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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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真っ白な制服と今までの事

「おはようございます!」

「ああ、おはよう。本日の主役の登場だぞ〜〜」

 本部の休憩室には既に竜騎士達が全員揃っていて、笑顔で部屋に入ってきたレイを見てルークがそう言い、全員が揃って笑顔で拍手をしてくれた。

「朝食は食べてきたんだよな?」

「はい、タキス達と一緒にいただいてきました!」

 ルークの質問にレイが笑顔で答える。

「じゃあ、準備は出来ているから、まずは着替えておいで」

「はい! じゃあもうちょっとお待ちください!」

 ルークにそう言われて笑顔で頷いたレイは、控えて待っていてくれたグラントリーの案内で着替える為に別室へ向かった。



「もう、この見習いを示す赤い色の制服を着る事は無いんだね」

 剣帯を外し上着を脱いだところで、レイが思わずといった風にそう呟く。

「そうですね。これから毎日着ていただく制服がこちらになります。本当にご立派になられましたね。ここへ初めて来られた時の、まだ小さかったレイルズ様を思い出します」

 真新しい真っ白な竜騎士の制服を手にしたグラントリーの言葉に、控えていたラスティもうっすらと目に涙を浮かべながらうんうんと頷いている。

「確かにそうだね。本当にあっという間だったなあ」

 着ていた服を手早く脱ぎながらそう呟く。

 下着だけになったところで、ラスティから渡される服を順番に身につけていく。

 貴族の若者であれば着替え一つにしても当然のように執事に任せるが、レイは普段の着替えは基本的に全て自分でする。だが今日は、グラントリーを含めて三人の執事がレイの着替えを手伝ってくれ、あっという間に着替えが終わってしまった。

 最後に、渡された剣帯を身につければ準備は完了だ。

 当然のように部屋に置かれていた大きな姿見に映る真っ白な竜騎士の制服を着た自分を、レイは思わずまじまじと見てしまった。

 皆、そんなレイを見て黙ったまま控えていて急がせるような事はしない。

「うわあ、皆と同じ制服だ……」

 思わずそう呟いて、そっと鏡に歩み寄り手を当てる。当然だが鏡に映る自分も同じようにこっちに向かって手を当てている。

 そのまま言葉もなく鏡に映る自分を見つめながら、レイは今までの事を思い出していた。



 竜熱症を発症して知らないままにオルダムに連れて来られ、意識を取り戻した後に、初めてアルス皇子をはじめとする竜騎士様達と、それからいろんな色の竜達と対面した。

 ただ純粋に憧れの存在だった自分とは住む世界が違うと思っていた竜騎士様が、自由開拓民の子供だった自分でも竜騎士になれるのだと教えてくれた。

 病が癒えて一度は蒼の森へ帰ったが、その後改めて竜騎士となる為の訓練と勉強をする為に、ここオルダムにブルーと共にやって来た。

 全くと言っていい程に何も知らない無知な自分に、竜騎士隊の皆や従卒であるラスティ達、そして身近で世話をしてくれるグラントリーをはじめとする執事達は、本当に何でも教えてくれた。

 どんなくだらない質問をしても、そんな事も知らないのかと馬鹿にされた事は一度もない。

 無知なレイでも分かるように噛み砕いた優しい言葉で、本当に一から丁寧に分かるまで教えてくれた。

 精霊魔法訓練所に通うようになり、マークとキムという初めての友達を得て、初対面だったテシオス達とは本気で怒って喧嘩もした。

 精霊魔法訓練所で、勉強の楽しさと知識を得る事の喜びを知った。様々な精霊魔法も、上手に扱えるようになった。

 ゴドの村にいた頃のように、朝から晩まで汗を流して働く事をしなくてもいい。

 部屋には読みきれないほどの本が大量にあり、質問すれば何でも答えてくれる人達が身近にいるその有り難さに心から感謝した。

 日々の訓練で小さく弱かった身体は、本当に大きく強くなった。

 様々な武術も頑張って訓練を重ねた。これは自分でもかなり上達したと思う。

 母さんを守れなかった、あの時の悔しさと悲しさを思い出す。もう、あんな思いは絶対にしたくないし、身近な誰にもして欲しくない。

 今の自分なら、あの時の非力な自分とは違い、少しくらいは誰かを守れるくらいには強くなれただろう。

 そして、大切に想う愛しい人も出来た。

 きっと彼女も、今日の日を喜んでくれているだろう。素直にそう思えた。

 降誕祭の悪夢を経て、テシオスとバルドとの辛い別れも経験した。

 それから竜騎士見習いとして正式に紹介されてからは、貴族社会の中で、思いもよらないような様々な経験もした。それはもう本当に、色々と。

 でも、今から思えばそれらの一つ一つが、全て自分にとっては普段の勉強とは違う意味での価値のあるものになったと思う。

 きっと、これが経験を積むと言う事なのだろう。

 ジャスミンやニーカ、そしてティミーという大切な後輩も出来た。

 彼らから教わる事の方が遥かに多いが、それでも少しくらいは自分でも教えてあげられる事もあった。

 ここオルダムに来て、体だけでなく、少しは中身も成長したと思ってもいいだろう。



 そして今日から、自分は皆と同じ竜騎士の白い制服を着る。

 この後、叙任式で陛下から竜騎士の剣を賜るのだ。ブルーの守護石であるラピスラズリをあしらったミスリルの剣を。

 これからはその剣を持って、見習いではなく一人の竜騎士としてもっともっと強く、そしてもっともっと賢くならなければいけない。

 この国を守る竜騎士の一人として。

 改めて己に課せられた重責と、そして様々な恩恵を思ってそっと胸に手を当てて目を閉じる。

 一つ深呼吸をしてから、改めて精霊王に感謝の祈りを捧げた。



『レイ、大丈夫か?』



 その時、ずっと黙っていたので心配したのだろうブルーの使いのシルフが現れて、そう言いながらそっとレイの頬を軽く叩いた。

「うん、大丈夫だよ。ちょっと、ここへ来てからの事を色々と思い出していたんだ。ここへ来て三年……本当にあっという間だったね」

『そうだな。だが、この三年間、其方はこれ以上なくらいに頑張ったのだ。今日は、堂々と胸を張って皇王から剣を受け取るといい』

 笑ってそう言ったブルーの使いのシルフは、そっとレイの頬にキスを贈ってくれた。

「うん、ありがとうブルー。これからもよろしくね」

 笑って頷き、そっとブルーの使いのシルフ使いにキスを返したのだった。



「お待たせしました。では行きましょう」

 振り返ったレイの言葉に、ラスティやグラントリー達は笑顔で頷いてくれた。

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