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少女達とティミー

『嘘言わないの!』

『絶対に今夜もベッドに入ってべそべそ泣くくせに!』

「あらあら、ディアったらまた凹んでるの?」

「もうディアったら! あれだけ愛されていて何が不安なのよ」

「「ねえ!」」

 伝言のシルフ達が伝えてくれるペリエルの言葉に、ニーカとジャスミンが呆れたようにそう言って揃って頷く。

 少し離れた別のソファーに座っていたティミーが、それを聞いて必死になって笑うのを堪えていた。



『だって……』

 二人の言葉に、可愛らしい悲鳴を上げていたクラウディアと笑ったペリエルの様子をシルフ達が伝えていてくれたのだが、落ち着いたところで泣きそうな様子のクラウディアがそう言い、横でペリエルが大きなため息を吐く様子までまたシルフ達が伝えてくれる。

「ねえディア、そんな事を貴方が言ってるって知ったら、きっとレイルズは悲しむと思うわよ」

 ジャスミンの言葉に、ニーカも真顔で頷く。

『わかってるわ』

『これは今だけ』

『次にレイに会う時には』

『ちゃんと笑顔でおめでとうって言うから』

『今だけよ』

『弱音を吐くのは今だけ』

 自分に言い聞かせるようなクラウディアの言葉に、顔を見合わせたジャスミンとニーカが揃って苦笑いしながら頷く。

「そっか、それなら仕方がないわね」

「気が済むまで愚痴でも弱音でも好きなだけ言えばいいわ」

「全部私達が聞いてあげるからね」

「もちろん、ここから先にはどこにも漏れないから安心してね!」

『うんありがとうね』

 クラウディアの言葉に、今度はティミーも加わって皆で揃って笑い合った。



『ところで一つ聞いてもいい?』

「うん、どうしたの?」

 笑いが収まったところで、並んでいたシルフ達が少し改まった様子のクラウディアの言葉を伝えてくれ、驚いたジャスミンがシルフ達を覗き込む、

『今三人とも本部にいるのよね?』

『どうして貴方達はレイの叙任式の見学に行っていないの?』

『巫女である私達とは違って』

『貴方達は別に外出を禁じられているわけじゃあないでしょう?』

「ああ、それね……」

 困ったようなジャスミンの言葉に、ニーカが大きなため息を吐いた。

「あのね、本当なら私達もレイルズの叙任式を観覧席の特別席から見学させてもらう予定だったの。でもね……」

『でも? 何かあったの?』

「うん、実は出かける直前に私とジャスミンが揃って酷い貧血で立ちくらみをおこしてね。ハン先生、ええと、竜騎士隊専任のお医者様から、二人揃って安静にしているようにって言われて外出禁止を言い渡されちゃったの。実を言うと、ニーカはまだ休憩室のソファーで横になっているわ。それで、アルジェント卿のお孫さん達のところへ行って叙任式を見学する予定だったティミーまで、心配して出掛けるのをやめて一緒にいてくれているの」

『ええ! 貧血で立ちくらみって大丈夫なの?』

 貧血は竜の主にとっては気をつけなければいけない事の代表だ。あの立派な体格のレイでも、何度か貧血で立てなかった事があると言っていた程なのだ。

「うん大丈夫だから心配しないで。ちょっと……今回はね、ほら、毎月あるアレと重なっちゃったの」

 驚くクラウディアだったが、言いにくそうなその言葉に納得する。

 女性である以上仕方のない事だが、毎月嫌でも訪れる月のものの時には、健康体のクラウディアでも貧血がちになる事がある。

 巫女の中には、体調を崩したり酷い腹痛で寝込む子もいるほどだ。

 竜の主である彼女達なら、そんな時の貧血の度合いはさらに酷くなるだろう。

『そうだったのね』

『じゃあ無理せずゆっくり休んでね』

「うん、レイルズの叙任式をこの目で見られなかったのは残念だけど、実を言うとルチルとクロサイトが寄越してくれるシルフ達が逐一どんな様子か報告してくれているから、実は意外と状況がわかっていたりするのよ」

 ジャスミンの言葉に、ニーカとティミーが揃って吹き出す。

 実を言うと、今現在も伝言のシルフ達とは別にテーブルの上には大勢のシルフ達が並んでいて、叙任式の様子を詳しく再現してくれているのだ。

 巨大なブルーに至っては、古代種のシルフ達が十人がかりで、文字通り体を張って尻尾の様子まで再現してくれている。

「ああ、そろそろ次の槍比べの準備に入るみたいだね。これはカウリ様も参加なさるから、どうなるのかわからなくて、僕も、期待と心配が半分ずつって感じですね」

 ここで初めて、ティミーが会話に参加してきた。

『槍比べって話には聞いた事があるけど』

『どんな風なの?』

『持っている槍の長さを比べるとかですか?』

 実際の戦いの現場を知らない無邪気なクラウディアの質問に、ジャスミンとニーカも揃って首を傾げている。

 もちろんペリエルも興味津々で話を聞いているが槍比べの言葉自体初めて聞いたほどなので答えられるはずもない。

 唯一、この中では槍比べを知っているティミーが、クラウディアの質問に笑って身を乗り出すようにして伝言のシルフ達を覗き込んだ。

「あのね。槍比べって要するにラプトルに乗った状態で槍と専用の盾をお互いに構えて向き合い、同時にラプトルを走らせて交差するんだ。その際に、槍の穂先が先に届いた方が相手を叩き落とすから、それで勝者が決まる。もちろん、槍を持つ本人も、それからラプトルにも危険が無いようにそれぞれしっかりした鎧を装着している。でも、すごい勢いで走るラプトルの上から落ちるわけだから、まあ、絶対に怪我をしないってわけじゃあない。怪我をして立ち上がれずに、担架で運ばれる方だっているくらいだからね」

 その説明に少女達が揃って悲鳴を上げる。

「槍比べは勝ち抜き戦だから、当然勝てばまた次の相手と同じようにして戦う。今回は、レイルズ様とカウリ様を含めて参加するのは全部で八名だって聞いているから、最初は四組、次に二組、最後に残った二人が戦って、盾の勇者と槍の勇者が決まるんだ。ちなみに、レイルズ様とカウリ様は、組み合わせでは最後まで当たらないように配慮されているって聞いたよ」

 この辺りの感覚は、男の子と女の子ではかなり違うらしく、得意げに説明するティミーの言葉に少女達は揃って顔色を失いお互いにすがるようにして手を取り合っている。

『レ、レイルズは大丈夫よね!』

『彼には蒼竜様がついておられるんですもの!』

「ええと、これには精霊達や竜の加勢は禁止されているから、さすがにラピスも手は出せないと思うよ。万一竜が手を貸したり精霊達の力を借りた事が発覚したら、当然本人は反則負けになるからね」

 困ったようなティミーの説明に手を取り合っていた少女達が、揃って甲高い悲鳴を上げたのだった。

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