳しい事は、迂闊には聞かない方がいいと思うぞ。部外者である俺達には、話してもいい事と絶対に話してはいけない事があるからな」
最後は真顔になったニコスの言葉に、一瞬ギードとタキスの食べている手が止まる。
「成る程。その辺りは確かに軍の機密事項に関わる可能性があるな。では、これは聞かぬようにしよう」
「お分かりいただけたようで安心したよ。まあ、俺も軍の機密事項に関してはそこまで詳しくは知らないけど、例え訓練であろうと、どの部隊がいつ何処にいた、みたいな話は迂闊には聞かない方が良いと思うぞ」
真顔のニコスの言葉に、改めてレイの置かれた立場と背負う責任の重さを考えて、感動しつつも密かに心配する三人だった。