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奥殿にて

「お疲れさん。まずは午前中の大仕事が終わったな」

 最後の一人の挨拶を終え、立ち上がって全員揃って部屋から出たところで、ルークが笑いながらそう言って若干放心気味のレイの背中を叩いた。

「誰かさんは、途中から心ここにあらずって感じだったけどな」

「あの、整列していた巫女達のキラッキラな瞳を見たら、こいつがどんな顔をして挨拶する彼女を見ていたか、もう見なくても思いっきり分かったからなあ」

「確かに。彼女達の瞳が全てを物語っていたよな」

 笑った若竜三人組の言葉に、同じ事を思っていた大人組が揃って吹き出す。

「もう、言わないでください!」

 真っ赤になったレイの叫びに、付き添っていた案内役の僧侶達は、もう全員揃ってこれ以上ないくらいの優しい笑顔になっていたのだった。

「しかも彼女は挨拶を終えた後にようやく顔を上げてこいつを見て、冗談抜きで耳まで真っ赤になって見惚れていたもんなあ」

「でもって、我に返って慌てて下がっていたよな。もうあの可愛すぎる反応を見たら、これからはちょっと気軽には揶揄えなくなったよ」

「確かに、あの初心な反応を見たら迂闊には揶揄えないよな」

「確かに可愛かったねえ。ううん、恋って良いなあ」

 廊下を歩きながらのシルフを通じてのルークと若竜三人組の内緒話に、耳まで真っ赤になったレイは、情けない悲鳴を小さく上げて両手で顔を覆ったのだった。



 神殿を出て城に戻った一同は、城の中にある竜騎士の為の部屋でひとまず少し休んでから全員が第一級礼装に着替えた。

 レイはまたしても執事達に取り囲まれてしまい、ひたすら黙って着せ替え人形になっていたのだった。

「おお、普段の制服も見事だったが、第一級礼装もまたこれ以上ないくらいによく似合ってるなあ」

「赤毛が意外なくらいにいい仕事をしているんだよなあ。今まで、殿下のような明るい金髪が竜騎士の白い制服には一番似合うと思っていたけど、意外に赤毛も似合うって事が判明したな」

 笑ったルークとカウリが、そんな事を言いながら揃って拍手している。

 周りで聞いている全員が笑顔で何度も頷いていた。

「えっと、僕には似合っているかどうかは分かりませんが、褒め言葉と受け取っておきますね」

 少し恥ずかしそうにそう言って笑ったレイの言葉に、ルークとカウリは呆れたように顔を見合わせてから揃って吹き出していたのだった。



 話が一段落したところで整列して奥殿へ向かう。

 またしてもレイの立つ位置はアルス皇子のすぐ後ろだ。

 城にいた人達全員からの興味津々の視線を受けて、俯きそうになるのを必死になって堪えて顔を上げ、胸を張って歩いたレイだった。

「よしよし、俯かずにしっかり顔を上げて歩いていたな」

 奥殿の敷地内に入ったところで笑ったルークにそう言われて、レイは情けない悲鳴を上げてルークの腕にしがみついた。

「もう、正直言って泣きそうになるくらいに緊張しました〜〜僕、森のお家へ帰りたいです〜〜!」

 久々の森のお家へ帰りたい宣言に、レイに覆い被さるようにしてしがみつかれていたルークが遠慮なく吹き出す。

「あはは、気持ちは分かるけどな。残念ながら今帰っても、石の家にいるのはシヴァ将軍達だけだぞ」

「ああ、そうだった!」

 笑ったルークの言葉に、レイも吹き出しながらそう言って手を離した。

「って事なので、諦めてしっかり自分の仕事をしてくれたまえ」

 にんまりと笑ったカウリに背中を叩かれ、大きなため息を吐いてから気の抜けた返事を返したレイだった。

「まあまあ、なんて立派な竜騎士様なのかしら!」

 その時、背後から聞こえた声に、レイは慌ててその場に直立した。

 そこにいたのは、皇王様とマティルダ様、そしてティア妃殿下と車椅子に乗ったサマンサ様だった。車椅子を押しているのは、いつもの騎士服姿のカナシア様だ。

「おめでとう、レイルズ。その立派な姿をよく見せてくださいな」

 これ以上ないくらいの満面の笑みのサマンサ様にそう言われて、レイも笑顔で車椅子の前に駆け寄り笑顔で挨拶を交わした。

 それから、言われた通りに車椅子の前に立って、背中側も見せてから改めてサマンサ様に向き直った。

「無事に今日の日を迎える事が出来ました。サマンサ様に一番に見ていただきたかったんです」

「まあ、なんて嬉しい事を言ってくれるのかしらね。でも、私も貴方のこの姿を見るのを本当に、ずっとずっと楽しみにしていたの。この目で見る事が出来てとても嬉しいわ」

 去年の夏のサマンサ様は、かなりお痩せになっていてお加減も悪そうで密かに心配していたレイだったが、最近のサマンサ様は、少しだが頬の辺りはふっくらしているしかなり具合も去年よりも良いように見える。

 今も、膝の上には三匹の子猫がいて気持ちよさそうな寝息を立てている。

「まだ小さいから、直接膝に乗せても大丈夫なの。もうこの子達が可愛くて可愛くて、毎朝起きるのが楽しみなの」

 嬉しそうに目を細めるサマンサ様の言葉に、レイも笑顔で頷き腕を伸ばしてサマンサ様の膝の上にいる子猫達を順番に撫でてやった。

 そのレイの足元では、ふさふさの尻尾を立てた猫のレイが彼が座るのを今か今かと待ち構えていて、不満そうな鳴き声を上げながら彼のふくらはぎに頭突きをしている。

「はいはい、膝に来るのはいいけど、今日は爪を立てないでね」

 案内されて椅子に座ったレイは、即座に嬉々として膝に上がってきた猫のレイを苦笑いしながらそっと撫でてやる。

「レイルズ様、どうぞこちらをお使いください」

 やや厚めの柔らかな麻のひざ掛けを差し出されたので、笑顔で頷いたレイが、膝の上にいた猫のレイをそっと抱き上げる。一礼した執事が手際よくレイの膝に広げてかけてくれた。

「ありがとうね。はい、ここにどうぞ」

 笑ったレイが抱いていた猫のレイを膝に戻してやると、若干不満そうにしていたがすぐにペタリと膝にくっついてくつろぎ始めた。

「相変わらずだねえ」

 苦笑いして、背中の辺りをゆっくり撫でてやる。

「じゃあ、僕は食事をいただくからその間は大人しくしていてね」

 そう言ってもう一度ふかふかな背中を撫でてやり、目の前に置かれたぶ厚い燻製肉のお皿を見て笑顔になったレイは、皆と一緒にしっかりと食前のお祈りを捧げてから嬉しそうに食べ始めたのだった。

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