戦いと謝罪
「準決勝第一試合! ラングレイ・キーナ、レイルズ・グレアム両名、前へ!」
司会役の兵士の声に、それぞれラプトルの手綱を引いた二人が指定の位置へと進み出てくる。
「よし、行くよレイド!」
小さく深呼吸をしたレイが、手にしていた兜を被ってレイドに飛び乗る。
「レイルズ様、ご武運を」
即座に駆け寄ってきてくれたラスティから、先ほどと同じように槍を受け取る。
「うん、見ていてね」
心配そうなラスティに兜の面頬を上げて笑顔を見せたレイは、軽く頷いてすぐに面頬を下ろした。
そして、改めて自分を向かい合う位置についた対戦相手を見た。
相手のラプトルはやや興奮気味のようで、何度も地面を後ろ脚で引っ掻くようにして頭も上下させている。
対するレイドは、平然としていて暴れる様子は全くない。
「よろしくね、レイド」
右手で槍を構えつつ小さな声でそう言うと、まるで頷くかのように一度だけ軽く頭を上下させた。
それを見て小さく笑ったレイは、もう一度深呼吸をしてからしっかりと身構えた。
今度の相手は、間違いなく強い。
先ほどの相手とは違って構えに隙がなく、それどころか立ち上る闘志が見えるかのようだ。
だが、レイに気負いはない。相手が誰であれ、自分がする事は同じだ。
「始め!」
審判役の士官の号令一下、二人の乗るラプトルは弾かれたかのように一気に走り出す。
交差した瞬間、二人が同時にラプトルの背から落ちる。
悲鳴のような声が観覧席から上がる。
「くっ……」
落下の衝撃に頭を軽く振ったレイはそのまま起きあがろうとして果たせず、まだ手にしたままだった槍を必死になって地面に突き立て、それにすがるようにして何とか体を起こした。
そのまま地面に突き立てた槍に体重をかけつつ膝をついてからしっかりと体を起こし、そのままゆっくりと立ち上がる。
見れば、倒れた相手は同じように地面に突き立てた槍にすがって上半身を起こしてはいるが、槍はかなり斜めになっているし、そもそもグラグラと頭がふらついていてまだ立ち上がる様子はない。
「勝者、レイルズ!」
完全に立ち上がったレイが背筋を伸ばして直立したところで、審判役の士官の声が響く。
レイの勝利を宣言する声に、静まり返っていた観覧席から一気に歓声が上がる。
「そんなはずがあるか!」
しかし大歓声の中、膝をついたままのラングレイの叫ぶような声に場内が一気に静まり返る。
「ラングレイ・キーナ。今の言葉の真意は?」
真顔になった審判役の士官の声に膝をついたまま兜の面頬を上げたラングレイは、自分を呆然と見ているレイを睨みつけた。
「古竜が助けたに決まっている! もう一度戦え!」
言いがかりも甚だしいその叫びに、場内からは呆れたような声があちこちから上がる。
「ただ今の対決の最中、精霊達の動きに異変は一切ありませんでした」
「同じく、精霊達の動きに異変はありませんでした」
「同じく、精霊達の動きに異変はありませんでした」
「同じく、精霊達の動きに異変はありませんでした」
槍比べの対戦の場を四角く区切り、取り囲むようにその四隅に配置された椅子に座っていた第四部隊の士官達が、口々にそう言って白い旗を掲げる。
彼らは四人がかりで対戦の場に結界を張って見張っている。その為、結界内部で精霊を使った術を使えば彼らには分かるのだ。
この中で使えるのは、唯一、伝言の術のみ。
大抵の場合、届けられるのは身内や親しい友人からの一方的な激励の言葉などで、その程度は見逃してもらえるが、それら全ては結界を張っている四人の士官達に聞かれている。
ちなみに、先ほど対戦前にレイとブルーが伝言の術を使ってやりとりしていた会話も、当然だが彼らには聞かれている。
もちろんブルーは聞かれている事を知っているが、別に聞かれたところで問題は無いと思い特に邪魔する事もなく無視している。
「確かに、精霊達の動きに異変はありませんでした。そうだよな、フレア」
そして、舞台上で戦いを見守っていた竜騎士を代表して、アルス皇子がそう言って右手を挙げる。
『今の対戦の間ラピスは何もしておらぬし』
『精霊達も大人しく見ていただけだ』
『負けた腹いせにしても言いがかりも甚だしい』
『恥を知れ!』
アルス皇子の頭上に現れた大きな伝言のシルフの言葉は、静まり返った会場に大きく響いた。
一瞬の沈黙の後、場内が騒めき小さな笑い声や呆れたようなため息があちこちから上がった。
「えっと……」
兜を取り、地面に突き立てた槍にその兜を引っ掛けたレイは、戸惑うようにそう呟きつつまだ地面に膝をついたままこちらを睨みつけているラングレイを見た。
「立てますか?」
そのまま駆け寄り、そう言って右手を差し出す。
「お、お前……」
呆然と差し出された右手を見たラングレイが、小さな声でそう呟く。
「大丈夫ですか? もしやどこか痛めましたか?」
どこか痛めていて立てないのだろうか。心配になってそう尋ねると、大きなため息を吐いたラングレイはゆっくりと差し出したレイの右手を握って立ち上がった。
当然、レイはそれに合わせて右手を引き彼が立ち上がるのを助けてやる。
手を離して向かい合わせに立つと、レイの方が少しだけ大きくはあるが視線の高さはほぼ同じ。
この視線の高さはヴィゴと向かい合った時くらいで、マイリーでもやや下がるのでなかなかに新鮮だ。
思わず笑顔になったレイを、ラングレイが呆れたように見返す。
「この状況のどこに、笑う要素があるんだよ」
呆れたようにそう言われて、目を瞬かせるレイ。
「えっと、普段僕と同じ高さの視線ってヴィゴぐらいしかいないから、ちょっと新鮮だなって思っただけです。気を悪くしたらごめんなさい」
慌てたようなその言葉に、ラングレイが小さく吹き出す。
「何だよそれ」
思わずと言った風にそう呟いたラングレイは、大きなため息を吐いてからもう一度レイを見て、その場に直立した。
「ちょっと頭に血が上っていて大変な失礼をしました。前言を撤回してお詫びします」
そう言って深々と頭を下げる。
「えっと、はい、お詫びを受け入れます……でいいんだっけ?」
戸惑うようなその呟きに、もう一度小さく吹き出すラングレイ。
「詫びを受け入れてくれて感謝します。最後の一戦、頑張ってください」
苦笑いしつつそう言って右手を差し出され、今度は満面の笑みになったレイがその右手を握り返した。
どうなる事かと見ていた会場からは、握手をする二人を見て大きな歓声と拍手が湧き上がったのだった。




