マイリーとの戦い!
「参った! お見事!」
一回転してから起き上がって両手を上げたカウリの言葉に、訓練所はまたしても大歓声に包まれた。
「レイルズ様、すげえ!」
「うわあ、ヴィゴ様に続きカウリ様にまで勝ったぞ!」
「凄すぎるよ!」
「格好良い〜〜〜!」
「すっげえすっげえ!」
大興奮した兵士達が口々にそう言って、笑顔でカウリと話をしているレイの事を目をキラキラに輝かせて見つめている。
仲間の兵士達と一緒に訓練の手を止めてレイの戦いを見学していたマークとキムは、レイの予想以上の大健闘に揃って自分の棒を持ったまま、驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた。
「うわあ、あいつ……普段はあんなだけど、実はすげえ奴だったんだな」
「だよなあ。普段はなんて言うか……もちろん頼り甲斐はあるんだけど、無邪気で可愛い弟分って感じだったのに……」
「竜騎士隊の方々を相手にあれだけの大激闘を繰り広げて、ここまで連勝で残るはマイリー様とアルス皇子殿下だけって……」
「凄すぎる……」
「どれだけ強くなるんだよ……」
「だよなあ……いくら何でも、強くなりすぎだって……」
レイを見つめたまま瞬きも忘れて呆然と呟く二人の言葉に、普段のレイルズ様がどれだけ無邪気で可愛いかを思い出した周囲の兵士達は、同意するかのように何度も頷きつつもう笑いを堪えるのに必死なっていたのだった。
そして、壁際に並んで立ってレイの戦いを見学していたタキス達は、予想以上の大激闘の連続にただただ見惚れていた。
「レイ……本当に強くなったんだな。もう俺なんか、足元にも及ばないよ。ああ……まだ興奮で体が震えている」
ニコスが呆然と呟きながら、無意識に両手で自分の体を抱きしめるようにして感動に震えている手で何度も腕をさすっていた。
「ああ、本当にその通りだ。強くなったのだな、レイは……それにしてもあの赤樫の金剛棒をへし折るとは、いやあ、本当にとんでもないな……また……また、新しい金剛棒を作ってやらないと、な……」
レイを見つめたまま瞬きもしないギードが、こちらも呆然としたままそう呟く。
しかしその二人の目には、もう今にもこぼれ落ちそうなくらいに大粒の涙があふれてきている。
そしてその隣で、両手を祈るかのように口元で握りしめたタキスは、もう流れる涙を隠そうともせずにレイを見つめたまま号泣していた。
「レイ……レイ……レイ……」
泣いているタキスの口からは、ただただレイの名前が連呼されていたのだった。
「いやあ、お見事だったね。じゃあ次は俺だな。得物はこれで良いかい?」
まだ興奮冷めやらぬ兵士達をチラリと横目で見たマイリーが、二対のトンファーを手に笑顔で進み出てきた。
「ええ、どうしようかなあ」
トンファーを受け取りつつも困ったように笑ったレイは、先ほどよりもさらに震えが大きくなった自分の腕を見た。
指先は、自分でも面白いくらいにプルプルと震えている。
「以前カウリも言ってましたけど冗談抜きでもうほぼ握力が無くなっているから、どう考えてもここが限界なんです……マイリーの不戦勝でいいと思うんですけど?」
「ええ、せっかくここまで待ったんだから、お相手してくれよ」
不戦勝を提案するレイに、わざとらしくため息を吐いたマイリーがトンファーを手に握りレイを見る。
「本当にやるんですか? 僕、本当にもう限界なでんですけど!」
定位置にレイを押しやったマイリーが向かい合って立つ。
「ああ、もう。どうなっても知りませんからね! よろしくお願いします!」
ここまできたら、レイだって全員と戦いたいと思うし勝ちたいと思う。
トンファーを手に構えたマイリーと向き合い一礼して挨拶したレイは、まだ震える手でそれでもトンファーを握りしめた。
「いきます!」
一つ軽く息を吸い込んだレイは、そう叫んで一気に前に出た。
握力はもうとうに限界を超えている。となれば、短期決戦で打ち勝つしかない。
マイリーが振りかぶったトンファーを上から叩きつけてくるのが見え、咄嗟に腰を低くしたレイが下からトンファーを力一杯振り上げる。
レイの頭上で甲高い音を立ててトンファーが交差する。
そこからマイリーの懐に飛び込むつもりだったが、しかし、体の限界は本人のやる気だけではもうどうしようもなかったようで、交差した直後にレイの持っていたトンファーは弾かれて勢いよく真上に吹っ飛び、本人は煽りを喰らってそのまま仰向けに倒れた。
咄嗟に受け身をとって転がり起き上がったが、もう一回そのまま仰向けに倒れてしまった。
完全に目が回っていて、見慣れた訓練所の天井がゆっくりと回転している。
倒れた体は、まるで水の上にいるかのように大きく揺れている。
「もう無理です……参りました〜〜〜!」
レイの手から吹っ飛んだトンファーが派手な音を立てて落ちてきて転がり、倒れたレイのすぐ横に転がってきて止まる。
「まあ、限界かな」
倒れたまま起き上がってこないレイの敗北宣言を受け、構えを解いたマイリーが苦笑いしながらレイのそばに駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うう、全然大丈夫じゃあないです。世界が回ってます〜〜」
差し出されたマイリーの腕に縋りつつ、情けない声でそう言ったレイの言葉に訓練所は大きくどよめき、それから大きな拍手と大歓声が沸き上がったのだった。