二次会とお疲れ様
「はあ、やっと終わった〜〜」
夜会の終了が告げられたところで、レイは密かにそう呟いてこっそりため息を吐いた。
「お疲れさん。じゃあ、このまま二次会の会場へいくぞ」
「はあい、よろしくお願いしま〜す」
笑ったルークに背中を叩かれ、慌てて顔を上げる。
男性ばかりの二次会だったカウリの時の事を思い出して、苦笑いしつつ元気に返事をしたレイだった。
無事に祝賀会が終わったところでそのまま別室へと移動となったのだが、ここでいつもとは違う展開になった。
前回のカウリの時には、香りを楽しむ会の倶楽部が主催する二次会が別室にて行われた。
聞けばこれも竜騎士隊の伝統の一つらしく、二次会は本人が参加している倶楽部の一つが主催して、それ以外の同じく本人が参加している倶楽部が協賛する形で開催される。
参加が必須の青年会や鱗の会と違い、本人が希望して参加する倶楽部は、その人の趣味や興味のある事が如実に現れる。
それなりの年齢になれば、仕事関係とはまた違った人脈を作る意味で自分の趣味とは全く違う倶楽部に意図して参加する者も多いが、まだ若いレイの場合はほぼ自分の趣味と興味のある事に偏った倶楽部ばかりだ。
もちろん、祝賀会では当の本人とゆっくり話が出来なかったのを二次会で補う部分も大きいので、大抵の場合はワインや葉巻を手に、基本的に男性のみの参加で行われる。
しかし、レイの参加している倶楽部の一つに刺繍の花束倶楽部がある。これは数ある刺繍の倶楽部の中でも最大手と言っていい倶楽部だ。
ガルクールのようにここに参加している男性もいない訳ではないが、やはり参加者は圧倒的に女性が多い。
その為、本来であれば男性のみで開催されるこの二次会の開催に当たって、刺繍の花束倶楽部から正式な申し入れがあったのだ。
レイルズ様が参加してくださっている我が倶楽部も二次会に参加したい、と。
通常の夜会の場合、二次会では男女別に分かれて開催するのがほぼ暗黙の了解だったのだが、確かにレイが参加している大手の倶楽部である刺繍の花束倶楽部だけを二次会に参加させないのは不公平だろう。
その為、最初はいつものように男女別々の部屋で開催してレイに交互に顔を出してもらう案も出たのだが、さすがにそれはレイ本人の負担が大き過ぎるとの意見が多く出て却下された。
それで倶楽部の代表者達の間でどうするかを相談した結果、普段の二次会が行われる部屋よりもかなり広めのやや細長い部屋が用意され、部屋の手前半分には男性達が、部屋の奥側部分には女性達がそれぞれ集まり、中央部分に置かれた歓談場所となるソファーにレイが座って、左右から集まってくる様々な人達と自由に話が出来るようにしたのだ。
おかげで普段の二次会とはかなり違った顔ぶれでの開催となっている。
とはいえ、参加しているのは当然だが全員が貴族の大人達だ。
しっかりとその辺りの様々な裏事情も心得ていて、それなりに和やかな雰囲気の中で男女混合での開催となったのだった。
レイはゲルハルト公爵が勧めてくれる貴腐ワインを片手に終始笑顔で来てくれた人達と挨拶を交わし、途中では竪琴の会の人達と一緒に見事な竪琴の演奏を披露したりもした。
また、宮廷音楽科でありゲルハルト侯爵閣下主催のドールハウス愛好会の副代表を務めるウーティス卿とも少しだがゆっくりと話をする事が出来て、レイの知らない様々な地方の音楽や珍しい楽器についても教えてもらい、レイは時間を忘れて興味津々でウーティス卿の話を聞いていたのだった。
「はあ、ただいま戻りました〜〜」
二次会を終えたレイが本部の部屋に戻ってきたのは、かなり遅い時間になってからだった。
「お疲れ様でした。おやおや、かなりお酒をお召し上がりになったようですね。湯の準備は出来ておりますが、大丈夫ですか?」
かなり赤い顔になった若干足元がふらついているレイを見て、慌てたラスティがそう言ってレイを支えてくれる。
「大丈夫だよ〜ゲルハルト公爵閣下だけじゃあなくて、皆さんが次々に勧めてくださる貴腐ワインがどれも美味しくて、ちょっとだけ飲みすぎました〜〜」
ラスティに縋りついてケラケラと笑うレイを見て、こちらも若干赤い顔をしたルークが笑いながら背中を叩く。
「まあ、大丈夫だと思うけど、一応気をつけてやってくれ。ちなみに、明日は朝練で総当たり戦だからな。早めに休むように!」
「はい! 了解です!」
笑ったルークの言葉に、その場に直立したレイが敬礼しながらそう答える。とは言え、若干フラフラしながらだったので、いつものように格好はついていない。
「レイルズ様。では、部屋に戻りましょう。では、失礼します」
自分に縋り付いてニコニコと笑っているレイの腕を軽く叩き、ルークに一礼してからそのままレイを引っ張るようにして部屋に下がる。
それを笑顔で見送ったルーク達も、それぞれの従卒達と一緒に自分の部屋へと戻って行ったのだった。
『おやおや、さすがに飲み過ぎのようだな。これは明日に残らぬよう、レイが眠った後で酔いを覚ましておいてやるとしよう。明日の朝練での総当たりの勝ち抜き戦で、レイがどこまで勝てるかは別にして、大切な森の家族達が見ている前で、あまりみっともないところを見せるわけにはいかぬからな』
ラスティの手を借りて湯を使っているレイを見たブルーの使いのシルフは、呆れたように笑いながら小さくそう呟いた。
その隣では、ニコスのシルフ達も揃って苦笑いしながらうんうんと頷いていたのだった。