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ブルーの誓い

「おめでとうレイ。なかなかに堂々たる騎士様っぷりであったぞ」

 大きくて長い首を伸ばして舞台を覗き込むようにしたブルーが、目を細めながらそう言ってレイの背中にゆっくりと自らの鼻先を押し付けた。

「うん、ありがとうねブルー。すっごく緊張したけど、なんとか無事に失敗もなく終われたよ」

 嬉しそうに笑ってそう言ったレイは、皆が呆れたように見つめる中、両手を広げてブルーの鼻先に力一杯抱きついた。



「皇王よ。良い機会故、我からも一言。良いだろうか」

 レイが抱きついていた手を離したところで、笑顔で何も言わずに自分達を見つめていた皇王に向かってブルーが静かな声でそう言った。

 しかし、その声は会場にいた全ての人の耳に届いていて、ざわめいていた会場が一気に静まり返った。

 舞台から退場しようとしていた竜騎士隊の皆も、何事かと足を止めて即座に整列し直す。

「伺おう。ラピスラズリ。この国の王として、古竜からの言葉、心して聞かせて頂く」

 真剣な顔で居住まいを正した皇王が、そう答えてブルーを見上げる。

 そんな皇王を見下ろしたブルーは、ゆっくりと頷くと少し顔を上げて舞台の上に並んだ竜騎士達と、今日新たに叙任を受けた新人騎士達を見た。

 それから観覧席に座っている貴族達、自分の背後に整列している兵士達を見てから改めて皇王を見た。

「我はここに来るまで、人間など信用ならぬ、碌でもない存在だと思っていた。平気で相手を裏切り、己の欲の為に他者を踏みつけ傷つける事を厭わぬ愚か者だとな」

「耳が痛い。確かに人の中にはそのような考えを持つ者もいるだろう。それ自体は否定はせぬよ。だが、願わくば全ての人間がそうではない事をラピスには知ってもらいたいと、心から願うよ」

 苦笑いした皇王は、しかしそう言って臆する事なくブルーを見上げている。

「うむ。我がレイと出会い彼と共にここへ来て以降、其方達は我に、人の子のまた違う一面を見せてくれた。今、其方が言ったようにな。今のレイの周りにいる人達は、少なくとも我が以前知っていた愚かな人の子とは違い、信用に足る者達のようだ。我の知識の一部を与えても良いと思えるくらいにはな」

 ゆっくりと話すブルーの言葉に、会場が静かにざわめく。

「そう言ってもらえる事に、心から感謝を」

 笑顔になった皇王様のその言葉に、突然話し始めたブルーを呆然と見ていたレイも笑顔になる。

「それ故、我もここに宣誓しよう。其方達が誠実である限り、我は主と共にこの地にあり、其方達とこの国を守る盾となろう。精霊王に感謝と祝福を」

「精霊王に感謝と祝福を。ラピスラズリの誓い。このオルサム・ダード・ドラゴニアが確かに預かった。其方の誓いに相応しい人になれるよう、私もまた日々研鑽を積み、誠実であるよう努める事をここに誓わせてもらおう」

「其方の誓い、確かに預かった。では、ここでの日々がこれからもずっと良きものとなるよう、お互いに頑張るとしよう」

 最後は面白がるように笑ったブルーの言葉に、陛下も笑顔で大きく頷き、会場は大きな拍手に包まれたのだった。



 拍手が収まったところで陛下自ら式典の終了を宣言して、ここで叙任式はひとまず終了となった。

 ブルーはレイをその場に残したままゆっくりと上昇して、会場の上空に大きく翼を広げた状態で留まった。

 特等席で、これから始まるレイの戦いを見守るためだ。

 整列していた兵士達は、号令一下そのまま広場奥側、ちょうど貴族達の観覧席があるのとは反対側まで下がりそこで改めて整列し直した。



「はあ。さてと、それじゃあ行って来ますわ」

 アルス皇子を先頭にした竜騎士達は、槍比べの際には貴族側の観覧席に設けられた特別席へ移動するのだが、舞台から降りたところで大きなため息を吐いたカウリがそう言い、駆け寄ってきた案内役の第二部隊の兵士と一緒に列から離れた。

「ああ、健闘を期待しているよ。でも、怪我だけはしないようにね」

「うい〜〜〜っす。まあ、死なない程度に頑張ってきますわ」

 笑ったアルス皇子の言葉に、カウリが気の抜けた返事を返してひらひらと手を振ってそのまま案内役の兵士と一緒に歩いて行く。

「相変わらずだねえ」

「さて、どうなる事やら」

 その後ろ姿を見送ったアルス皇子とマイリーが、苦笑いしている。

「決勝戦で、レイ対カウリの戦いが見られれば最高なんだけどね」

「うん、僕もそれを期待しているんだけど、どうなるだろうね」

 ユージンとタドラも、カウリの後ろ姿を見送りながらそう言って笑っている。

「どうだろうなあ。今回の槍比べで間違いなく一番の強敵なのが、俺の友人の弟でラングレイってやつ。レイルズほどじゃあないけど相当な大柄で体格も良くて腕も長い。でもって格闘術と騎竜の扱いでは他の追随を許さない程の腕前だって聞く。今回の槍比べではレイルズの組に入っていて、勝てば二度目に当たるんだよ。当の本人はレイルズを弾き飛ばす気満々らしいからね」

「ああ、二人目に剣をいただいていた黒髪の大柄な若者か。確かにあれは強敵そうだったな」

 苦笑いするロベリオの言葉に、ヴィゴが納得したように大きく頷く。

「強敵がいる方が、会場は盛り上がるだろうね。では、レイルズとカウリの健闘を精霊王に祈らせてもらおう」

「ああ、精霊王に丸投げしましたね」

 笑ったアルス皇子の言葉にロベリオがそう言い、竜騎士達は揃って小さく吹き出したのだった。

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